14 非日常的日常の始まり
翌朝は七時には起きた。
しばらくしてイーダが声をかけてくれたので、一緒に階下に降りる。
マティルデさんはすでに朝食の準備中。
晩飯前半戦と同じくハムとチーズに木の実と果物、なにかの酢漬け。
飲み物は、ハーブティーなのかな?
透明なポットに何種類かの草が入ってて、黄色とも緑色とも言える液体になっている。
エルンストさんとビアンカさんは八時少し前に降りてきて着席。
二人してチラシを読んでると思ったら新聞と変換されたから、この世界の新聞は一枚なんだろう。
八時の鐘が遠くの方で聞こえ、各々が食事を開始する。
食前の祈りとかもなさげ。
俺は一応、いただきます、と手を合わせてから。
追加で焼きたてパンの大きいやつが三種類。
マティルデさんが全種類を適当に切って渡してくれた。
イーダは朝は不要だそうで、俺の横であれこれ説明してくれている。
『好きなパンがあれば自分で切って食べろ、と言っている』
とか。
今日からはこっちの共通言語を聞きつつイーダに内容を教えてもらうのだ。
通訳機を作ると言ってもそればかりに頼っていたら壊れた時に困る。
必要最小限のコミュニケーションは取れるまで学んだ方が良いと大人たちの意見。
ごもっともなんだけど、英語も苦手だったので自信はない。
そもそも勉強の仕方から教わった方がいいレベル。
でも。
俺は全然わかってなかったんだけれど、イーダもこの国の人間ではないので滞在許可証が必要で、期限もあるんだって。
仕事もあるからずっと一緒には居られないとも。
それはそうか。
俺の親だって、俺が学校に行っている間は仕事をしたりして各々で生きている。
今頃は捜索願でも出されているだろうか。
ただの家出だと思われている線もなくはないけど。
あっちで見も知らない子どもを拾ったら警察に連絡して状況説明してそれっきりだろうな。
きっと正常じゃないと思われて病院とか保護施設行きだろう。
ここの人たちは文句も言わずに俺の面倒を見てくれているのだから親切で慈悲深い。
俺も頑張らないと。
食後はマティルデさんの片付けを手伝って、エルンストさんの運転で塔まで買い物。
エルンストさんは仕入があるみたいで塔から別行動。
一時間半後に待ち合わせをしたので、慌てて生活用品を購入する。
塔の三階がショッピングモールみたいになっていて一通りそろったのは助かった。
教科書と引き換えに現金を貰っておいて良かったとイーダへの感謝は募るばかりである。
衣類は元の世界の物とあまり変わらなかった。
ただサイズやら尻尾やら羽根やらの個体差があるから、見本で飾ってある小さいサイズから選んで、生地と型紙を買うんだって。
俺は裁縫とか無理だけど。
マティルデさんが簡単だしやってくれると言うのでお言葉に甘えて色々選ぶ。
普通のパンツとTシャツに毛糸じゃないタイプのカーディガン。この辺が普段着かな。
万が一王族に呼ばれた時は制服でいいと思うんで念の為Yシャツも一枚。
パジャマってか部屋着? 的なのが見当たらなかったんでハーフパンツも欲しいかな。そのまま寝られるヤツ。あとは下着と靴下、ハンドタオルなんかも必要か。
もちろん心配になって途中で確認している。
「一着作るのにどのくらい時間がかかるんですか?」
『サイズ確認に三十分、どれでも一点三分』
イーダの通訳が信じられずに三回確認してみたけど返答は変わらなかった。
生活雑貨関係に至ってはさらに分からないのが多くて、目覚まし時計とか、欲しい物を伝えてマティルデさんに選んでもらった。
追加のハンガーって言ったら材木と岩石を購入してたんでこっちも作るんだろうか? 謎が多い。
地味になかったのがひげ剃り。
明らかにひげですって太いのがまばらに生え始めてるんだよなぁ。
みっともなさそうなんで仕方がなく毛抜き? を購入。
単語がなんか違うのかも。イーダにヒゲの事を聞いても詳しくなさそうだったし。その内発見したら購入しよう。
エルンストさんと再度合流して帰宅。
購入品を片付けている間に昼食の時間。
昼食はなんだっけ? グラタンみたいなヤツ。平べったいパスタの。
取り分けてもらって食べてみたけど、思ったのと違う味。
スパイス? ハーブ? 塩が少な目なのかちょっと物足りない味。いっそしょう油をかけたい。
当たり前にパンも出てきたので、焼きそばパン的に挟んで食べたら驚かれた。
ビアンカさんはやっぱり御貴族様なのか、ナイフとフォークで優雅に食べる。
エルンストさんとマティルデさんはフォークのみ。
……箸なら作れそうだし、作るかな、箸。
午後はそのままビアンカさんの工房へ。
一階は調剤薬局みたいな造り。
待合室っぽいところに既製品、受付があって、奥に調剤室のあの感じ。
もちろん置いてある物がなんだかは俺にはさっぱりわからない。
午後はエルンストさんが一階で事務作業をしつつ既製品の販売。
俺たちは二階でノートを広げて、通訳機用の辞書作成、の前に作戦会議。
一応勉強と翻訳を兼ねて喋った内容は各々紙に書きながら。
で、基本的な通訳機は二つの言語を指定して、話しかけた言葉を訳して話す鳥型の石なんだって。
小型の通訳ロボットみたいなイメージ? そういや塔の通訳さんも鳥だった。
言語も国によって違うというよりも種別特性による声帯の違いが大きいんだとか。
犬の翻訳機とか思い出した。
ワンワンって吠えてるだけなのに腹減ったとか、遊んでとか、そういうやつ。
あ、そうか、気にしてなかったけど通訳機って変換されてたのってそういう事か。
と今更ながら。
翻訳機の方がしっくりくる。
それでスマホの存在を思い出したんで一通りスマホの説明。
電気自体はあるけれど、充電とかして再起動は無理そう。
でも翻訳機能はとても興味深かったみたい。
これから作る新通訳機の形が見えて来た! と興奮気味のビアンカさん。
『取りあえずスマホは何台か複製しましょう。素材がなにか分かるかしら?』
「複製? 素材?」
聞き返す俺にきょとんとした顔をするビアンカさん。
『同等の素材と量があれば同じ物はいくつでも複製できるでしょう? さっきスマホは誰でも持ってるって言っていたわよね?』
え? 作るの?




