13 今できる事、明日やる事
全員でいただきますって掛け声とかはなくて、食事はなんとなく進む。
ワインとハムとチーズに木の実と果物、なにかの酢漬け。
その後でメイドさんがパンとなにかの肉を煮込んだのとサラダを持ってきた。最後にイーダ用に加湿器みたいなヤツを稼働させて席に着く。
なんとなくメイドさんは食卓を一緒にしないイメージがあったから、一緒に食べるみたいで良かった。
イーダは天井で本当に雲みたいになってるけど。
上から声が降ってくるし、家の中に雲があるしで、なんか面白い。
『食べられそう?』
「はい」
好き嫌いは特にないけれど食べ慣れないので戸惑いつつ。
少しだけ話を聞く。
少しだけってのにも理由があって、俺用の通訳機を作るにあたり、辞書を作成しなければならないらしい。
こちらの常識を教えつつ単語数を稼げば精神的にも楽だと思うと、ビアンカさんが言ったのだ。
遠い目をしていたので結構過酷な作業なのかもしれない。
なので、取りあえずの雑談。
酒の話はその前にしたんだけれど、よっぽどアルコール度数が高くない限り、何歳でも気にせず飲むっぽい。
こっちでは成人は種別によってかなり違って、人間なら十六歳辺りではないかと、かなり曖昧な返答。
お祝いみたいのないのかな?
エルンストさんは複数体の動物のイイとこ取りをした種別だそうで、五歳には今の見た目だったって。
「複数体の動物?」
なんでも大昔の錬金術師が獣人を作ったそうな。
声帯用にオウムだとか、力が強くなる様に熊だとか、とにかくそんな感じで掛け合わせて作ったとか。
俺が思ってた錬金術と違う……。
オウムの遺伝子のせいで毛がカラフルな人が多いみたいで、ビアンカさんの家は物凄く地味だってご近所に噂されてるって。
エルンストさんは熊みたいな大男で、全身銀灰色。目元がシベリアンハスキーっぽい。眼光が鋭いって言うの? 金と緑のオッドアイ。
メイドさんはマティルデさんと言って、多分、チンパンジーとかの猿っぽい種族なのかな?
俺には珍しく見える紺色の髪は短く、瞳の大半が黒目。
身長が低いせいかとても可愛らしいけれど、人間より少し上にある耳も大きくて正面を向いているし、異様に手が長い。
ちなみにエルンストさんはTシャツにスラックス、マティルデさんはモスグリーンのワンピースに薄い黄色のエプロン姿。
普段夕食の時間帯は全員パンイチらしいんだけど、俺が昨日取り乱したので着替えずにいてくれたそうだ。
パジャマでもいいので着ていてほしいとは伝えさせてもらった。
『パジャマで食事?』
と変な人を見る目で見てくるけど、俺の感覚だとパンイチで食事の方が変な人である。
そしてエルンストさんが早々に酔っぱらってずっと笑っていた。
どうも木の実や果物を食べる動物は、夏場に発酵して酒になってしまった物を飲む関係で酒の分解ができるっぽい。エルンストさんはその成分が薄いのかな。
マティルデさんが途中から魔法で水を注いでいたのが印象的だった。
なんか母を通り越して祖母っぽい反応。
で、話は戻って俺の通訳機作り。毎日午後に二時間位でって話になった。
取りあえず明日は午前中にマティルデさんと買物に行って、必要な生活用品をそろえる予定。
そうこうしている内にロッテがやって来たので解散になった。
エルンストさんは工房の自室に、マティルデさんは片付けてから自室に、ビアンカさんとイーダは俺の付き添い。
なんだか申し訳ないけど、家主と通訳なので気にしても仕方がない。
まずは俺が使わせてもらってる客室で診察。
特に問題はなかったけど、寝過ぎで生活リズムが狂っちゃってるので今晩眠れる様にと薬を貰った。
それからティモが言っていた滞在許可証の腕輪。
銀細工みたいな平たい腕輪で、いくつか色石が埋まっている。
これで医者にもかかれるらしい。
「え? ロッテが診てくれるんじゃないの?」
びっくりして思わず聞いたら、
『今はただのお節介だからね。塔まで来れば勿論診るとも』
と笑われた。
そういえばそうだった。
アクセサリーに縁がない生活だったので物凄く気になる。
滞在許可のブレスレットと、身分証明のネックレスもあるけど、これって付けっぱなしにしておくの?
『寝る時は外したら?』
とはビアンカさん。
『ここ以外では身に着けておいた方が賢明だろう』
とはロッテ。
無くしたり付け忘れたりが怖いので、なにか入れ物を用意しようと、明日の買い物リストに付け加えておく。
リストこれから作るんだけど。
ズボンは二本もあれば足りるとして、シャツとか下着って何日分あればいいんだ?
などど気がそれていたら、
『イブキの事は上層部まで話が上がっているから、その内王族からの事情聴取があると思う』
とか言われた。
は?
『そうよね。純粋な人間なんて王族にしかいないのだもの。通訳が必要な件と、私が通訳機の制作に着手している件をそれとなく伝えてくれるかしら? 今のイブキにはこちらの常識もわからないとも伝えて欲しいわ』
ビアンカさんが答えると、ロッテはカリカリと宙を描いた。
考え事?
『うん。そうか。今のイブキに王族に入るか聞いても分からないね?』
「えっ? 俺は一般庶民だよ?」
またびっくりして大きな声になってしまった。
俺の感覚だと人間だからって理由で王族に入るのは理解ができない。
由緒正しい血筋とか、覚悟がないとダメだと思うのだ。
分からないけど、なにか責任とかあるだろうし。
ロッテはがさがさと小瓶を取り出して、
『申し訳ないけれど一応血液を採取させてもらっていいかな?』
と、俺の血を小瓶に摂った。
トイレと同じ仕組みだと思うんだけど、適当な場所に小瓶の蓋をカチカチしただけで採血は終わり。
痛みとかも全くなし。
で、その血で人間の証明というのをするんだって。
遺伝子検査かな?
『嫌ではないの?』
ビアンカさんに心配そうに聞かれたけれど、特になんともないかな。
「今日採取したら手間が省けるんでしょ? なら別になんとも」
知識はないけど、父は病院の検査で売る程抜かれたって言ってたし、多少は抜いても平気なはず。
『確かに手間が省けるから助かるよ。ありがとう』
ロッテからそう言われてなんだかホッとした。
替えの湿布を貰って、その日はようやく風呂の許可。
風呂って言ってもシャワーしかなかった。使い方も分からなくてイーダに助けてもらう。
凄くスッキリしたし、ほぼ一日寝てただけなのに、ロッテの薬のおかげで寝られそうな気配。
もしくは思っているよりも疲れてたのかな。
『寝られそう? じゃあ私も部屋に移動しようかな』
「うん。イーダ、」
『?』
「今日もありがとう。おやすみなさい」
『ああ。おやすみ』
扉が閉まる音に合わせてまぶたが落ちた。




