110 番外編)いつかのために
イーダの友だち、雲族のメリさんが遊びに来た。
一階のソファに防水布のカバーをかけておもてなし。
加湿は足りているらしいけど、せっかくなので桶に水を入れ、イーダが好きな花の花びらを浮かべてみました。
どうですか、わが家!
雲族の人が遊びに来たのは初めてなのでちょっと張り切った。
ごゆっくり、と俺は日常に戻る。
二人はのんびりと話をしている風だけれど音は聞こえない。
表に居る小人族の方がうるさいな。
あれ? なんでいるんだ?
「ウーヴェ?」
気になって表に出たら、五人で円を作ってクルクルと回っていた。
俺の事は無視だからなにかの儀式中だろうか?
中心に謎の鉱石が置いてあって、熱心になにか語り掛けている。
なんだっけ、なんか歌いながら鍋が煮えたか確認する遊び。
あれに似てる。
最終的に鬼ごっこになるんだけど、あの前振りはなにか意味があるんだろうか?
結構ジェスチャーが盛り込まれてたからそういう情操教育的ななんかだったのかとか、ぼんやり考えていたら、
「ヲイヲイヲイ!」
と一斉に手の甲で鉱石を叩き始めた。
ツッコミか!?
と突っ込みを入れそうになったところで、ドロッと鉱石が上から液状化。
地面に落下する前に、パコっと虫取り網で虫を捕まえる動作でそれを桶に入れて、また中心に置いて、仕上げのダンス。
タッタッタッと相変わらず謎にリズミカルなんだけど、なんなの、ひとん家の前で。
しかも最後にピカッと発光したんだけど。
光量ヤバすぎ。
目が潰れるわ!
「イブキ、これでジューサーを作ってくれ!」
クラクラしていたら目の前に桶を差し出されていた。
あ、良かった。
発光は収まってる。
「なんだ、なにか祝い事?」
小人族の人は小人族にしか興味がないけれど、その埋め合わせなのか誰にでも情が深い。
助けたりしても誰をってか何を助けたのかも覚えてなかったりするけどね。
ジューサーは生活必需品だから、結婚とか、別の村に移り住む時なんかによく頼まれる商品だ。
いつもどこからか素材を調達してくるとは思っていたんだけど、まさか作っていたとは。
恐るべし小人族。
「村で預かっているのが居るだろう? 番になって今度出て行くのだ」
「村で預かっ……って野生の血が騒いじゃった兄ちゃん!?」
「そうだ! やはり野性の血が騒いで美しい小人族に魅かれたのだ!」
「あいつは美しいから仕方がない」
「美しい髭だ」
「荷物もいっぱい入る髭だ」
口々に小人族の嫁になる人? の事を褒めてるっぽい。
まぁ、めでたいならいいけれども。
「……成り立つのか?」
思わず呟いたら、
「成り立たせるのだ」
「成り立つに決まっている」
「なせば成る」
「成り立たねばありえん」
「成り立った」
と同時に返ってきて、ああ、うん。それならいいんですけど。
でもどうやら大変だったっぽいね、と思う。
初めての制作ではないので、すぐに作るよと言えば待っていると口々に。
対価分、畑の面倒を見るとジャンプして意欲を示しているので、ほどほどにね、とお願いして家に戻る。
『ウーヴェたちかい? なにかあった?』
「ジューサーの依頼。すぐに作るけど、対価に畑で作業してくれるって言うから少し賑やかになるかも。すみませんね」
後半はメリさんへ。
『賑やかなのは好きよ』
それなら良かった。
『なにか祝い事かい?』
「うん。野生の血が騒いじゃった兄ちゃんと村の誰かが結婚したみたい」
へぇ、とイーダは少し驚いたけれど、
『異種族間婚姻? それは素敵ね!』
と、メリさんはちょっと乙女が止まらないご様子。
「色々大変そうですけどね」
なんとなく苦笑いの俺。
あなたたちは?
なんて聞かれるのが怖いのでさっさと作業部屋へ移動してジューサー製作に取り掛かった。
雲族なんでバレバレだから、クスクス笑われている気配は感じたけどね。
いや、さ。
寿命とか全然違うし、普通に子どもができる訳じゃないし。
こっちの世界での結婚は、相棒とかバディみたいな意味合いが強いのだ。
そういう意味ではもう俺とイーダはそういう関係ではあると思う。
けじめ? 節目? で、公表するって考えた時もあったけど、寿命が長いイーダにとっては、俺の一日にも満たない期間の話じゃない? って思った。
巣から落ちた小鳥を拾い、家に持ち帰って翌朝死んでいた、みたいな話なのだ。
一日、一日かぁ。って。
仮に。仮にだよ?
寿命問題を体の載せ替えで延命する、にしても、何年脳が持つのかとか。
俺とイーダの間に子どもを作ろうと研究を始めたとして、実験用に何体の俺が必要かとか。
なにかと俺の倫理観とか道徳観とかに触れる部分が多くて。
考えては止めて、みたいな状態が続いている。
生きたいと思った時に後悔しても遅いのは分かってるし、普通に事故って死にかけるし、なにかしなくちゃって気持ちもあって。
焦るけど。
寿命で死んで、一時は悲しませるかもしれないけれど、また新しい始まりになればって。
そう思うのだ。
俺がこの世界に堕ちてきて、錬金術師になったみたいに、志なんてなくてもなんとなくで時間は進んでいく。
俺が寿命とか思ってても、死にかけたら先生とかビアンカさんとかが来て、脳を入れ替えたりしそうだし。
あの時みたいになにかの事故でイーダが先に死んじゃう場合だってなくはない。
今が楽しければそれで、なんて刹那主義でもないんで、倫理観とか道徳観に触れない程度に実験はするけどな。
チラリと先日カリンバ開発した分離機の中には雪砂が入っている。
雲族の亡骸が少しでも含まれていれば、研究、実験は進められるだろう。
イーダこそ空から落ちてきて、地上の生物になればいいのにと思う時があるのだ。
いつかイーダが、もう誰も見送りたくないと、泣く日が来たら。
その時は地上に落とせるように。
……。
こういうちょっと仄暗い部分をイーダが見て見ぬふりをするから俺も増長しちゃうんだよなぁ。
出来上がったジューサーを手に階下に降りれば、メリさんが俺の形を模して立っていた。
「お上手ですね」
誰にでもなれて誰でもない、雲のシルエット。
『イブキはどんな形状が好きなの?』
形状、形状ね。
「覆われるよりは巻き付かれる方が好きですね」
片手を差し出したいけれど今はジューサーで両手がふさがっているので、少しだけ持ち上げて腕に隙間を作る。
するっとイーダが体を伸ばして、腕の隙間に巻き付いて、
『お仕事お疲れさま』
と笑った。




