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奇妙な錬金術師は堕ちて来た平凡な転移者です  作者: 弓軸月子


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40 元気っちゃ元気なんですよ?


 この世界で俺の情緒不安定は深刻なレベルらしい。

 ビアンカさんにもマティルデさんにもイーダにも、イーダから話を聞いたマクシミリアン先生からも盛大に心配されてしまった。

 なんで先生にまで心配されているのが分かったかと言えば、ビアンカさんが昨日作った固定電話……固定メール? をイーダに持たせたのだ。

 錬金術師同士なら使えるかもしれないからアイデアの叩き台にって。

 ビアンカさんとしては、素材の融通とか、発注商品が専門外だった時の相談とか、そう言う使用目的を想定していたんだって。

 朝になってそれを持って帰宅したイーダが、先生に商品説明をしつつ俺への心配を吐露。

 そうしたら速攻で固定メールが光り輝いたのである。

 こっちでもルーメンとかいうのかな? まぁ光束計算を間違えていたんだろうね。

 アイドルのライブで物凄く光るサイリウムあるじゃん? とっておきのヤツ。あんな風にボッて光ってた。

 お試し送信である旨と、俺への心配が書かれてた。

 それ自体は非常に申し訳なくもありがたい。

 早速ビアンカさんに頼んでお礼と心配無用の返信。

 速攻で光らせすぎだと苦情が返って来た。

 何回かビアンカさんとやり取りをしていたので、商品化する日は近いのかもしれない。

 情緒不安定なのは分かってるし、こう、体調が弱ってる時の気持ちの揺り戻し? そこは見なかったふりをしてくれると助かるんだけどなぁ。

 それよりケガの頻度の方が問題だと思うんだ。

 この世界基準だと普通って言うけど、少なくともこの半年、この家で俺以外にケガして寝込んだ人は居ない。

 で、そんな事を考えるとそういう事が起こるなんてのはよくある話。

 第一報が入ったのは昼過ぎだった。


「イブキ、具合が悪いところ申し訳ないのだけれど、手伝ってちょうだい」


 強制休養と言われて、ソファで大人しく勉強していた俺にビアンカさんが声をかけてきた。

 薬さえ効いていれば動けるので、すぐに工房に向かう。


「どうしたんですか?」


「国境付近を手薄にするのに国内で暴動を起こす予定だったでしょう? 今朝から国が塔を閉鎖しているの。全身タイツ部隊の動向が国王側に漏れているのだと思うわ。国境の一部で爆発も確認したそうよ」


 本当に全身タイツ部隊って名称は考え直さないといけないと反省しつつ、


「それで、俺は何を?」


と、難しい事は分からないからどうしたらいいのかを聞いてみる。


「エルンストたちが強行突破で戻るそうだから、まず応戦用に武器を作るわ。それからケガ人が出ると思うから薬の準備と、迎え入れの準備ね。今晩か、明日には到着すると思うの」


 なんか大変そうなのだけは理解。

 工房には全身タイツ部隊の人が三人来てて、マティルデさんと打ち合わせ中だった。

 調達する物なんかもある様だ。

 素材を量ったり、製造・複製機に放り込むのは誰でもできるけれど、素材自体の錬成には少しだけコツがいる。

 いくつかは俺にも作れるので、俺はあんまり動かなくて済む位置でせっせと作業を始めた。

 急ぎではあるけれど、必ず一時間に一度、細かい休憩が入る。

 立ち上がって伸びをして、口を湿らす程度に飲み物を飲む感じ。

 俺の薬に関しても、作れなくなると大変だからと、先に作って三日分ほど渡された。

 エルンストさんたちは、元々素材が少なくなっての遠征である。

 ビアンカさんは在る材料で作った後は、商品として完成している物を解体して作り直したりしていた。

 マティルデさんは母屋の家事室で保存食なんかを作っているらしい。

 夕食の時には玄関先に木箱が積み上がり、第一便として運ばれていった。


「ごめんなさいね、疲れてない?」


 夕食の席、そういうビアンカさんが正しく疲れた顔をしていた。


「昨日はたくさん寝ましたし、午前中もゆっくりしていたので大丈夫です」


 食後は第一便が素材を詰んで戻って来たので、在庫チェック。そこに先生からの固定メール改を持ってイーダがやって来た。

 マティルデさんから状況説明を入れている間に固定メール改を見てみたら、ペンタイプの懐中電灯型。

 着信すると光るのかな? 反対側がボタンになってるからこれが送信ボタンとして、どこに書くんだろう?


『ボタンを押しながら話をしてボタンを離せば送信される。相手が受信したら光が消えるよ』


 イーダがマティルデさんとの会話の途中に教えてくれた。

 さては先生、一日中改良してたな?

 せっかくなので送信してみる。


「こんばんは、イブキです。先生、改良版ありがとうございます。受け取りました」


 すぐに光が消えた、と思ったらまた光った。

 ボタンが押し込んだままだから戻せばいいのかな?

 もう一度ボタンを押したら音声が流れた。


『こんばんは、マクシミリアンだ。書くのが面倒で改良してみたんだ。有意義な一日だった』


 おお。固定電話になってる。

 そしてやっぱり一日中改良してたんだな。盛り上がっちゃったのかな。

 ビアンカさんがこっちを見て目を見開いている。

 驚いたんだと思うんだけど、秒で口惜しさに変わったみたいで眉間にシワが寄った。


「緊急対応中でゆっくり確認が出来ないのでまた改めて連絡しますね」


 もう一度送信したら、またすぐに返事が返って来た。


『そうなのか? 忙しい時に悪かったな。連絡をありがとう。無理をしない様にな。何かあれば連絡を入れてくれ』


 やっぱり書くより早そう。

 ただ先生の声で再生されないので、やり取り開始時には名乗り必須かな。

 事情を聞き終えたイーダが、一度先生の家に戻ってから国境付近に偵察に行ってくると言い出した。

 個人的には危ないからやめて欲しいんだけど、他の人たちは全員お願いしますって感じ。


『先に受け取った固定メールの方は一方通行なら外からでも連絡できるだろう? なにかあれば連絡をするよ』


 イーダは学者先生なので普通に字は書ける。

 見送りながら、なんだか嫌な予感がして、母親の愚痴を思い出した。

 ”ああ、嫌になっちゃう、どうしてこう重なるのかしら?”

 泣き面に蜂。踏んだり蹴ったり。弱り目に祟り目。一難去ってまた一難。


「イブキ、私は工房に戻るけれど、どうする?」


 ビアンカさんが心配そうに聞いてきた。

 休んで欲しいけれど、手伝っても欲しい、そんなところかな。


「手伝います」


 嫌な予感もしたし、準備万端に整えておいても損はしないはず。

 備えあれば嬉しいなって言うしね。




***


あ、一応、念の為、

備えあれば嬉しいな → 備えあれば憂いなし

です。

分かってて書いてます。

伊吹君は分かってないかもしれません。

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