28 先生
年が明けて早一ヶ月。
そろそろ外出もしたいんで今日は色々出来上がってる俺の装備を最終調整。
利き目側に文字翻訳機能付きになる予定だった眼鏡は、眼鏡からゴーグルに変更している。
直接俺が見るんだとなんかダメで、リアルタイムで撮影して映像をゴーグルの内側で流す感じ。
少しだけタイムラグが生じるんだけど調整できそうかな。
「一拍遅れて行動する人っていますよね?」
とはマティルデさんの意見。
そういう人も存在するので問題ないです。
道具関係とか、食べ物とか、見ても分からない物が多いので注釈も付く仕様。
悪ふざけとも言う。ちょっとハマりすぎて結構時間を使った一品。
で、そのゴーグルはそこそこ重くなっちゃったんで、バイク用半ヘルメット跳ね上げ式ゴーグル付き、みたいな形になった。
俺の聞き耳が右だったんで、右側だけ耳当てを付けてついでにヘッドホンを内蔵。
相手の音声を拾って翻訳して俺にだけ音声を流す機能になる。
イヤホンの予定だったんだけど、一日中付けてたら耳の中が猛烈に痒くなったんだよね。
骨伝導も試したんだけど音漏れが酷いし対面した側が混乱するみたいだしで。
一応固定用の顎紐も用意したけど、普段は冠るだけかな。
「視覚、聴覚を完全サポート! ヘルメット型翻訳機!」
通販番組みたいに言ってみたら、
「分かりやすくていいと思うわ」
と、ビアンカさんに流された。
そうだよね、こっちテレビとかないもんね。通販番組もないし、モノマネしても通じないよね。
ウーヴェの首輪は前側の高さを少し削って、口の近くにマイクとスピーカーを内蔵。
ヘッドホンが右側なのでバランスを取って左側にスマホコッチ版をはめ込める。
ヘルメット型翻訳機と首輪は首の後ろで繋がる様になってて、これは取れないようモジュラープラグっぽい端子の線になった。
スマホコッチ版だと有線じゃないと再現できなかったんだよね。
転送でイケるんじゃないかって思ってたんだけど、同じ装置に転送機能を複数付けが難しいんだって。
俺の世界のスマホにも制約はある。イヤホン繋げちゃうと外音が止まるとか、アプリによっては映像はバックグラウンド再生出来ないとか。仕方ないんだろうな。
転送機能は主に情報の呼び出しに使った。
クラウドの概念なのかな?
翻訳用の辞書とかは俺の部屋の本棚と連動。
なので部屋に居ればいつでも更新できる。
もはやスマホコッチ版はパソコン並に頑張ってくれてるとも言えた。
俺は案出しばっかであんまり役に立てなかったけど、ビアンカさんとスマホを預けてた錬金術師さんはドヤ顔だったな。
この世界の最先端装備だって。
装備と言えば服装も。常春なんで半袖でも過ごせるんだけど、腕の火傷が痛々しいと言われて最近は長袖シャツに右手だけ手袋をしている。
指の部分に詰め物をしているから歩いているだけなら見た目の違和感はなさそう。
全部を装着して家の周りを一周してみる。
隣の犬科っぽい獣人さんと普通に挨拶もしたし、重量的にも問題なし。
工房の受付で依頼書作成とかもしてみた。
翻訳は問題なかったけど、首輪が背もたれに当たってすべてが前に移動しちゃうんでちょっと改良。
ビアンカさんが設計図を起こす横、こっちに来てから伸ばしっきりのボサボサ髪をマティルデさんに、
「切りましょうか?」
と言われたのでお願いする。
片手だと洗うのも乾かすのも面倒だけど、切るのはもっと無理だったんでちょっと困ってたんだよね。
駐車場の端っこに移動していざ。
「え? 掃除機?」
この世界の掃除機じゃなくて俺の世界の、しかもちょっと懐かしめの形状の掃除機が出てきた。
「吸い取りながら全部同じ長さにできます」
獣人ならではなんだろうか?
別にこだわりもないのでお任せした。
髪の毛を吸われたせいか全部立ち上がっちゃって、パンクロッカーみたいな髪型に。
「スッキリしましたね」
マティルデさんはいい仕事しましたみたいな顔してるけど、俺は明日からの寝癖が心配です。
あ、ヘルメット型翻訳機冠るから大丈夫か。
ちなみにビアンカさんには、切りたては触り心地がイイ、と撫でまわされた。
***
そして翌日。
「あの? イブキ?」
俺は今、イーダから紹介された錬金術師、マクシミリアン・ジュニアのあまりの可愛らしさにフリーズしていた。
微笑んでいる様にしか見えないもっふもふの顔はふっくら大きめ三頭身。一般的な枕サイズで、ポケットのついた皮のエプロンを装着し、やや前傾姿勢で二足歩行をしている。
細くちょこんとのびた手足の形状だけが人間ぽい。
その顎の下、撫でたい!
『イブキ……』
するりとイーダが首に巻き付いてきて正気に戻る。
そうだった。
こんなに可愛らしくても今日からは先生なのだ。
「ごめんなさい。可愛くて抱きかかえて撫でたくて!」
考えていた内容が口から飛び出してしまった。
「そ、そう? よく言われます。ありがとう」
多分困惑していると思うんだけれど、相変わらず顔は微笑んでいる様にしか見えない。ちょっと首を傾げるみたいにこっちを見上げている姿が、もう、尊い!
『イブキ、話が進まないから……』
あ、うん、そうだよね?
ゴーレム造りの基礎学習と俺の義手造り、三日に一度二時間の制作含む十回の講習をお願いしている。
「あまり無生物は得意ではないのだけれど、手だけならなんとか」
俺がまとめてきた可動域とか人体構造のメモを、試作品の眼鏡型翻訳機で眺めながら言う。
「やっぱり人型って難しいんですか?」
「私が小さいからね。生物の生成なんかの細かい作業の方が得意なんだ」
単位だとマイクロメートル辺りの話。
確かに俺がやるよりも、先生の方が向いてそうな手をしている。
パパっとメモ書きに注釈を入れつつで、デキる男感ハンパないけどやっぱり可愛い。
「指なんて適当に奴隷を買ってきて付け替えれば早いのに。神経の接続とか割と得意だけど?」
その可愛らしさでえげつない事をおっしゃいますね?
「指をなくした奴隷は困りますよね?」
「……そりゃあ困るだろうね。でもせっかく付けた指が気に入らなくて壊したんだろう? 気に入った奴隷の指ならいいんじゃないの? 奴隷なら本人の望む物を対価にすれば喜んで差し出すから同意の上だろうし」
俺が言いそうな事を先回りして封じた気配。
あれ? なんか思ったよりも怖い先生、なのかも?
***
先生はクアッカワラビーをちょっと大きくして手足だけ人間な感じです。




