04 異世界の形を知る
ウーヴェの家に戻ったら、
『満腹の顔になっている』
と笑われた。
なんか、顔が赤いと満腹なんだって。
酔っぱらってるんじゃないの?
スマホで確認したらもう十九時だった。
青い丸と山吹色の丸は、今は同じ大きさでなんとなく距離が離れている様に見える。
『惑星がどうした?』
イーダに声をかけてきたので聞いてみた。
「あれは惑星なの? なんて星?」
『青い惑星と山吹の惑星』
それは見たら分かる。
「俺のいた世界だと、月って惑星と、太陽って恒星があるんだけど、通じてる?」
『ああ。恒星は自ら発光している星だろう? ここからは見えないが、あるよ』
「今は見えないの? ずっと見えないの?」
『ずっと見えない』
「じゃあ、月でも太陽でもないのかな」
あんまり理科は得意じゃない。一般常識って部分も多いから、こういう時に困る。
「ええっと、まず地球って惑星に住んでいるんだけれど……」
地球が自転して、太陽が東から昇って西にしずんで、月が地球のまわりを回って、とか、そんな話をする。
『うん? それなら月というのは衛星ではないか?』
イーダは興味深く聞いてくれて、質問をしつつ理解してくれた。
答える側の俺が学んでる感半端ないけど。
ウーヴェは話の途中で、駄目だ分からん! と何かを飲んでいる。
スマホで時計やカレンダーを見せて、日時の説明もしてみた。
スマホには驚かれたけど、話が進まないからそれは後廻し。話は止めない。
『それだけ常識が違うとなると、大変かもしれないな』
一通りの説明の後、そう告げたイーダが説明してくれる。
この世界はひし形で、球体でもなければ自転も公転もしていないらしい。
『諸説ある。一般常識としては、大昔に大地が空から落ちて来た、かな?』
ウーヴェもそうだな、と頷き始めた。
自分の常識の話なので参加してくれるらしい。
俺は少しでも理解しようと、カバンからノートとシャーペンを取り出してメモを取りながら聞いた。
ノートには横長のひし形を書いておく。
『落ちて来た大地は四つの惑星に支えられ、一つの天体に引かれて留まった』
イーダが気を遣って、ひし形の頂点を指差しながら言う。
左の頂点を水の惑星。右の頂点を火の惑星。上の頂点を土の惑星。下の頂点を木の惑星。
惑星に引っかからなかった部分の大地は削れて落ちて行った。
だからこの大地はひし形になったらしい。
で、大地の真ん中ら辺のずーっと下に、闇の天体ってのがあって、大地はこの天体に吸われているらしい。
重力かな?
反対に四つの惑星は反発する性質を持っていて、奇跡的に均衡を保っているのがこの世界の状態なんだって。
思わせぶりな青い惑星と山吹色の惑星は、近くにある惑星ってだけで、自転したり浮遊したりしてる。
確かに青が大きいと暗いし、山吹が大きいと明るい。でも完全にランダム。
時間を知るためには使えないし、ただそこにあるだけ。
綺麗だと思うし、見てて飽きないけど。
なんて感想をもらせば、悪い気はしない、と二人とも笑った。
で、太陽っぽい星だけど、闇の天体に対して光の惑星って呼ばれてて、右の頂点にある火の惑星のずっと下にあるんだって。
世界の端っこに行って見下ろせば見れるとか。
落ちたら俺みたいに別の世界に行くのか、そのまま死んじゃうのかは分からないけれど。
『戻って来たりも、死体を回収できたりもしないね』
イーダが小さく呟いた。
そうだね。俺も今のところ戻れる気も死んだ気もしない。
俺は四つの丸の上に横線を引き、横から見た図も書いてみた。
火の惑星の下に光の惑星、中心部の下にはなんとなくイメージしてしまったブラックフォール。
そうしたらイーダが、大地と惑星を固定する様に四本の縦線を引いてきた。
『時折天体の効力が弱くなって大地がバウンドするから、下の惑星と固定する建物を建てたんだ』
は?
『大地はバウンドもしなくなって安定した。建物同士を渡したロープで小屋を吊り下げて、移動手段もできた』
え?
俺は意味が分からないながらも、引かれた縦線を横線で繋ぎ、三角と四角でできた小屋を吊り下げてみる。
『そうそう。でも小屋が違う。これだと空気抵抗が大きい。もっと流線形なんだ』
イーダが俺の書いた小屋の横に、どら焼きみたいな形を書く。
これ、ロープウエー?
言葉が通じないので、交通機関か聞いたら通じた。
じゃあロープウエーで。
で、ようやく時間の話。
『眠くなれば寝ればよし。目が覚めたら起きればよし』
これはウーヴェ。
イーダは苦笑いを浮かべて、出しっぱなしのスマホを示しながら言う。
『共通時間と言うのを設けている国はあるよ。明るかろうが暗かろうが、時間になったらみんな寝たり起きたり働いたりする』
ウーヴェは嫌そうにテーブルをトットーントットーントーンと指で弾く。
『中央だろう? 差別的で閉鎖的で嫌な国。規則規則で息苦しい』
ええ。それは……なんか聞いただけで嫌な国だね?
イーダは苦笑いを浮かべたまま言った。
『連れてくべきかと思っていた国の印象を悪くする発言は控えてくれ』
「へ? なんだってまたそんな国に?」
『イブキは魔法を使えないだろう?』
「使えないと言うか、俺のいた場所には魔法はないと言うか。テレパシー? は使えるかもない人がいる……のか? うーんでもあれって、手品、だよな?」
後半は独り言。
種も仕掛けも分からないし、本当にそんな能力を持ってて、バレると大変だから隠してるとかあるのかな? 分からん。
『小人族は元々火の惑星の上に住んでいた種族が、暑くて水の惑星の上に大移動した。だから火の魔法も水の魔法も使える』
『雲族は水の惑星の上にしか発生しない。発生してから移動はあるけれど、火の惑星の上だと消滅するね』
当たり前だから当たり前に言うのは分かるんだけど、こっちはちょっと理解が及ばない。
あんまり深く考えちゃダメとして、だから何だって話で。
「使えないから中央に行くってのは?」
『中央は魔法が使えない種族が多いから、道具が発展しているんだ。死ぬ気がないなら、情報収集と生きていく術は必要だろう?』
ああ、はい。まだ死にたくはないです。
生きる希望もあんまりないけど。
希望、できるかもしれないし。