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奇妙な錬金術師は堕ちて来た平凡な転移者です  作者: 弓軸月子


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25 当たり前が遠い


 イーダが人間じゃなくて本当に良かったと思う程度にはゴリゴリに叱られた翌日。

 引っ越しの日。

 俺は役に立たないので邪魔にならないところでイーダと話をしている。

 イーダにもこの引っ越しは関係がない。


「お世話になってる家って前に言ってた錬金術師の?」


 今回は友だちの家に滞在しているんだって。

 毎日顔は出してくれるらしい。有難いけど申し訳ない。


『そうだ。同じ街に家があるからそうした。気にしなくていい。私にはその方が気が楽なんだ』


 確かに。反王族組織関係者よりは前から友だちだった人の方が気は楽そうだよね。

 水の国の家はウーヴェに頼んで来たそうで、しばらくこっちにいられるみたい。

 イーダが水の国に帰った時、何となく俺の保護者ではないんだなぁ、と思った。

 でも俺の中ではビアンカさんが保護者になったって感覚もない。

 気持ちの話だから実際には保護者なんだろうけどね。


「やっぱり俺ってビアンカさんの家に居る感じ?」


 なんか流されるがままそうなってるから聞いてみた。


『嫌なら伝えようか? 私には体の不調は分かってやれない。定期的に通う事にはなると思うよ』


 あ、そういう感じなんだ。効率の問題?


「嫌とかはないよ。俺用に部屋とかも作って貰っちゃってるし。助かる。ただちゃんと話してなかったし、仕事とか手伝えなくなっちゃったから」


 俺の右手、ダイアンさんが拉致してきた王宮医に診てもらったんだけど、また誰かの手を移植するしか手段がないんだって。

 生きている人からも死んでいる人からもそれは無理ってはっきり断って、使える部分を残して切って貰った。

 腐り始めてたんだよな。腐るイメージがなかったんでびっくりした。人体って腐るんだな。

 そんな事情で、親指と人差し指の第一関節までしか指がないんで、今は細かい作業も荷物運びも難しい。

 ただ、その状態にも慣れるんだろうとは思ってる。

 火傷は順調に治ってるから左手をもうちょい頑張ればイケる気はしてる。


『物の価値は人それぞれだからね。イブキに返せる物があるかどうかは本人に聞くといい』


「ありがとう。そうする」


 ビアンカさんにはそれでいいとして。


「イーダは? なんで俺に親切にしてくれたの? 今もさ、結構、大丈夫かこれ? って事に巻き込んでるじゃん?」


 教科書の対価は貰ってるし、それ以外の部分。


『関わった以上死なれると寝覚めが悪い。あとは……気まぐれとついでだな』


 猫拾っちゃったみたいな感じ?

 だったらウーヴェに感謝しなくちゃね。


「あ! ウーヴェは俺の事を覚えてた?」


『ああ。すぐに思い出したな。無事に生き延びたかと驚いていた』


 忘れてたんだな!


「俺そんなにうっかり死なないと思うんだけど!?」


 そんで、なんでそんなに殺したがるの? いや、俺がうっかり死にそうなの? そういえばこっちに来て寝込んでばっかりだけど。


『運が良い……』


 表情が分からないからどういう気持ちで言ってるのか分かんなくて怖いんだよな。

 運が良かっただけで死ぬかもしれない場面はいっぱいあったのかな……気を付けよう。


「イーダの友だちの錬金術師って、ビアンカさんと同じ感じ?」


 ビアンカさんは物専門だなんて言い方をするけれど、その物を作るための物質を生み出す感じの錬金術師。

 で、薬を届けてくれる錬金術師さんは本当に薬にしか興味がないタイプ。

 ビアンカさんが金を生み出す系なら、薬の人は不老不死の妙薬を生み出す系かなって。

 俺の錬金術師イメージだけど。


『違うな。友人は生物を作る錬金術師だ』


「生物を作る? ……ゴーレムとか、ホムンクルスだっけ? 魂とはなんぞや、みたいなヤツ」


 漫画で読んだよ! そんな種類の錬金術師もいたね!


『ああ、無生物を動かす研究もしているが……そうだな。この世界の獣人は全てそれ専門の錬金術師が生み出した作品になる』


 は?


「獣人?」


 エルンストさんやマティルデさん、ダイアンさんが人工物?

 思わず視線を巡らせると、荷運び中のエルンストさんと目が合った。手を振って来たので振り返しておく。


『魂の錬金には成功実績はない。生物と生物を掛け合わせているから人工物ではないよ。ちゃんと生きている』


 人工は人工でも人工授精的な話?

 獣人なら、なにかの動物と人間の掛け合わせなのかな?

 ケンタウロスだっけ、馬と人間のやつ。人魚もそうだけど、なんで上半身だけ人間なんだろ? 逆でもいいよな? 絵的にはちょっとアレだけど。

 あ、ダメなヤツ。


『イブキ?』


 空を見上げて深呼吸。

 うん、大丈夫。


『顔色が悪い』


「うん。一瞬思い出した。でも平気」


 イーダが首の辺りに巻き付いてくる。


「イーダは、燃やされた時の事とか思い出したりしない?」


 別に俺ばっかりが悲惨な目にあったって話でもないのだ。


『思い出さないな。昔は頻繁に燃やされた。日常だった』


「頻繁に?」


『イブキは毎日顔を洗うだろう? 思い出すか?』


「思い出さない。え? 頻繁過ぎない?」


『物騒な世の中だったんだ』


 物騒過ぎると思うけど。

 見上げたままだった今日の空は、山吹の丸が大きくていつもより少し明るい。

 青い丸は小さくて、今日はあんまり青く見えなかった。

 俺が黙ったんでイーダも黙ってたら、ビアンカさんが寄って来た。


『どうしたのー? 首に巻き付かれちゃって』


「また一瞬思い出しちゃって。もう平気」


『そう? なんのお話をしていたの?』


 心配そうに聞いてくるので明るく答える。


「イーダが泊ってる錬金術師さんの話。ゴーレムって……」


 この辺で見られる? なんて聞こうとして。

 俺の世界の、それこそ漫画とかアニメとかゲームのゴーレムを思い浮かべて。

 思い付いてしまった。


『ゴーレム?』


「そう! ゴーレム! ゴーレムの手だけって作れないのかな? 義足って俺の世界にはあったんだけど。あ! 手だから義手か!」


『人工の手? イブキ、やっぱり右手を気にしているのね?』


「いや全然!」


 思わず食い気味に答えてしまった。

 順番が違うのだ。


「気にしてるのはビアンカさん家で働けない事! このままだと役立たず過ぎない?」


 くたりとまだ包帯で包まれた右手を持ち上げて見せる。

 ビアンカさんは困惑顔。


『恩返しとして、イブキに返せる物があるかを気にしているらしい』


 イーダの助け舟に、ビアンカさんはきょとん、と目を丸くして言うのだ。


「イブキが大人になってから少し種を分けてくれればそれで充分よ?」


 は?

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