27 分岐点
あの後ビアンカさんへはエルンストさんが変わりに説明してくれた。
全員俺の気持ちは分からないけど、認識の違いは理解したと思う。
微妙なトコなんだけどね。
夕食の席でビアンカさんとダイアンさんが、反王族組織として自然繁殖も悪くないのでは? とか真面目に話してたし。
俺に話を振らなかったから分かってくれたと思いたい。
ついでにこれからも俺に話を振らないでもらいたい。
今は深夜。
新居の自室。
部屋の灯りは落としてベッドサイドの小さなランプだけ。
豆電球みたいな明るさでちょうどよい。
俺のためにと部屋の道具は音声で作動する。
スマホに話しかけるのと同じ感じ。
電気がない変わりに魔法とか特殊な資源があるから、文化レベルはある意味では同じなのかも。
発展した方向の違いだな、きっと。
元の世界ではクリスマス前後の時期。
ビアンカさんの見た目から、クリスマスはあるの? と思っていたのだけれどなかった。
そういう面でもちょっと違う。
「……」
寝返りの惰性で転がってベッドから降り、静かに扉を開けて廊下に出る。
新しい家には住居と工房の間に渡り廊下があって、そこの天井には天窓があるのだ。
寝転がりたいところだけど、日本と違って靴とか脱がない生活なので、廊下に寄りかかって空を見る。
深夜だけど夕方みたいな空。まだまだ山吹の丸が優勢。
少しだけ右手が痛くて眠気が来ないので、とりとめもなく色々考えてみる。
人口管理の話とか。
王族には俺も酷い目にあわされてるし、俺の中であれは悪い人たちですって決めるのは簡単。
だけど、反対の意見があるから王族がそうなってるって話で。
反射的に嫌悪感みたいなのが出ちゃったけど、冷静に考えてみると仕方がないのかな? とも思ってしまったのだ。
元の世界でもペットの去勢手術とかあったし、多頭飼育崩壊の特集番組を何度か目にした事もある。
去勢は虐待って言われているのも一応知ってるし、逆に飼い主の責任とも言われてて、答えが出ない感じ。
犬猫でそんななら、ネズミの繁殖力とかだと普通に国がネズミで埋まるよな。
その前に食糧難? わかんないけど。
ハムスターの共食いを思い出してちょっとウッとした。
ああ。初めてビアンカさんの家に入った日、イーダに聞かれたのはどんな言葉だったっけな?
牛とか、食用に飼われている動物と意思の疎通が可能ならどうかって。
なにも言えなかったけど、まぁ食うよな。出されたら食う。
目の前で殺されそうになってて、食べないでって言われたら困りはする。
でも食糧難で死にそうに腹が減ってたら絶対食べると思う。
口に出したら残酷だと非難されそうだから言わないけど、俺の中だけならその回答。
言葉にできなかった理由はもう一つ。
別に腹も減ってなくて、食糧事情にも問題がない場合。
じゃあ今日のところは、とか言って飼育小屋の鍵をかけずに一晩過ごしてみると思う。
前提条件が違いすぎて俺の世界だと当てはまらないけどね。
もうその流れが出来上がっちゃってるなら、急に変えたら人間側も困るだろうし。
食べられない皮をソファとかで利用するとかも、なんなら素晴らしいとすら思ってしまう。
栄養バランス的に食わないと体に悪そうってのは俺が毎食肉を食いたい派だからかな?
ばぁちゃんとかは肉は出されたら食べるけど自発的には食べてなかった。でもめっちゃ健康だった。
そう言う主義の人でも無くて、遊びに行くと食うのも仕事だって唐揚げをたくさん作ってくれた。
元気かな、ばぁちゃん。
お盆に会って、今は年末だから四か月?
ああ、うん。バリバリ元気だろうな。殺しても死なないまである。
「ズズッ」
ちょっと涙腺が緩みそうになって慌てて鼻をすする。
今日までに帰りたいと願った日もそれなりにある。
イーダが同じ家に居た時は落ち込んでるとすぐ乱入してくるから気持ちは楽だった。
今は廊下で一人。
多分一人の時間も必要で。
考え事なんて考えてるだけで何一つ解決しないから。
自分で立ち直って、自分で部屋に戻って寝ないといけない。
「イタタっ」
俺がバカなんでダメにしちゃった部分もいっぱいあるけど、できる事とある物で何とかやってかないと。
知恵と工夫と、根性? あとなんだろ?
まずは義手造りからかな。
***
大晦日はみんなでいつもより豪華な食事をして、街のあちこちから上がる花火を見る。
厳密に言うと花火じゃなくて、魔法でなにかを打ち上げてるらしい。
「人間も魔法を使えればいいのになぁ」
「私もそう思うわ」
なんてビアンカさんも同意してくれたんだけど、
『言葉が通じないのは不便だな』
などとイーダが言うので、これはテレパシーによる翻訳不具合が起きてるな? と詳しく聞いてみた。
結論。原子だか元素と話ができるか触れないと使えないんだって。
なんだそれ?
本人が持ってる能力的なのじゃなかったの?
中央の人々で使えるのはごく少数。
王族関係の獣人、身近なところでエルンストさんやマティルデさんは使える様に調整されたみたい。
言葉としては妖精が近いのかな? 妖精の血が濃いと使える率が高いんだって。
イーダとかウーヴェみたいに、とか言われた。
二人は妖精だったの? ってなったけど。
まぁ、そうなのかもな。
納得がいく様ないかない様な。
元日はお菓子を貰った。本当は交換するらしいから来年は用意しよう。
翌日はお休みで、その翌日からは平日。
義手関係の技術は全くと言っていいほどなくて、辞書用の時間を延ばしてもらってついでに勉強してる。
可動域とか人体構造関係は自分でゆっくりじっくりまとめた。
今はちょっとしたメモ書きにも時間がかかるのだ。
イーダの友だちの錬金術師を紹介してもらう予定なんだけど、年明けは仕事が立て込んでるらしく保留中。ちょうど良かったかも。
「イブキ、昨年中とお願いをしていたのだけれど、やっぱり使えないみたい」
と、貸し出していた複製スマホも戻って来た。
時間を見つけてこつこつ頑張ってくれてたみたい。
機能やサイズ感は勉強になったそうで、こっちの常識に合わせた別の機構で同じ物を作りたいらしい。
俺に許可を求められましても。




