11 ホームステイ先が決定
それからビアンカさんとロッテは、人間の打撲後に起こるかもしれない体調不良の話をした。
ぶっちゃけ一日経ってるし全然平気だと思うんだけど、俺の意見はあんまり信用されない。
なんでだろう?
言語もだけど、生活習慣とかの問題もあるんで、気が付いたらビアンカさんの家にお世話になるって決まってた。
意見を挟む間もなく。
『錬金術師の所に連れて行く予定でしたから助かりました』
とイーダ。
『言葉が通じないんじゃどうにもならないでしょう? 翻訳機を作りながら今後の話もできるわ』
とビアンカさん。
『保険証が発行できないと医者にかかれない。心配だし明日の終業後に寄るよ』
とロッテ。
『それなら身分証明は問題ないし、滞在許可証も用意しておくよ』
とティモ。
トントン拍子だ。
建物を出る前にちょっとだけ困った。
首輪は誤解を招くので外せって。
カバンに入らないし、持って歩くには邪魔だし、でも捨てたくはない。
『ウーヴェならまた作るから捨てろと言うよ?』
って、イーダは言ってくれたけど、理由はなんとなくなんだよな。
だから仮にウーヴェがそう言ってくれたとしても、俺には手放せそうにないのだ。
返事に困る俺に、ティモから助け船。
『$%+はどうだ? 廃棄予定の物がある』
俺の知らない単語は雨カッパ? フード付きポンチョ? カッパを想起させる派手な蛍光緑だけど、水も弾くかな?
話を聞くに乗客の忘れ物で保管期限切れみたい。
量産品を購入してそのまま忘れたっぽいから、持ち主に気が付かれる事もないだろうって。
フードの下の方を首輪の内側に入れ、上からクシャっとフードを降ろしたらちょうど首輪が隠れた。
それでようやく塔を出る。
「……」
こっちの塔は俺の感覚で五階位までが台座っぽい。
真ん中から頂上が見えないほどの高い高い塔。
装飾が凄いな。
世界遺産とか、建築物とか詳しくないから分からないけど、図鑑に載りそうな雰囲気。
塔を見上げる俺に、
『車を回してくるからあそこで待ってて』
とビアンカさんが歩きながら指差した先には、駅の待合室みたいな小さな小屋。
三角屋根の木で出来た小屋で、中は壁に沿ってぐるっとベンチが置いてある。
なんか、日本ではないけど、地球っぽい。
もちろん塔に出入りしている人々は人間ではなくて、動物だったり、海洋生物だったりする。主要駅の割にパラパラっとしか出入りはないけど。俺らが足止めをくってたからかな?
地面は石畳って感じで歩道と車道も分かれていた。
塔の周りは円形にたっぷりと土地を取ってて遠くに街並みが見える。
イーダに促されてベンチに座って待ってたらビアンカさんが戻って来た。
またアザラシかと思ってたけど、車はちゃんと車。
でも骨組みだけのジープ? タイヤが妙に大きい。
エンジン音とかもしないし、スーッと走るんだけど、ちゃんとタイヤは回ってて、奇妙な感覚だった。
一方通行みたいでくるっと塔を回ってから街に入っていく。
あんまり高い建物はなくて、同じ様な赤茶の三角屋根の家が規則正しく建ってた。
西洋風の街並み? この車も左ハンドルだし。
街に入ったら出歩いている人はほとんどいなくて、人口が少ないのか聞いたら今は深夜の時間帯だって。
『二時』
ビアンカさんがトントンとハンドルの右側にある計器を指差した。
速度計と思ったんだけど、あれ? 時計?
文字盤に書かれた数字は俺の知ってる数字と一緒。
あ、二十四時間計なのか。六時の位置に十二時と書いてある。
「一日は二十四時間?」
『そうよ』
水の国と変わらず空はランダムで、今は夕焼けの時間帯みたいな薄暗い空。
街灯で調節されるらしく、これ以上暗くはならないって。
朝の八時と夜の八時に鐘が鳴って、一般的にその間に街に出てる生活をしてるみたい。
もちろん例外は存在してて、たとえばさっきの塔。俺が台座だと思っていた部分に宿泊施設とか、日用品とかが購入できる店なんかも入ってて二十四時間営業だそうな。
ちょっと見たかったかな。
『落ち着いたら連れていってあげる』
くすくすとビアンカさんに笑われた。
思考が繋がってるのもなんですよね。
あれ?
「……イーダ? なんで俺の気持ちはダダ洩れなのにそっちの思考は俺には分からないんだ?」
急に気が付いてイーダを見たらクルクルと首に巻き着いてきた。
『口に出さないだけで伝えたがったり聞きたがったりするからだろう』
そうかな? なんか煙に巻かれてない?
ビアンカさんはまたクスクス笑って、
『可愛いわね』
と言っ……てない! 口動いてなかった!
そんなドライブは三十分続いて、ビアンカさんの家に到着。
住宅街の中、他の家と同じ様に三角屋根の家。
俺が一軒だと思ってた家は三軒で一軒分だった。
真ん中がガレージ。二台は停められそう。
中にはそれぞれ玄関扉みたいのがあって、左はビアンカさんの仕事用の工房で、右は住居。
夜も遅いしと取りあえず住居の方に入る。
三LDKマンション住みの俺にはびっくりするほど広い、居間?
イーダの家みたいな異世界感はなくて、ソファとローテーブルがドーンとある感じ。
壁に棚と洋服をかけるラックみたいなのがあるんだけど、全部木製。
多分お洒落なんではなかろうか。
『座ってて』
とビアンカさんが隣の部屋に移動したけど、俺は服とか薄汚れてるし、この豪華な革張りのソファに座る勇気がでない。広すぎるし、土足だし、全然落ち着かない。
ふと、イーダが言った。
『驚かないんだな』
「なにに?」
イーダは相変わらず雲のままなので、顔色とか伺えないから、それがどういう意図で発した言葉なのかが分からない。
『そのソファは水の国でイブキを役所へ連れて行った牛の皮だし、さっき貰って着ている服は食堂のアザラシの皮だ』
ええ! 牛皮? 高級品だ。
『お前の世界でも人間はそうなのか?』
なにを聞かれたか分からなかった。
『住人扱いされなかったら皮を剥いで殺したり食べたりするのか?』
嫌悪を含まない純粋な質問だったんだと思う。
だから余計に分からなかった。
牛は繁殖させたり飼ったりしてるし、食べるために解体される時に皮も取るんじゃないかと思う。
元々人の扱いはしてない。
意思の疎通も出来ないし。
アザラシなんて尚更分からない。
動物園や水族館にいればそれなりにいい暮らしはしている様な気もする。
でも、もしもイーダみたいなのが居て、何を言っているかが分かったら?
言葉を返せずにぐるぐると思考していたら、
『お待たせ! 軽くなにか食べない?』
とビアンカさんが戻って来た。
複雑な気持ちのままビアンカさんに視線を向けて、思考は吹き飛ぶ。
「ふふふふふふ服を着てください!!!!!」
ビアンカさん、パンイチでした。




