34 懺悔みたいなモノ
当たり前に時間のかかった右手連結作業が終わり、改めてお医者さんに最終確認をしてもらったのは日付が変わる頃。
『必要ならこれとこの薬ね。なにかあれば連絡頂ければ行きますから』
薬の名前を書いた紙をビアンカさんに渡し、マティルデさんからお夜食にと弁当を渡されて、お医者さんは笑顔で帰って行った。
マティルデさんが休憩用に提供してもらった部屋に飲み物とか弁当とか菓子を用意してくれてたんだよね。
だから全員でそっちに移動。
帰るにしても全員疲労困憊だし、軽く胃に入れて仮眠を取ってから帰ればいいよと、先生が追加で提案してくれたのだ。
俺はいつものパターンで発熱してぼぉっとしている。
手に関してはやっぱり治療ではなくて錬金術のそれで、薄っすら繋ぎ目があるだけだ。
術後に神経繋がってる? って指先を針でつつかれた時に痛かったのにはちょっと感動した。
実際手がなかった期間も短かったし、無くても在るみたいな感覚だったんで、手が存在する違和感は感じない。
むしろ胸の傷の方がヤバそうなんだよな。発熱もこっちのせいっぽいし。
痛み止めが切れる前に追加したい。そして寝たい。
培養素材があまっていればガバッと切り刻んで繋いだんだけど、って先生は笑ってる。
話を聞く限り俺が発狂しそうな作業なんだよな。手だけでも相当メンタルに来たし。
しかも、獣傷? は縫うのがあんまりよろしくないみたいで、よく分からないゲル状の何かをべったり塗っただけの状態。
あ、服もマティルデさんが持ってきてくれたんだけど、シャツのボタンが締められないから羽織ってるだけのワイルドスタイル。これ、しばらく服が着れないのでは?
ひんやりするんでイーダに寄りかかってそんな事を考えていたら、トントンと先生が足を鳴らして注目を集めた。なんだなんだ?
『落ち着いてきたみたいだし、少し話そうか?』
わぁ、なんか、耳の痛い話になりそうだなぁ。先生はいつも厳しいのだ。
熱があっても話は聞けるだろう? と言われる前に聞く体勢をとる。
でもそれは俺にじゃなくて、ビアンカさんに向かってて、あれ? と思う。
ビアンカさんは気まずげに先生から視線をそらし、それから俺を見た。
うん?
『イブキが私を庇う必要はなかったわ』
へあ?
『そんな言い方はいけないよ』
イーダが割って入って来た。珍しい。ちょっと怒ってる?
ビアンカさんは俺に言ったと思うんだけど。
前にもそんなやりとりがあったな。ああ、あれはウーヴェとイーダの会話だったか。
「あれ? ウーヴェって、人間と落下物の区別ってしてた?」
思い出してなにも考えずに口に出しちゃったんで、みんなにキョトンとされてしまった。
ご、ごめん。
でも、このまま話そうかな。会話のきっかけに。先生も話そうかって言ったし。
「イーダが今言ったヤツって前にも聞いたなって。堕ちてきた日で会話もイーダのテレパシー頼りだったろ? こっちの常識とか知識とかゼロでさ。確かウーヴェはこっちに人間がいるかもしれない程度の認識じゃなかった?」
『ああ、そうだったな』
中央には普通に人間が王族として存在しているのに、だ。
「興味なさすぎじゃね?」
『種族特性だから仕方がない』
笑う俺にイーダも苦笑いで返してくれる。
「そう。そういう種族特性とか、中央の王政とかをちょっとは知ってきたじゃん? 区別してたのかなって思うのって、そういう知識があるからの疑問なんだよね。今になってようやく疑問になった、みたいな?」
俺とイーダにしか分からない話から始めてしまったけれど、みんな黙って聞いてくれてる。
気が付いたら呼吸が浅くなってたんで一度大きく吸い込んだ。
「……ビアンカさんを庇った形にはなったけど、あれは条件反射みたいなもんだった。俺にも庇うつもりはなかったから、余計なお世話ならごめんなさいだけど。個人的にはビアンカさんがケガしなくて良かったよ」
ビアンカさんが小さく首を振って、助けてくれてありがとう、って言ってくれたけれど視線は合わない。
「はは。痛い思いをしなかった件として聞いときます。あー、マジで、心配とか手間とかかけさせちゃっただけだから、たんに俺がごめんなさいって話ですよね? ビアンカさんの感覚だとあそこで俺みたいに腕を持ってかれたとしても、マティルデさんから腕貰って終わりなんですよね? マティルデさんもそれを良しとするし、むしろ差し出すんじゃないですか? 先生も、依頼されたら請けますよね?」
最後に視線を向けた先生は普通にご飯を食べながら、それはそうだ、って普通に返してくれる。
「ですよねぇ。ならやっぱり余計な事だよな。でも俺ね。どうしても、納得、ってか、なんだろ? 常識の違い? 考え方の違いかな? すっごい前の話みたいだけど、こっちきてまだ半年も経ってなくて。なんか違うって、ずっとどっか引っかかっちゃってる。だから自分の意志で明確に庇ったのは、ビアンカさんじゃなくて子どもの方だったんですよね。あのままだとマティルデさんがあの子を殺すんだろうなって思って抱え込んでた」
眠いんでぼんやりとぽつりぽつり、かなりゆっくり話してた。
するっと、イーダの一部が頭や首の辺りに巻き付いて、熱が上がったのが分かる。
心配ありがと。
「ええっと、俺の住んでた世界って、親の仕事とか状況の話ってあんまり子どもには話さない。職場が変わるから引っ越すとかだと話しはするけど、そのまんま、職場が変わるから引っ越すよって言われるだけ。理由とか聞いても仕事の関係って言われる程度で、本当のところどうなのかとかは分かんない事が多くて」
頑張って喋る。
「だから本当は、ビアンカさんが引っ越すよって時に、ちゃんと話をすべきだった。俺、引っ越し終わってからようやく、ちゃんと自分でやんないとって思ったのに、そのままにしてた」
見て見ぬふりで。保護対象と保護者の関係で。察しても関わらないで。
ズルかった。
「だからね、先生」
先生と視線を合わせて、もう一度大きく息を吸い込んだ。
ビアンカさん側の言葉が足りなかったんじゃないんです。
「ビアンカさんはいつでも説明してくれたのに、俺が聞かなかったんです。俺はちゃんと、人間が住人から恨まれてるの分かってました」




