19 想定の範囲外
エルンストさんに車で送ってもらって門の前で別れた。
王宮と呼ばれているその建物の門には警備担当っぽい人が立っている。
ロッテから渡されていた木札を見せると、門を開けて進む方向を示された。
今日も通訳はイーダ。
なんか存在をはっきりさせないといけないらしくて俺の制服と同じ物を着ている。
もちろん複製品だ。
雲ってか、もう、幽霊っぽい見た目? いっそ俺に化けちゃえば? って言ったんだけど、種族も分かりやすい方が望ましいんだって。
俺は俺で制服をちゃんと着るのが久しぶりなんでちょっと首が苦しい。太ったのかネクタイのせいか知らんけど。
ロッテが言うには、人間が少ないから困りごとがあった時のためにも親交も深めておきましょうねってお呼び出しらしい。
正直、一ヶ月問題なく生きられてんだしなんで今更俺が呼び出されてんの? だっる。とは思った。
でもビアンカさんもイーダも俺が決めていいって言ったし、ロッテを困らせるのも申し訳ないしでの、今日。
指定された建物の入り口でまた警備員っぽい人に木札を渡すと、入り口脇のベンチで待てと言われた。
外からの見た目は洋風の城って感じで、中はホテルって感じ。
親戚の結婚式を思い出す。
警備員は何人もいて、全員学ランにたくさんポケットを付けましたみたいな制服着用。
なにをそんなに入れる物があるんだろう?
熊か虎の獣人さんが多いのかな。みんなデカい。あ、ゴリラっぽい人もいる。
通訳機用の辞書作成はまだまだ終わりが見えてないんだけど、万が一に備えて出来ている分で作って来た。
従来品の鳥型のヤツ。
スズメサイズだけど材料の羽根、お買い得品の”自然に抜けたヤツのつかみ取り”にしちゃったんでとんでもない色合い。
従来品は鳥が座ってるフォルムで腹の部分が画鋲みたいになってる。もちろん針先が自分に刺さらない様に受けがあるんだけど、ゴツゴツしてめちゃくちゃ気になった。だから足の部分をクリップみたいにしてブレザーの襟にはさむ俺オリジナル。
普段寝る時以外は付けっぱなしにしている身分証明は今日はブレザーの胸ポケット。一応紐は付けっぱなしで、首から下げてる。滞在許可証は左腕。
翻訳用の眼鏡もビアンカさんが間に合わせで作ってくれた。
これは緊急用で、署名が必要な書類を渡されたら読めないので持ち帰って検討します、って署名しない様に言われてる。
分からなければ読んで貰いますよって言ったんだけど、嘘をつかれても気が付かないでしょう? と言われて確かにってなった。
漫画とかドラマにありそうな話だよな。俺には当てはまらない気がする。
で、書類関係って定型文になってるからそれだけでもって、超簡易版。
装着して歩くのが不可能なのでポケットに入れてある。
上着の内ポケットにはサイフ。こっちのお金をちょっとと、なにかあった時に一人で帰れる用に地図も折り畳んで入れて来た。
電話して迎えに来てもらうとかできないんだよね。スマホがないって不便だよな。
なんか万全に整えさせられ過ぎて逆に心配になる。
『イブキ』
ずっと黙っていたイーダが声をかけてきた。
「んー?」
俺と同じ服を着てるので、そのまま首を横に向ければイーダと目が合っている気がする。
目なんてどこにもないんだけど。
『来たよ』
うん、だから目がないからどこ見てるか分かんないからね?
俺はぐるっと見渡して、ちょっと遠くにある扉から三人が出てきたところを目視確認。
一人は綺麗な空色の髪のなにか。とても人間に近いのだけれど人間ではない、そんな人。女の人なのかな? スカートをはいているけど、こっち、尻尾の関係でスカート履いてる男も多いのでそれだけだと判断が付かない。
一人はちょっとだけごてっとしたスーツを着てるなんか猫科っぽい獣人。挙動がニュースで見た要人警護っぽい。
そしてもう一人は、イーダと同じ雲族なのかな? でも、イーダと違ってとても薄い。
イーダが幽霊に見えるなら、その人は透明人間に見える薄さで、俺の目にはコートがすーっと移動してきている様に見える。
ちょっと怖い。
本当に透明人間じゃないよな?
『雲族だな。今にも消えそうだ』
同感。って、それ大丈夫なヤツ?
びっくりしてまじまじとその動くコートを見ていたら、隣を歩く空色の人に何か言ってるっぽい。
こっちも気が付いているんだから立った方がいいよな?
俺が立ち上がるとイーダも立ち上がって、俺の前に立った。
『繋げるなら一声かけるべきでは?』
言いながら何かをつかむ様にイーダの右腕が持ち上がっている。
空色の人がなにか言っているけれど、残念ながら早口過ぎて聞き取れなかった。
最初に言った言葉は多分”ごめん”だと思うんだけど。
『挨拶をするにも言葉が通じないのではと、向こうが用意した雲族に繋げる様に言ったらしい。謝っているがどうする?』
イーダが通訳してくれた。
どうするって言われたって。
「イーダが通訳するんじゃダメなの?」
としか思えないんだけど。
最近はずっとそうだし。
イーダは少し間を置いてから言った。
『私が通訳をするのでは駄目かと言っている。これは私の意見だが、せめて初対面の挨拶は済ませるべきではないだろうか?』
おお。テレパシーだから俺翻訳なはずなのにイーダが大人な物言い。
俺の中にもそういう語彙って収納されてたんだな。
とりあえず挨拶をって、それだけの意見だったのに会話は続く。
向こうが何か言って、イーダが答えるんだけど、当然イーダの発言は俺には理解できるわけで。
『通訳と保護者としてこの場に来ている。招待状にも記載があったはずだ』
あの木札って招待状だったんだ。
『保護者としてはどうなる?』
どうなるってなに? イーダは保護者だよな?
『この世界ではそうかもしれないが、イブキの世界では違う』
え? なに? 何の話?
『それをイブキの目の前で? 反感しか覚えないと思うが?』
俺がキレそうな事しそうって話?
俺が焦ってイーダの左腕を掴んだのと同時、空色の人の後ろにいた要人警護っぽい人が片腕を持ち上げた。
『イブキ、下がれ!』
ブンッとイーダの左腕が俺の顔めがけて振りぬかれる。
イーダが俺に触ろうとする場合、体の水分濃度を調整して感触を出すんだって言ってた。
当たり前に顔面を強打したみたいな衝撃を受けて俺は後方に倒れ込む。
水風船を当てられたみたいに俺はびしょ濡れだ。
『○□※△☆▲#●!』
空色の人の命令っぽい声色に、要人警護っぽい人が指を弾いた。
「ボッ」
カセットコンロに火が付く音みたいなのが真横で聞こえる。
見上げれば。
イーダが着ていた服は青い炎に焼かれ、シュウシュウと白い蒸気が上がっていた。




