表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奇妙な錬金術師は堕ちて来た平凡な転移者です  作者: 弓軸月子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/111

21 説明を求む


 俺が居たのは二階だったみたいで降りるのは一瞬。

 地面に到着しても勢いでそのまま進む。

 後方から警告音なのか、ベルの音が鳴り始めた。

 あれだけ派手に壁をぶち壊したんだから普通に脱出がバレたんだろう。

 マティルデさんは水がなくなってもそのまま走った。


「こっちだ!」


 白い全身タイツにゴーグルを付け、二足歩行している超長身のゴリマッチョが声をかけてきた。

 さすがにこれくらいの言葉は分かる。

 マティルデさんは軌道を変えて全身タイツの方へ走った。

 全身タイツが腰を落としてバレーボールのレシーブをする体勢で待っている。

 え? ちょっと待って?

 門で警備員さんを押さえつけてる全身タイツが三人見える。

 俺はまだ夢を見てるの?

 マティルデさんが走り幅跳びみたいに歩幅を大きくして、多分全身タイツの手に足を乗せたっぽい。


「どっせぇぇぇぇぇい!!!」


 いや、この掛け声は俺が雰囲気で翻訳しただけだけど。多分そんな感じ。

 乗った足を上方に跳ねたのだろう、上空に投げ出されて一気に門を超える。

 落下が始まったらマティルデさんがくるくる回転するので内臓がひっくり返ったみたいになった。

 着地地点でも三人の全身タイツがなにかの装置を持って待ち構えている。

 羽はないけど多分扇風機のすごいやつ。

 ぶおっと下から風が吹いて、マティルデさんはふわりと着地した。

 俺にも衝撃はゼロ。

 すぐ目の前にはビアンカさん家の車が止めてあった。

 全身タイツの人がマティルデさんから俺を外して、後部座席に乗せてくれる。

 びしょ濡れなんだけどそのまま毛布に包まれてシートベルトで固定。

 皆はなにか喋っているけれど上手く聞き取れない。

 遠くでベルの音に混じって爆発音も聞こえ始めてる。

 なにがどうしちゃってるの?

 会話の中からビアンカさんの名前が聞き取れて、車の近くにいた全身タイツの人たちが四方八方に走り去って行った。


「ドンッ! ドンッ! ドンッ!」


 爆発音がめちゃめちゃ近いんだけど。

 そっと首を動かして門の方を見ると、全身タイツに跨ったビアンカさんと、土管を担いで走るエルンストさんがいた。爆発音の犯人は土管。バズーカ砲みたいに煙と鉄球が噴射されてる。なんだあれ。

 建物の一部からも火が上がっている。

 追加で全身タイツも何人か走ってきてた。

 あ、酷い! 門の警備員さんが踏まれてる。

 先に車まで到着した全身タイツの人が運転席に乗り込んで車を急発進させた。

 その場で車は半回転して門の前を横切る。

 ビアンカさんが放り込まれ、エルンストさんは自力で乗り込み、その他全身タイツ隊がしがみ付いた。


「イブキ!」


 ビアンカさんが抱き着いてきて俺の顔を見るけど、そんな場合じゃないんで頬っぺたをひと撫でしてすぐに離れた。

 街中を走りながら、車にしがみ付いていたタイツ隊が一人ずつ飛び降りては路地へ消えていく。

 途中で大きな爆発音が聞こえて、王宮の方角に水柱が立ってた。

 消化活動だろうか?

 俺もちょっと電池切れっぽくて、ぐったりしてきた。

 わかんないけど、助かったって気持ちがあって。

 でも、イーダがいないから話せなくて。

 ボロボロ勝手に涙が出るけど、拭くための手は動かなくて。

 あの時はぼんやりしていたのに、妙にクリアに、水色が首を落とされる場面がフラッシュバックする。

 それから寒いだろうと熱光石を削る俺の顔をしたイーダが燃えた。

 違う。

 そんな場面は見ていない。


「少し、頑張って!」


 ビアンカさんが俺に分かりやすい様にゆっくりと大きな声で言って、今度は横から覆い被さる様に抱きしめてくれる。

 しがみ付いていた全身タイツ隊はいつの間にかいなくなり、運転している人だけになっていた。

 助手席のエルンストさんは多分周囲を警戒して土管を担ぎっぱなし。

 ど真ん中にマティルデさんが立ってて、エルンストさんよりは細めの土管を担いでいる。

 後部座席には俺とビアンカさん。

 やっぱりイーダはいないんだ。

 一度ビアンカさんの肩に顔を押し付けて、息をはく。

 情けないけど泣き止むので精いっぱいだ。

 せめて強がろう。


「ありがとうございました」


 毎日言ってるからこの言葉は発音にも自信がある。

 ビアンカさんは微笑んで俺から離れた。


 ずっと薬を使われていたせいか俺は少しして眠ってしまったらしい。

 逆に薬が切れて痛くて起きた。

 でも頭はぼうっとしている。

 これはあれだ。熱があるやつだ。

 ここがどこだかも分からない。

 全部夢でまだ王宮かもしれないとも思った。

 それならいっそ自宅のベッドの上で長い夢とかならいいんだけど。

 知らない天井ってヤツだ。


「誰か居る?」


 自分でもびっくりするくらい掠れ声が出た。

 しかも誰もいないみたい。

 こつんと頭に何かが当たった。

 ずりずりと頭をずらして見れば呼び出しベル。

 ビアンカさんの工房にあったんで知ってたけど、知らなかったらただの蹄鉄なんだよな。馬のヤツ。

 爪で弾かないといけないんだけど、動かないし痛いしで前歯で叩いてみた。


「トントントントン」


 ドアノッカーが由来らしくて普通にノック音なんだけどね。無事に鳴ってよかった。

 すぐにマティルデさんが来てくれてほっとする。

 そっと扉を開けて、俺が起きてるのを確認してから一度戻っていく。

 あ、そうか。寝返りとかでベル鳴らしちゃってたのかも。

 それにしたって手がめちゃくちゃ痛い。

 箱に入ってる右手だけじゃなくて左手も痛い。

 心臓が両方の手のひらの上にあるみたいだ。

 そういえばあれが夢じゃなければ俺の右手って中指と薬指が水色なんだろうか。

 止せばいいのにそんな事を思うからまたフラッシュバックする。

 一瞬だけ脳裏をよぎってぞわっとするだけなんだから気にしちゃったらダメだな。

 俺、なんでかコピー用紙を持つと紙で指を切るフラッシュバックを起こすんだけど、あれもぞわっと来るんだよな。

 事態の大きさってあんまりフラッシュバックには関係ないのかも。

 今度はちゃんとノックをしてマティルデさんが入って来た。

 なんか頭のてっぺんがポンってなる。栓が抜ける感じ。なんだ?


『具合はどうでしょう? お水と濡れタオルを持って来ました』


 あれ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ