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奇妙な錬金術師は堕ちて来た平凡な転移者です  作者: 弓軸月子


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20 夢みたいな出来事


「っあ……」


 声が出せなかった。

 反射的に伸ばした手が本能的に引っこんだ。

 青い炎に焼かれた指先が痛い。

 もっと勢いよく手を伸ばさないと。

 体を起こして再び手を伸ばしても、もう掴める物はなにも残っていなくて。

 誰かに炎から引き離されて。

 誰かに何かを言われて。

 俺は暴れるしかできなくて。


「……っ放せよっ!」


 ようやく叫んでも、もう炎は消えかけていて。


「イーダ! イーダ!」


 返事なんてなくて。


「放せってば!」


 羽交い絞めにしていた手が一瞬緩んだ。

 俺は無我夢中で手を振り払って、アルコールランプの炎サイズまで小さくなった炎を掴む。


「ジジッ」


 手のひらを焼く音がして炎はすぐに消えた。

 焼けた床だけを残して灰もない。


「っなんなんだよ!」


 心臓が熱い。

 息が上手く吸えない。

 耳鳴りがする。


『こっち、見ろ』


 ネクタイを掴まれて上を向かされる。

 水色が目の前に居て、瞬間沸騰するみたいに頭に血が登った。


「お前がなんか言っ……」


 最後まで言えなかった。

 気絶した経験がないんでそれが気絶だったのかは分からない。

 とにかく俺は意識を失ったらしい。




***




 何度も起きた。

 意識が朦朧としてなにかを考えたりもできない。

 だから元の世界とごっちゃになって、これはもしや初の入院かもとか、アイス食いたいとか、そんな感想も混じる。

 夢に水色が出て叫び声を上げた。

 体は動かなくて勝手に涙がでた。

 頭や脇の下に冷たい感触がくる時もあった。

 冷やされてるのかなと思う。

 誰かが水を飲まそうとしてきた時は動ける限りで拒絶した。

 首を固定されて強制的に水を送り込まれる。

 薬が入っているのかもしれない。

 もっとぼんやりしてきてまた眠りに落ちる。

 なにかを叫んでいた気もするしなにかを聞かれて答えた気もする。

 それが夢か現実かの区別もつかない。

 口が乾ききって咳き込んだ時はなにかを口に放り込まれた。


『ゆっくり。水分補給』


 分からないはずの言葉が分かって思わず聞いた。


「……イーダ?」


 返事なんかなくて、ちょっと間が開いて、


『眠れ』


と目を覆われた。

 どれだけ眠っているんだろう?

 窓もないから時間も分からないと思って、この世界じゃ外を見ても時間なんてわからないんだったと思い出す。

 ビアンカさんによく似た顔立ちの、髪色だけがちょっと暗い栗毛のおっさんが部屋に入ってきて、


『謝罪。殺す』


と言った。

 俺が殺されるの? 謝罪で?

 白衣の獣人二人が水色を拘束して入ってきて床に跪かせている。

 おっさんが斧で水色の首をはねた。

 水色の叫び声と紺色のインクみたいな液体が飛び散って、ああ、夢かと思う。

 死んで詫びろみたいな話? 全然心が動かない。

 なにに謝罪されてるんだっけ?

 飛び起きるほどの恐怖がないせいか、状況は進む。

 今度は水色の手を切断してガラスの板に乗せ、獣人が解体を始めた。

 スプラッタ映画みたいな光景だけど、白衣なんて着ているからか猟奇的な感じはない。

 何かの実験みたいだ。

 見たくもない。早く目を覚ましたい。

 もう一人の白衣の獣人が俺に近づいて右手を持ち上げた。

 ずっと動かせなかった理由が分かる。

 俺の手は箱に入ってて施錠されていた。

 中にはぎっちりと雪みたいな物が詰まっていて箱が開いても俺の手は動かない。

 ああ、水の国の雪みたいな白い地面だ。水の粒だけど砂なんだよね。

 イーダが説明してくれたんだっけ。でも俺は理解ができなくて。その内分かればいいかなって、思ったんだ。

 取り出された俺の右腕は火傷だらけで、中指と薬指は半分なかった。

 ひどい有様だけど痛くはない。

 そうだよな。夢だもんな。

 それでも、欠けた指に切り取った水色の指をあてがわれた時、嫌悪感で絶叫した。

 夢なら今すぐ目覚めてくれ。

 暴れる俺を抑え込んでいるのは虎の獣人で、力では到底かないそうもない。

 虎?


「……ロッテ?」


 掠れた声しか出なかった。

 目が合う。

 一瞬暴れるのも叫ぶのも止めてしまったからこれ幸いと目も口も塞がれて、そのままなにかで拘束された。


『火魔法、指、ない。不便。新しい、付ける』


 聞こえる単語の羅列にぞっとした。

 火魔法で俺の指が無くて、謝罪で殺されて、目が覚めなくて、それならこんな事になった原因は?

 声にならない絶叫を上げたと思う。

 起きたのか眠ったのか、もうどっちなのか分からない。

 覚醒にしてはあまりにも朦朧としたまま、気が付けば部屋には誰もいなかった。

 不快なほどかいていた汗も拭かれたのかスッキリしている。

 やっぱり体は動かなかったが、俺のせいじゃなくて拘束されているからだろう。

 不意にイーダが殺されたのかもしれないと脳裏に浮かんで涙があふれた。

 ぼうっとしてるだけで痛くもないのに、どうして夢じゃないんだろう?

 静かな混乱だった。

 考えが長続きしないから、ぽつりぽつりと思い浮かぶ嫌な単語に揺れ続けた。

 吐くみたいに泣いて、泣き疲れて眠った。

 次に起きた時は誰かに口を塞がれていた。

 ああ、起きたんじゃなくて起こされたのか、と理解する。


「しー」


 口元に人差し指を当てていた。

 静かにしてね。俺が教えたジェスチャーと言葉。

 頷いたら口を塞いでいた手を放してくれる。

 マティルデさんだった。

 俺はベッドに布で拘束されていたみたいで、マティルデさんはテキパキと布を切ってくれる。

 相変わらず痛みはないけれど、体が固まっているのか感覚が鈍いせいか、普通には動けなかった。

 訳が分かっていないけど安心感は段違いで、ぼんやりした頭も少しは動き始めている。

 俺も頑張って体のどこかを持ち上げては、下敷きになっていた拘束用の布を抜き取っていく。

 右腕はまた箱に入ってて持ち上がらない。

 出さない方がいいみたいで、マティルデさんは軽く首を振ると、俺をベッドの端に座らせて、シーツを切り始める。

 尻から腰を覆ってさらにシーツを割くと、俺の前にしゃがみ込んで担ぐみたいにして肩の辺りでシーツを結んだ。

 スリング運搬の状態が近い。

 身長差があるからか追加でマティルデさんの前に出てる足と手もシーツに包まれる。

 最終確認は俺を背負った状態でジャンプ二回。

 ちょっと怖いけど体は大丈夫。

 これも俺がいつか教えたジェスチャーで親指を立ててこっちを見てきたのでコクコクと頷いた。


「行きます」


 宣言したマティルデさんは両腕を上げて壁に向かって最大出力で水魔法をぶっぱなす。

 壁を破壊しつつその水流で建物からも脱出を果たしたのだった。

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