39 夜話
凄い事を思い付いたみたいな気持ちだったのでちょっとへこむ。
俺の知識は本当にこの世界ではなんの役にも立たない。
がっかりしないでってビアンカさんも一緒に考えてくれた。
でも考えれば考える程、確かに使う用事はない。
固定電話のメール版だろ?
俺の周りだと固定電話がある家って半々だったし、作ってもすぐに廃れそう。
それでも家にはあってもいいかもね、とビアンカさんが設計図を書いてくれた。
持ち歩く側はホワイトボードみたいな感じの小さ目の板。
書いたら転送ボタンを押して文字が消えれば送信完了。
読み込みは眼鏡って話だったんで、そのまま板に反映できないかと案を出す。
ノートパッドみたいなイメージ。
結局使用する面の保護とかを考えて折り畳みになったけど。
着信したら音かランプが点いたりと、スマホコッチ版の時に話してた機構も役に立ったし、気持ちは無事に浮上した。
夢中になって話していたから、うっかり薬切れで体が悲鳴を上げはじめる。
飯も食ってないし空きっ腹に薬って体に悪そうなんだけど、なにか食べる気もしない。
そしたらマティルデさんが米の調理法を聞いてくれたので、取りあえずおかゆの作り方を伝えた。
塩も隕石から抽出する貴重品なので、かけて食べるのがいいかな。
米一に対して水五とだけ言ったんで、じゃあ三人分で、と一人カップ一杯の米で作って凄い量になってたけど。
俺が明日も食べるので大丈夫ですよと、この時まではまだ笑えてた。
食べられそうな分だけよそってもらったおかゆにスプーンを入れてひと口。
見た目も味も少しづつ違うのに、久々に食べるおかゆに色々と思い出した。
石でも飲むみたいに喉がゴロついたと思ったら涙が止まらなくなった。
半年ぶりの嬉しさと懐かしさ。
おかゆは普段は食べないけど体を気遣われて出される食事で。
米の炊き方を教えてくれた先生の顔。
学校の匂いと友達の顔。
バイト先のバイト仲間の顔。
「大丈夫?」
心配してくれるビアンカさんには悪いけれど、返事はせずに泣きながら時間をかけて食べきった。
全部、全部、飲み込んで、ああ、最後に家でおかゆを食べたのは、父親が二日酔いの朝だったかと思い出す。
伊吹はそれだけじゃあ昼まで持たないわよね? と心配した母親が食卓にあったバナナをこっちに寄せてきたんだっけ。
じゃあ持って行くよって言ったら、まだ食べてる途中だったのに立ち上がって袋を取りに行ってくれて。
父親が、俺が飲み過ぎたばかりにスマン……ぎもぢわる……なんて言って。
「薬を飲んで寝たらいいわ」
感情がぐちゃぐちゃで、なにがなんだかわからなかった。
痛みだけではなく熱もあるので言われるがまま薬を飲む。
装備品を外してくれて、部屋には戻らずにそのままソファに横になった。
ちょっと声をかけるだけなら中央語で話せるからこの方がお互いに楽なのだ。
ああ、最悪だ。
痛いし熱いし恥ずかしいし悲しいし懐かしいし暖かいし取り戻したいし捨てたいし。
夢と現実を行ったり来たりしながらしばらく混乱してたけど、その内疲れて眠っていた。
起きたのは深夜で、薬が効いて痛みもなく、熱はまだ少しある、かな?
霞がかかったみたいに視界が悪かったけど、これは俺が原因ではなくて。
「イーダ?」
俺の顔に巻き付いていたのだろう、ふわっと霧散するみたいに視界がクリアになって、イーダが顔の横に移動した。
『気分は?』
「最悪。喉乾いた」
頭が回ってない分だけ気分はマシだった。
水を渡してくれながら、どうしたんだとかあれこれ聞かれて、思い出した内容なんかをぽつりぽつりと話す。
食べ物がノスタルジーなんだか、ノスタルジーが食べ物なんだか知らないけど、トリガーは絶対におかゆ。
『じゃあ止めておくかい?』
なんて夜食用に用意してくれていたおかゆを示されたので緩く首を振る。
時刻は一時。
すっげぇ寝てたな。
薬が切れるので軽く食べてもう一度寝る様にと、食べ物と薬を用意してくれていたらしい。
果物とかパンとかも置いてあったけど、おかゆを取ってもらって少しだけ食べる。
今度は別に涙も出なかった。
薬が切れれば動けなくなるし、薬が効いちゃうと寝ちゃうんで、このままここで寝るかな。
再び横になった俺に、イーダが昔話をしてくれた。
昔々の大昔。
人間が住む星が落下して来ました。
落下の衝撃で人間たちは半数以上の家族と生活の術を失いました。
落下先の星は四つ。
それぞれの住人たちもまた半数以上の家族と生活の術を失いました。
生き残った人間たちは、まだ息のある人間を助けようと必死でした。
落下先の星の人々は、一体なにが起こったのかと、落ちてきた星へ向かいました。
そして彼らが遭遇した時、落下先の人々は長旅でお腹が空いていたため、人間を襲って食料にしました。
四つの星ではそれは当たり前の事でした。
けれど人間たちは武器を持って応戦しました。
星ごと堕ちて来たので、鉄砲や大砲、爆弾だってあったのです。
食料目的ではなく、ただ家族を殺し住処を荒らしたのはお前たちだったのかと、四つの星の人々は怒りました。
それから長い長い戦いが始まりました。
人間は全ての武器を使い切りましたが、罠などの知恵で戦い続けました。
落下先の星の人々は主要戦力を失っても、次の戦力を育てながら戦い続けました。
人間は四つの星の人々を捕らえ、塀を作らせ、塀の中を中央国としました。
その頃には中央国周辺にいた四つの星の人々は一人もいませんでした。
中央国は資源を求めて四つの星へ向かいます。
長い戦いで食料にも困っていましたが、四つの星はそれぞれが元の生活を取り戻していました。
そして人間が近付くと簡単に殺してしまうのです。
資源がなく、武器も作れず、単純な力では人間に勝ち目はありませんでした。
それぞれの星への出入りを拒まれた人間たちは、四つの星の人々を作り、育てました。
そうして対等な力を手に入れた人間たちは、やがて四つの星と交易を結びました。
頻発する大地の揺れを収める事を条件に、四つの星からそれぞれの資源提供を求めたのです。
それから五つの星は一つになり、五つの国になりました。
お互いが来る者は拒まず、去る者は追わず、そんな約束もしました。
今も五つの国は、お互いに干渉せずに生活しているのです。
身も蓋もない昔話だ。
残念ながらどっちの気持ちも分かる気がする。
話の途中からイブキは起きたの? と降りてきたビアンカさんは、人間側はもっと人間が可愛そうに話すのよ、と苦笑いを浮かべた。
「でもさ、これって人間が宇宙人で侵略者じゃない?」
『向こう側からならそうでしょうね。でもこちら側からならただの迷子よ、迷子』
ああ、うん。そうだよな。俺もそんな感じ。
『取りあえず食べないで様子見をしたら話が違ったのかもしれないね』
いやー、どうだろ。
熊とか虎だろ? 銃とか持ってたら俺だってぶっぱなしちゃうかも。
あと、寝しなに聞くには話が重てぇデス。




