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奇妙な錬金術師は堕ちて来た平凡な転移者です  作者: 弓軸月子


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22 薬にも毒にもなるモノ


 マティルデさんに水を飲まされ、汗まみれの顔やら首を拭いてもらいながらのネタばらし。


『落ち着いて聞いてください。騒ぐと体に触ります。イーダ先生は生きています』


 マジで?! よかった! マジでよかった!

 ぐっと喜びの言葉は飲み込んだ。

 先に落ち着いて聞いてくれと言われていなかったら叫んでしまったかもしれない。

 まぁ、そもそもあんまり力は入らないし、喜んでもぐしゃっとなって終わったと思うけど。

 淡々と喋ってくれるのでちゃんと聞く。

 雲族って火魔法で一撃必殺が可能なんだけど、その方法だと死亡確認が出来ないんだって。

 小さな核があって、その核と体の水分が少しでも残ってれば死なないし、核は体中のどこにでも移動可能。

 なにその最弱にして最強みたいな性質。聞いてないんだけど。

 あの時俺を突き飛ばした腕に水分を集中させたイーダは、核も移動させていた。

 つまりは俺の顔がびしょ濡れになり、落ちた水滴と核が一緒に胸ポケットにイン。必要最小限の体だったとか。

 核が無くなった制服を着ている側は、ちょっとすると形を保てなくなる。

 火魔法が当たるタイミングが悪ければバレてたって。

 イーダにとっても賭けだったんだな。

 奇跡的なタイミングだったみたい。

 水色の指示はイーダを殺せって内容だったからイーダはそのまま潜伏。

 俺がパニックを起こすし火傷をするしで、逃げ出す隙もなかなかなくて、イーダもかなり精神的に追い込まれたらしい。

 なすがままに体を拭かれつつ、


『今も心配そうに扉の向こ……半分入ってますね……』


なんて言うから扉の方を見たら、扉の隙間から薄っすらと雲。


「イーダ……」


 嬉しくて、安心して、なんとか少しだけ動く左手を持ち上げる。

 イーダはさぁっと部屋に入り込んできて、俺の左手に巻き付いた。


『安心したから泣いてるな?』


 そんな風に言う。

 うん。安心した。


「そっちはちょっと面積が減ってない?」


 俺の全身を包むほどの雲だったはず。


『私も死にかけたからね』


 うん。死んじゃったと思ってた。

 マティルデさんが目元にタオルをあててくれる。

 冷たさに少しだけ落ち着いた。

 それから二人がかりで体を拭いてくれて、着替えをさせてもらって、甘いパン粥を食べた。

 話はもう少し体調が落ち着いてからと、ビアンカさんが錬金してくれた痛み止めと解熱剤を飲んで眠る。

 今度はイーダが部屋にいてくれたから、夢見が悪くても現実とごちゃごちゃにはならなかった。


 どうやら王宮で使われた薬が合わなかったみたいで二日後には動ける様になった。

 ビアンカさんの薬だと痛みは完全には消えないけれど意識が朦朧としたりはしない。

 そういうのって大事なんだなと実感する。

 右手の箱は俺の世界だとギプスっぽくて、しばらくこのままの方がいいって話なのでそのままだ。

 見る勇気もないのでちょっとだけ安心する。

 そのうち向き合わなきゃなんないのは分かってるけど今は無理そう。

 右手の火傷は二の腕の半ばまで、左手は手のひら全部と肘までの間にちょっと大きめのヤツが何ヶ所か点々と。

 処置は済んで経過観察の状態らしいけど、


『人間を診られる医者は王宮にしかいないの』


とビアンカさんが申し訳なさそうに言うので、このままだと綺麗には治らないんだと思う。

 いずれにしても俺は王宮にはもう行きたくないと伝えたら、王宮側も俺への用事は済んだって。

 どういう事?

 聞けばあの日は俺のいた世界の、なにか有益な情報がないか探りを入れる場だったそうで。


『意識が朦朧としている間にイブキがいた世界の話はほとんど聞きだしたそうよ』


 え? 覚えてないんだけど?


『詳しく聞きたい内容ほど、イブキが分からないと答えるから無益と判断したようね』


「ははは」


 乾いた笑いしか出なかった。

 それなら、イーダが死にかけたのも、俺がケガしたのも、全部無意味だったんじゃない?


『そういう人たちなのよ』


 ビアンカさんは呆れを隠さずに言った。

 事前聞き取りみたいなのがあって、イーダはあの日以前にも何度か呼び出されていたらしい。


『私は学者で王宮に情報を提供してお金を貰って生活している。入国時に存在も割れていたから呼ばれたのだろう』


 教科書を複製して原本は献上。俺が子どもな事。詳しい仕組み、たとえば上下水道を当たり前に使っていても、それがどういう仕組みかの理解はない。と説明済みだったそうな。


『王族の側近以外と話をしたので内容を信用されなかったのだろう』


 本当に無意味だったと、怒っている。

 なんか王宮って人間絶対主義なんだって。

 人間以外はみんな奴隷って言い方がしっくりくるレベルみたい。

 実際は人間って王族関係者しかいないんで、王族絶対主義とも言えて。

 だから人間でも俺みたいなのがポッと現れても、側近には道具みたいに見えたんじゃないかって。

 大人と子どもだからじゃないの? とも思ったんだけど違うって。俺には分からない感覚。


「それにしたって純粋に相撲でもとらせたら獣人の方が強いと思うんだけどな」


 そんな疑問への回答としては、武器とか罠で武力制圧した歴史があるって話だった。

 俺の世界でもそうだけど、実際に偉い人を警護している人って偉い人より強い。

 その人が裏切れば簡単に偉い人は殺されちゃうと思うんだよな。

 あ、勿論裏切ったらそのまま捕まるだろうし、国によってはその場で処刑されちゃったりもあるとは思う。

 でも偉い人がみんなから嫌われてたら捕まらないし殺されないんじゃないかとも思うんだ。


『金銭、生活、家族、地位、社会情勢、派閥』


 イーダから単語で言われて、なるほどなぁと俺は分かった様な顔をしてふんふん頷く。

 単純に個人の強い弱いって話じゃないんだね、きっと。

 いや、半分は分かったとは思うんだけど。複雑で。

 で、そんな価値観の人たちに、俺は向こうが用意した通訳を断り、イーダは口答えをした。

 のが、余程気に食わなかったんだそうで。

 相手は子どもだし、イーダを殺して言う事を聞かせよう! みたいな?

 怖すぎる。

 奴隷制とかないから意味不明だったんだけど、本当に道具って感覚なのかな。

 俺物じゃないです! 生きてます!

 ちなみにビアンカさんは追放された身なので普段王宮に関わらなければならない時はエルンストさんが代理。元王族の扱いも向こうには面倒っぽくて。俺を滞在させていても呼び出されたりはなかったんだって。

 今回は俺とイーダが一日戻らなかったので翌日に王宮に乗り込んだらしい。


『二人を返してと言ったら不可能だと言われたの。聞けばイーダは口答えをしたので殺したと言うし、イブキはケガをして動かせないと言われて……』


 その場で口論にはなったけれど、状況的にかなり不利だったので一時撤退。

 例の全身タイツ部隊に応援を要請して準備を始めたところでイーダが帰って来たらしい。

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