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03 異文化に触れる


『そう。ウーヴェの村は小人族の村。イブキは少し寒そうだな? $*○を削ってあげよう』


 イーダが教えてくれて、発光する卵型の何かを削り始めた。

 テレパシーでも意味が分からない部分は固有名詞かな。

 発光する卵型の何かは、聞いたら熱源と光源を兼ね備えた石みたい。

 熱光石(ねっこうせき)でどうよ? と思ったら以降イーダも熱光石と言い始めた。

 共通認識って大切なんだな。

 地中に埋まっていて、採掘する職業もあるし、大きな町に出れば売ってもいるらしい。

 石炭みたいな扱い?

 削った熱光石はちょうどカイロみたいな暖かさ。

 制服のポケットに入れてもたいして暖くなさそうなので、カバンに入れる。

 ちょうど背中の真ん中で調整。

 安いリュックサックで生地がペラペラなのが良かった。

 めちゃくちゃ暖かい。

 出発前にはウーヴェが木でコップを作ってくれて、水を飲ませてくれた。

 なんかウーヴェ、水は飲まないんだって。

 猫に玉ねぎを食べさせるなみたいな感じなのかな?

 イーダはそんなに飲むと垂れてしまうそうだから、こっちはお腹を壊すとか?

 それで水はやっぱり魔法らしくて、水と火は村人全員が使えるらしい。

 種族的な問題らしくて、イーダは火は使えない。

 そんな話をしつつ、ウーヴェの村へ向かう。で、ようやく俺の事情の話。


『ああ、聞いた事がある。イブキ以外にも落ちて来た人間がいると思う』


 イーダは相変わらず俺のまま、俺と同じ歩き方で並んで歩く。


「え!? じゃあ、俺以外にも人間がいるんだな?」


 驚いて立ち止まった俺に、少し前を歩いていたウーヴェが振り返って言った。


『私が知っている落下物はかなり昔だ。もう死んだ』


 落下物? しかも死んじゃったの?


『ウーヴェ、子どもにそんな言い方はいけないよ』


 ショックで思考が途切れた俺を見てイーダが怒ってくれた。

 で、ウーヴェが追加で話をしてくれるには、それはウーヴェが生まれる前の話。

 頭から落ちてすでにお亡くなりになっていたらしい。

 落下物には気を付けろ、みたいな、子ども向けの話になって伝わっているんだとか。

 小人族の手足をつかんで引っ張り伸ばしたみたいな形状とも。

 だからウーヴェは、伝承通りの見た目で頭の潰れていない俺に、お前は落ちて来たのか? と聞いていたらしい。

 俺の喉が渇いたってジェスチャーは通じてて、よほど喉が渇いてそれどころではないのだろうと思ったそうな。

 でも口を開けろと言ったら水を手で受け止める。顔を洗うのかと思ったら飲む。これは話にならないと、テレパシーが使えるイーダのところへ向かった、と。

 俺もなんか安心したし助かりましたと、改めてお礼を言う。

 それから、町に行商に出ている村人から聞いた話だと、そういう昔話みたいなのは結構あるみたい。この辺りには居ないだけで探せば存在するんじゃないかと励ましてくれた。

 なんかこの辺は物凄い辺境の地みたい。

 だけど、生物がいっぱいいる地域との行き来は簡単らしいから、俺の思う辺境の地とはちょっと違うのかも。

 村までは歩いて大体一時間。

 ウチの高校、靴は黒指定なだけで、革靴指定じゃなくて本当に良かった。

 働き出したら大変だし慣れるなら今だぞ? と言う親父を、臭いし汚すし育つし私は安いスニーカー推奨だけどあなたのお小遣いで差額を出すなら革靴にするわ? と黙らせて黒いスニーカーを準備してくれた母君ありがとう。

 村は森の中に急にキャンプ場がある感じ。

 人が増えたら木を切って面積を増やすみたいな、そういう開拓方法っぽい。

 今は三十人で暮らしていて、半分はウーヴェと同じ林業家。もう半分は……テレパシーで俺の言語に寄ってるんで、もっと別の言い方があると思うんだけど。まぁ、なんだ、引きニートらしい。

 作業場みたいなところは共有らしく、何人かの村人とすれ違ったんだけど、やっぱり歩くだけで笑われる。

 進行方向に対して完全に横向きで歩いている人もいるんだけど、それは笑わないの?

 フォームじゃなくて、リズムが重要なのかもしれない。

 どうでもいいけど。

 ウーヴェが俺について簡単に説明してくれるので、驚かれたり納得されたりしながらウーヴェの家へ。

 枝を落として整えただけの木で作った箱みたいな家。

 イーダの家と違って椅子やテーブルなんかの家具はある。

 全部小人族サイズで低くて、椅子なんて法事の時に使う正座椅子みたいだけど。

 やっぱり今は冬で、果物はすべて汁になって樽に入ってるんだって。

 非常に嫌な予感がしたんだけど、やっぱりそれは醗酵してて酒か酢だった。

 俺がそのまま飲むのは無理で、一番甘いやつを水で薄めて飲ませてもらう。

 何杯も飲むのが普通みたいで、飲み終えるとどんどん追加してくれる。

 水分なんで腹は膨れたけど、トイレに行きたくなった。

 で、トイレの場所を聞いたら、


「#&%? なにをする場所だ?」


て返って来たので、少なくともこの辺にはトイレって文化が存在しないらしい。

 説明は非常に大変だった。

 どうやら体の構造自体違うみたいで、ウーヴェの種族には排せつ器官が存在しないみたい。

 果実の汁を取った後の種や皮っていう説明でなんとなく納得はしてくれたんだけれど、


「体の中にジューサーがあるのか。大変だな」


と心配気に言われた。

 むしろジューサーはあるのかよ、と思ったけど、同じ用途の別の物なんだろうな。

 体の中のゴミ、と変換されているらしいそれは、少し森に入って済ませる事にした。

 種や皮なんかを集める場所があって、そこで済ませたらいいと言われたんだけれど。

 夏になったら果樹に撒くって話だったので丁重にお断り。

 肥料にはなるかもだけど無害とも限らないし。

 イーダが心配と好奇心でついてきたがったけれど、恥ずかしすぎると説明して一人にしてもらった。

 俺が男でまだ良かったよなぁ。

 などと思いつつ。

 帰り方もわからないし、生きて行くには常識が違いすぎるしで、また泣いた。


『途方に暮れても泣くのだな』


 一人だと思ってたのに、イーダの言葉に涙が引っ込んだ。

 好奇心が抑えられずに限界まで体を伸ばして体を薄めて覗き見していたらしい。

 今からは羞恥で泣きそうなんだが?

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