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奇妙な錬金術師は堕ちて来た平凡な転移者です  作者: 弓軸月子


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12 一日を棒に振る


 パニックになった俺を見てビアンカさんは慌てて服を着てくれた。

 駄菓子菓子! ……チョコもあったしアイスもあったよな……駄目だ……思考が小学生になっちゃってる。

 違う違う! だがしかし、だ!

 健康な高校生男子をなめないで頂きたいのだ!

 ちらっと見てしまった光景がもう何度も何度も脳内で再生されてる!

 まともにビアンカさんの顔が見られない!

 そんなパニックは二人に伝わってしまうんだけど、意味が分からないみたい。

 ビアンカさんは嫌われてしまったかしらと落ち込み始めた。

 でもその顔を! 俺は! 見られない! もごもごと否定するのがやっとである。

 結局イーダが間に入る形で就寝の準備をして諸々明日に持ち越しになった。

 風呂もあったけどダメだって言われたんで、タオルで拭かせてもらって、顔も洗って、着替えも貸して貰った。

 ゴミ袋から頭と手を出すみたいな簡素な服で、一般的なパジャマらしい。

 二階の客室には落ち着くからとハーブティーまで置いてあった。

 顔も合わせずに申し訳ない限り。

 全部木作りでペンションって感じの客室は、ベッドに机と椅子、洋服をかけるラックが置いてある。

 ハンガーもあったので制服をかけて、ついでにスマホを取り出したんだけど電池切れ。

 イーダが壊れたのか? と聞いてきたんだけど、フル充電とは言え二日は経ってそうだし、電波がなかったから減りが早かったんだろうな。

 雷って摩擦だったっけ? 雲だし電気とか作れたりするのだろうか? と思ったが、蓄電の知識とかゼロなので無理だろうな。電圧とか違うやつで充電すると壊れるって言うし。

 そんな事を考えて、あ、冷静になってるじゃん、と思うと思い出してしまう訳で。

 もう今日の所は寝よう。

 天井と窓に熱光石が取り付けてあって、部屋は十分に明るいんだけど、これ寝るときはどうするんだろう?

 ベッドに寝転がったら、


『寝る? じゃあ私も部屋に移動するよ。電気を消すね。おやすみ』


とイーダが熱光石を消してくれた。

 あれ? 電気って変換されたから熱光石じゃなかったのかな?

 ベッドの、知っている感覚に、安心してそのまま眠りに落ちた。




***




 寝すぎてたんで、眠りが浅かったんだろう。

 気配を感じて目を覚ますと、部屋の入り口に奇妙に手の長い短髪の女が立っていて目が合った。

 驚いて飛び起きたら、その人も同じタイミングで驚いてもう部屋から出ている。

 なにか大声を出していて、すぐにイーダが来てくれた。


『寝てから十四時間経っているが、普通だろうか?』


 俺には結構頻繁にそんな日がある。日曜とか。でも一般的ではないし明らかに寝過ぎだな。


『先程のメイドが昨日まで着ていた物を洗ってくれたよ』


 それは助かった。

 昨日は着ていなかったが、ジャケットも掛けておいたので一緒に洗ってくれたみたい。

 ついでにポケットにねじ込んでおいた靴下と下着も洗って再びねじ込まれていた。

 ちょっと申し訳ない気持ちになる。

 とにかく着替えるか。

 その間にイーダからこれまでの話を聞く。

 まず昨日はあの後すぐに解散になって各々部屋で休んだそうだ。

 さっきのメイドさんと工房の従業員が一人居て、工房の三階に住んでるって。

 朝七時になるとこっちの住居に来て朝食を準備して、八時の鐘で全員一階で食事をするルーティン。

 ビアンカさんが解散前にメモで泊り客がいる旨書いといてくれたんで、イーダは人の気配がしてすぐに階下に降りたみたい。

 一応イーダが俺の部屋にも声をかけてくれたらしんだけど、全然起きず。

 朝食中に仕事を終えたロッテが来てくれて、診察もしてくれたけど、それでも起きず。

 ビアンカさんは寝てる時に触られれば起きる、と主張したんだけど。

 同じ人間でも特性が違うかもしれないからと、生存確認だけしたそうな。

 蹴っ飛ばしても起きないと母親が言ってたのは本当だったんだな。

 大げさな、と思ってたんだけど。

 で、湿布みたいなやつはそのままなんで、ロッテは今日の夜にまた来てくれるらしい。

 もう夜だけど。悪い事をしたな。

 俺がいつ起きるか分からないので、イーダは一日家にいてくれたって。

 教科書を研究したり、ビアンカさんから本を借りたりして過ごしていたらしい。

 ビアンカさんは通常通り錬金術師のお仕事。午前中は注文の商品を作って午後は研究をしているんだって。

 錬金術自体がちょっと俺にはよく分からないんだけどね。鉄を金? 不老不死の薬? なんとなくあり得ない事ができる人って印象。

 ちなみにメイドさんはビアンカさんの指示で俺の服の洗濯、乾燥、アイロンまでして、部屋に戻しに来たところで遭遇したっぽい。

 何ならしばらく起きないかもって話もしてたらしいので、とても驚かせてしまったみたい。

 着替えて一階に下りたら、昨日ビアンカさんが移動した部屋に呼ばれた。

 壁はあれどドアなし内装の食堂? だった。

 奥に台所があるのかな。

 イーダがまだ繋いでなかったんで、色々言われてるけど何が何だか分からない。

 ビアンカさんが座っていて、もう一人の従業員さんは何かを口に咥えつつグラスに飲み物を注いている。

 メイドさんが台所っぽい部屋からこちらを覗いているけれど、ニコニコしているので怒ってはいないかな?

 イーダに言われた席に座ってから、イーダが他の人とも繋いでくれた。


『良く眠れたみたいね! ロッテが二十時に来るって言うから、それまでに食事を済ませましょう』


 ビアンカさんが楽しそうに言う。


「自分でもびっくりしました。今何時ですか? 腹は減ってるんで助かりますけど……」


 きょろきょろと部屋を見渡して時計を発見。

 やっぱり二十四時間時計。十八時? ヤバ過ぎんだろ、俺。他人の家で。この状況で。

 くうっと腹もなる。


『子どもなんだっけ? ワインは飲める?』


 従業員さんが口に咥えてたのは食べ物だったみたいで、モグモグしながら聞いてきた。

 自己紹介とかしなくていいんだっけ? されたけど俺が分かってないの?


『ごめんごめん。ビアンカ工房の営業兼使いっ走りのエルンスト』


 ワインの、樽? 瓶ではないんだけど、なんか入れ物をフリフリ従業員さんあらためエルンストさんが言う。


「あ、イブキです。よろしくお願いします。ワインって酒ですよね? 飲めないってか、飲んだ事がないです。法律で未成年の飲酒は禁止されてるんで」


 物凄く大きくて熊っぽいんだけど、顔はキリっとしてる。


『何歳から成人なの?』


「十八からっすね」


『今何歳?』


「十六っス」


『じゃああと二年は一緒に飲めないのね』


 残念そうにビアンカさん。


「あ、飲酒は二十歳からです」


『『『え?』』』


 ですよね。

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