36 成績は中の上でした
頭も回らなくなってきたので翌日に持ち込む流れに。
俺は即寝落ち。
起きたらイーダしかいなかったんでみんなが本当に休憩したんだかは知らんけど。
先生とビアンカさんは俺用の薬を錬金してくれてて、その間にマティルデさんが朝食の準備を済ませていた。
さすがに食欲がなかったので、果物だけもらって薬を飲む。
胸のベトベトも寝ている内に貼り変えてくれたみたい。
ベトベトしない様に布を当ててくれてたんで安心してシャツのボタンも締めた。
指先の再教育? 多分翻訳がなんか違うのかな? それが必要らしくて、触り心地の違う素材を十種類渡されて、適当に触っている様に言われる。
目を瞑ったら自分が何を触っているのか分からないかも。感覚が遠い。
握ったつもりが握れていなかったりもするので、テーブルに置いて撫でるみたいにしながら昨晩の続き。
『どこから話したらいいのかしら……』
思案するビアンカさんに先生が割り込んで来た。
『歴史的昔話は寝る前に、君の昔話は作業中の愚痴でいいだろう。まずは現状を伝えなさい、現状を』
ビアンカさんとしては歴史的昔話から話さないと分からないと思うらしく、そう言われてもと戸惑っている。それだと長すぎるみたいで、先生がため息を吐きつつ話を始めた。
『この国は王政、これは分かるな?』
頷きながら中学の授業を思い出す。
多分絶対王政ってやつだと思う。国王が絶対的な権力を持ってるやつ。ルールとか勝手に決めちゃうんだよな。
『国民は長年国の在り方に疑問を持ってきたが、権力で抑え込まれてきた。それが今、耐えられなくなってきている』
絶対に今まで使ってない単語が出て来てるので、慌ててメモを貰って書きながら話をする。
左手で支えればデカくて汚いけど読める字が書けたので地味に嬉しい。
「あ、それで全身タイツ部隊? クーデター? 革命軍になるのかな?」
相変わらず違いが分からないんだよな、俺。
確かクーデターの方が庶民的なイメージで革命の方が政治が絡むイメージ。
関係ないけど教科書だとクーデタ表記が多い。統一して欲しかった思い出。
理解出来なくてもそうであると覚えるのはそれ程難しくないんだよね。
数学の試験に似てる。
試験範囲内の公式だけ覚えて出題された内容に当てはめれば点数は取れるのだから理解はいらないのだ。
ただそのやり方だと、学校外とか、試験範囲が曖昧な全国テストになるとガクッと成績が落ちる。
結論。理解した方が後が楽。
だから色々聞いてみる。
どうやら全身タイツ部隊は革命軍みたい。
王政の廃止。共和制の確立。この辺を掲げているらしい。
参考までに俺が分かる限りで日本の説明もした。
今の王族が象徴になるのは難しいでしょうね、と無表情になったビアンカさんが印象的。
まぁ酷そうだもんね。
俺の時に助けてくれたのはイレギュラーでついでで、クーデターっぽかったわよね、とビアンカさんは笑う。
王族で働く人たちって、大体家族とかが人質になってるか、王族の庇護がないと生きられないかなんだって。
どさくさに紛れて人質は結構解放したらしい。
すでに殺されていた人たちもいて、そういう人たちは着々と寝返ってて、王宮に留まってくれたりしてるんだって。
ビアンカさんも元王族だけあって、内情には詳しかった。
追放されはしたけれど、幸いビアンカさんが元々住んでいた領地では、人間とその他住人は良好な関係であったらしい。
ダイアンさんと知り合い、情報を惜しげもなく共有し、錬金した物を提供して信頼を得て行った。
「うわぁ。あの全身タイツって……」
『私が考案したのよ。完璧でしょう?』
そうですね。
ちなみにビアンカさん、王族からの情報も得続けるために、それなりに付き合いは残していたんだって。
『疑われていたし、監視も付いたけれど、直接何かをされるわけではないから苦では無かったわ』
現在は完璧に敵対されている状態。
踏み込んだら爆発する仕掛けのお家がダメ押しだったみたい。
三分の二は俺がポヤポヤ捕まっちゃったせいだと思うんだけど、
『保護者の説明責任』
と先生が呟くのでケンカに発展しない内に話を続ける。
あ、一人になったら別途反省します。
考え方とか常識の違いが国内の住人の間にもあるので、王族の相手は王族が、て事で。
最終交渉はビアンカさんが行う予定なんだそう。
命がけで臨むけれど、それまでは捕まらずに生きていなければならない。
逃げる先に選んだこの街は、王族に追放されたり、恨んだりしている人ばかりが住む街なんだって。
だから王族の人はあんまり探りを入れたりできないらしい。
うん。俺はそれ聞いてなかった。
『引っ越しの時にご近所さんとは顔を合わせたでしょう? イブキは家の周りを散歩する以外はマティルデかエルンスト、イーダ先生が一緒だったし、黙って遠出もしないから……』
いや、危なかったかも。元気だったらたまには違う道とかやる方だし。
「犯罪者だから変装って言ってませんでした?」
『一般人の振りした王宮勤めがいないとも限らないじゃない。それに……』
ここの住人にとって、王族は憎むべき相手であり、犯罪者だ。
王族には人間しかならないから、イコール人間となるのは考えるまでもなく。
「両方の意味で変装が必要だったんですね」
先に聞いてたらもう少し気を付けたよ?
一瞬イラっとしたけど、これもタラレバかな。
なにせ俺は言われても危機感とかあんまり感じなかったと思うし。
深呼吸して心を落ち着けてから俺は苦笑いで言った。
「お互い、次は気を付けましょう」
『そうね。なるべく事情は説明する様にするわ』
タンタン、と先生が地面を蹴り、俺がなんだろうと先生を見れば、ビアンカさんが小さな声で言う。
『その、イブキを危険な目に合わせてごめんなさい。それから庇ってくれてありがとう』
びっくりしてビアンカさんを見たら、真っ赤になって俯いていた。
『王族のお嬢様で常に守られ敬われる立場だったからな。言い慣れていないんだろう』
しれっと先生がそんな風に言い、
『朝からずっとお説教されていたんだよ。可哀そうに』
とイーダが教えてくれた。
「か……可愛いは正義なんでオールオッケーです!」
恥じらうビアンカさん、最高です!




