106 番外編)忙しい一日
早朝に目が覚めた。
スッキリ目覚めすぎて二度寝をする気にもなれず、着替えて階下へ降りる。
『おはよう。今朝は早いんだね』
イーダは人間で言えばぼーっとしてる状態が寝ている状態で、物音には敏感。
起こしちゃったとも言うのかな?
「おはよう。寝たのが早かったからな」
一昨日の夜はなんだか寝られなくて、昨日はちゃんと寝ようと思って、頑張って昼寝をしないようにして、無事早めに寝られた。
ここのところ寝過ぎる性質が落ち着いてきたのも大きいかな。
めっちゃ寝ても十時間前後で、半日寝てるとかはここ一年はない。
それでも寝過ぎだって笑われるけど。
せっかくの早起きなのでちゃんとした朝飯にしようと、培養肉と培養卵を製造・複製機に放り込んでから畑に野菜を取りに行く。
レタスやトマト、キュウリ的な、ポイ物であって微妙に違うけど似た様ななにかを一人分だけ収穫。
収穫してすぐに食べる贅沢か、冷蔵庫に保存できる贅沢か、そんな事を考えつつ土壌水分計も確認。
飯食ったら水やりしとくかな。
「イブキィィィィィ!!!」
そうそう。
俺の日常あるある。
寝過ぎた日は起きてても暇だったと思える一日で。
つまりその逆の、早起きしてゆとりのある朝を迎えた日は。
「はぁぁぁぁぁぁ」
取りあえず収穫した野菜を入り口に置くだけ置いて、ついでにイーダに声をかける。
「イーダ、なにかあったみたい。ゴーグルを持って来てくれる?」
忙しい一日の始まりである。
早朝に俺の名前を叫んだのは近所の村の子ども三人。
なんか若い兄ちゃんの野生の血が騒いじゃったらしく、俺こそがボスだ! とかって、深夜に村長宅を襲ったんだって。
どっから突っ込んでいいのかわからん話だな。
野生動物と違って村長が一番強いわけでもなく、ましては卑怯にも寝首を掻いたわけであり。
村長の首をひっつかんで、今日から俺がボスだ! とボス宣言する兄ちゃんに、腕に自信のある村人が総攻撃。
お前がボスになれるなら俺がボスだ、だの、バカにボスは無理だ、など、攻撃と口撃が飛び交う乱戦にもつれ込んだ。
「で、なに、お前ら巻き込まれちゃったの?」
吹き飛ばされたり物が降ってきたりしてちょっとケガをしている。
数ヶ所毛刈りをして傷薬を塗れば済むレベルなのは不幸中の幸い。
村長の骨はあちこち折られ、野生の血が騒いだ兄ちゃんは半殺しにして山に捨てたと言う。
いやホント、どっから突っ込めばいいの?
『自力で村まで戻って来れたら何事もなく受け入れるんだよ』
とはイーダの注釈。
ライオンのお父さんが息子を崖に突き落とすみたいな話?
あれ、谷だっけ? 娘でも落とすの? 聞かなきゃ良かったな。
俺、遭遇したら普通に助けちゃうと思うし、うっかり探しに行かない様にしないと。
で、子ども達は俺に村長の治療と、壊れた家の修復の手伝い、それから食料を分けて欲しいと言いに来たらしい。
「待て待て。村長は分かったけど、家が壊れて食料もないってどういう状況?」
子ども達が口々に燃やしたとか、グチャグチャになったとか、人が多いから足りないとか、わぁわぁ騒ぐ。
ああ、うん。
なんとなく事情は察した。
元気そうなので、子ども達に畑で収穫してもらって、イーダにはウーヴェの村に応援を呼びに行ってもらう。
多分、丸太をソリ替わりに降りて来るから、そのまま建材になるかな。
子ども達が運べる分だけ収穫が終わったら車ごと村まで移動。
半壊まではいかないけど結構ひどい有様だった。
燃えて、消化した時に上がった煙を見て近隣の村の人も集まって来たらしい。
ほぼ同時にウーヴェたちも来たから、呼ぶ前から向かってたんじゃないかな。
村長は思ったより死にそうだったので、慌てて車に運んで麻酔で眠らせる。
車からどんどん食料を降ろして貰っている間に、
「素材足りないんで取ってくる」
とか言って村長をゴーカートに放り込んで毛布で隠してこっそり移動。
家の辺りまで戻ってカリンバで治しちゃう俺。
説明が面倒だから外傷だけ治しただけだけど。
血が足りないとかはそのままだから、しばらく安静にしてもらわないとで申し訳ないけど、俺には都合が良い。
さあ村に戻るか、って移動しようとして、ぐったりと死にかけている若い兄ちゃんに遭遇した。
まぁ、ですよねって感じだけど。
思ったより近場に捨てたのは温情なんだろうか。
野性味が残ってたら俺に勝ち目はないので、十分距離を置いて声をかける。
「事情は聞いてる。抵抗しないって約束してくれるなら助けるけど、どうする?」
返事がないから一瞬もう死んだのかと思ったら、返事ができない程度にはボッコボコだった。
温情じゃなくて面倒になったとかじゃないよね?
村長と一緒にするわけにはいかないので、しばらく目を覚まさなそうな村長を毛布に包んでそこら辺に放置。
兄ちゃん本人にも頑張って貰いつつなんとかゴーカートに乗せてイーダの家まで戻り、ちょっと悩んで電話小屋に寝て貰った。
イーダもいないのに倉庫に寝かせる訳にもいかないしね。
倉庫から熱光石を少し拝借しちゃったけど。
それから畑から収穫にはまだ早い野菜類を取ってきて、顔の近くに配置。
「車ごと村に移動してるからなにもできないんだ。できるだけ早く戻るけど、死にそうになったらここ押して。俺と話ができるから」
ついでに電話も配置した。
だって手とか骨が粉々っぽいし。顔面でなんとかするしかないと思うけど、顔面は顔面で原形をとどめてない感じ。
見てると俺の具合が悪くなりそうだし村長も心配なので急いで戻る。
村長を拾い、村に戻ったら、村の中央で炊き出し中。
あ、もう昼か。
ゴーカートを片付けるついでに村長を一階のソファに移してイーダを呼ぶ。
「……という訳で、村長のケガを治してるふりして兄ちゃん用の錬金してていいかな?」
報告と相談は大切だ。
『ウーヴェたちが張り切っているから村の復興支援は問題ないと思うよ。ただ、村人に何人かケガ人がいるけれど、そちらはいいのかい?』
う。
良くはない、よね?
電話小屋の兄ちゃんは原因でその結果が目の前にあるのだ。
誰が悪いかも明白で。
「分かった。こっち優先する」
言葉には出来たけれど、感情は押し殺しきれなくてイーダの方は見られなかった。
全員まとめて治しちゃいたいのをぐっとこらえて、痛み止めとか、骨折箇所に合わせてギプスを作成しつつ、村を回る。
村長の方はもう治ってるところ申し訳ないけど、一度保存液に漬けさせてもらった。
保存液漬けなら生きてても問題なし。
箱には点滅する目覚まし時計をつけてなにか稼働している風を装って、起きない様に麻酔もばっちりだ。
夕方の炊き出しで子ども達が収穫した分は食べつくしたみたい。
収穫してまた明日の朝に来ると車の移動に理由ができたのはラッキーでした。
木材を取りに戻りたいウーヴェに、イーダがいつのまにか話を付けていて、若い兄ちゃんも引き取ってもらえることに。
小人族以外の人を認識しない特性を生かした素晴らしい采配である。
大急ぎで家の近くに戻り、兄ちゃんに出来る限りの処置と、薬とギプスを作って、ウーヴェを見送ったのは日付が変わる頃。
それからビアンカさんから電話も来てたから話をしつつ、ケガ人の素材を培養液にどんどこ漬け込む作業。
培養液も足りないし、俺だと作ったパーツと付け替えるのが難しいので、近隣の生命系錬金術師に応援要請も必要だ。
大変そうだからとビアンカさんが引き受けてくれて、朝一で対応してくれるって。ありがたし!
血やらホコリにまみれていたのでそれからイーダと風呂に入り、なにか食べてから寝ようかと家事室に入って思い出す。
朝に製造・複製機に放り込んだ培養肉と培養卵がベーコンエッグになって冷え切っていた。
『冷えてるね』
「冷えてるな」
食うけど。
相変わらず一日中薄暗い水の国。
もうすぐ起きてから二十四時間。
寝ないとまだ今日が終わっていない気がするけど、もう今日かな。
また忙しくなりそうだと思いながら、一時間だけ寝かせて! と、車の運転席に座り目を瞑った。




