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奇妙な錬金術師は堕ちて来た平凡な転移者です  作者: 弓軸月子


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103 番外編)雨


「明日は雨が降るから明後日に雪砂を払いにくるよ」


 近所の村の人が畑で水やりや収穫をした帰り際にそんな事を言った。

 俺は近所の村まで買い物に出ていて戻って来たところ。

 天気予報じゃなくて、天気予告。

 そういう種族の人がいるらしく、雨の前々日位に伝え歩いているらしい。

 俺やウーヴェが住んでいる辺りまでは来ないから貴重な情報だ。


「了解! ありがとう! 温まる系は収穫した?」


 各々が、生姜とか唐辛子みたいな位置づけの植物を持ち上げて、ばっちりだぜ! みたいな仕草。

 イブキも気を付けてねー、なんて帰って行った。

 元々は錬金の交換として畑の世話をしてもらってたけど、旅の間の世話もお願いしているから収穫物はその対価だ。

 道具関係はもちろんだけど、肥料とか種とか水撒き用の水代なんかは俺が出してるし、それでちょうどかなって。

 喜んで了承してくれたし、俺も自分のためだけだとサボっちゃうけど、他人も関係しているから頑張れたりして丁度良い。

 畑の上にはシートもかけてあって対策も万全。

 横から入り込んだり、シートとシートの間から入り込んだ雪砂は、雨が止んでから小さなほうきみたいなものでゆっくり払う。

 風石とか使って吹き飛ばす道具とか作ろうかって提案もしたけど、こっちの人は便利道具が好きではない。

 仕事をとるなとか、暇を持てあますだとか、楽をすると体に悪いとか、理由はいろいろ。

 例えばビアンカさんみたいに、もっと錬金術が好きなら無視して作るんだろうけど、俺はそう言われちゃうと手が出ない。

 うーん。

 元の世界なら空いた時間に動画見たり漫画読んだりゲームしたりしたけど、こっちには無いからかな?

 娯楽が流行れば時間を捻出したくなって、便利グッズを欲しがったりするのかもしれないけど。

 音楽は危険行為だし、俺には文才も絵心もなく、説明もできないのだから考えるだけ無駄か。

 出しっぱだったゴーカートも車に格納して、普段フルオープンな電話小屋の扉を閉めて、家に入る。


「戻ったー」


『お疲れ様』


 イーダは居間でお仕事中。

 ワサワサと本が積みあがって、紙が散乱している。


「明日は雨だって」


『そうらしいね。体を温める食材を一通り置いて行ったよ。家事室に置いてある』


「え? ホント? ありがとう」


 村人よ。なんで何も言わないんだ? サプライズか? お礼が言えなかったじゃないか。

 買って来た物もあったからそのまま家事室に入る。

 スパイスとかハーブとか薬草なんかのカテゴリの食材で、明日のお茶用って量が置いてあった。

 ついでに分けてくれたのかな。

 親切なのか子ども扱いなのか微妙なラインで俺も微妙な気持ちになるんだけれど、ありがたくはある。

 乾燥させた方が扱いやすいのもあったから、いくつかは製造・複製機に放り込んで夕飯の支度。

 食べたらいつも通り二人で風呂に入り、寝て、明け方には雨が降りだしていた。


『もう降っているよ』


 体が温まるお茶を淹れて窓から外を見る。

 霧って言うか、煙る? そんな感じで、見通しは悪い。

 イーダは今日は一日仕事をするのだと、なにかの計算をしていた。

 俺は何をしようかな?

 できる事ややらなければならない事、やった方が良い事は結構ある。

 でも、やりたい事はない。

 そういうぼんやりした気持ちが景色とリンクして、精神的にダメな感じがヒシヒシと。


「二度寝しようかな……」


『そう言えば最近は長時間眠っていないね』


 呟きにイーダが返事をくれた。


「それは頑張って起きる様にしてるから」


『なぜ?』


「なぜ? ……健全な精神と肉体のため?」


『それは頑張った方が良いね。けれど今日は頑張らない?』


「あー、なるほど?」


 どうやら俺にとって、普通に頑張れない日らしい。

 よし、考えるより動こう。


「散歩行く!」


 割と無謀な行為なんだけれど、察してくれたのか、イーダは装備を万全にね、と外出を了承してくれた。

 大げさかもと思ったけれど、作って良かった世界の果て装備。

 家の近くに、どうしてだかいつも気になってしまう気になる木があるからそこを目指す。

 俺が三人で手を繋いでようやく一周するサイズの太い木で、色を聞かれたら茶色なんだけど、青っぽい不思議な木。

 積もった雪砂を踏み固めながらのんびり歩く。

 翻訳する時に雨だと思ったこの世界の雨は、降る地域によって内容が違う。

 中央の雨は普通に雨だった。

 傘はあれどまず使わなくて、獣人さんたちは建物に入る前にブルブルして雨を落とす。

 水がかかって文句を言ったり、なにやら叫びながら走ったりと、雨の日は賑やかだった。

 水の国の雨は何もかもを奪うみたい。

 空から落ちてくるのは雪砂で、吸い込むと肺に悪いからと住人はみんな家に籠る。

 まるで全ての音を吸い取ってしまったみたいにそこいら中がシンとして。

 濡れる事はないけれど、直接肌に触れれば体温を奪われる。

 最初の頃は雪砂の雨が珍しくて何度も外に出て、ぼんやり空を見上げてはイーダに怒られたっけ。

 外気に直接触れている部分は鼻だけでも、体は芯まで冷え切ってしまうのだ。

 少し重たいけれど世界の果て装備は暖かくて安心。

 気になる木にたどり着いて、地面の上に出ている根に座る。

 隙間を見つけて雪砂が落ちてはくるけれど、微々たるモノだった。

 外の空気が吸いたくて、もそもそとフードを外すと、装備から出た空気がもわっと白く小さな雲を作る。


「寒っ」


 今日はヘルメットなしなので、一瞬で頭が冷えた。

 うん、気分はいいかも。

 パチッと、目が覚めた感じ。

 どこにいても俺は俺でしかなく。

 多分元の世界で進学や就職をしていても。


「やんないといけないからやるけど、やりたいかって聞かれたらそーでもない」


 だけど。

 学校で友だちと会うのは楽しかったし、バイト先で知らない楽器を教わるのも楽しかった。

 いまだって、イーダやビアンカさんと話すのは楽しいし、錬金術でなにかを作るのも楽しい。

 定期的にグチャグチャ考えちゃうのは弱ってる時で、今はなにに弱っているんだろ?

 そんな事を考えていたら、ザリっと足音と、人の気配。

 振り返ったら重装備の小人族が立っていた。


「○ヹ×△※□☆#♭」


 小人族語! 通訳機付けてないや!

 ウーヴェは頑なに小人族語以外の言語を喋らないので、いくつかの単語は覚えたし、ジェスチャーも習ってある。

 村の人なら俺を知ってるけど、お互い顔の判別は付かないので名乗ってみた。


「ゴメン。分からない。イブキ、イブキ」


「イブキ! ウーヴェ、ウーヴェ」


 ウーヴェだった!

 それからなにやら開脚跳びを三回してダッシュで俺の目の前まで来ると、頭の雪砂を払ってフードを被せ、


「ッ!」


と俺を放り投げた。

 なんで!? とか考える余裕もなく飛ばされた俺の落下地点にまたウーヴェ。


「ッ!」


 キャッチ後また放り投げる。

 そのまま家まで投げられ続けた。

 小人族式高速運搬方法らしい。

 ひどい目にあった。

 二人で毛布に包まって、イーダの淹れてくれたお茶を飲みながら話を聞く。

 ウーヴェは木の雪除けが間に合わず、夜通し作業をして帰るところだったらしい。

 俺の足跡を見つけて来てみたら、木の根に座り込んでいる俺が居て、


『死にかけているのかと思った』


そうな。

 他人に興味がない種族の割にお人好しだなぁ! 座ってただけなのに!


『そうでもない。凍傷になっている』


 イーダがするっと一気に温まった頬を撫でる。

 冷たくて気持ちがいいけどピリッと痛みがあった。

 しもやけ? 凍傷? フツフツと赤くなっているらしい。

 雨の日に外でぼんやりするなとか、二人がかりで怒られている内に、なんでだか気持ちは浮上してきた。


「へへへ」


 笑ってみせたら、笑ってごまかすなと声を揃えてまた怒られる。

 原因も分からないし、多分解決もしていないのだけれど、構われるのは嬉しかった。


「ありがとう。気を付けます」


 大人しく二度寝をしていた方が心配は少なかったな。

 こっそり反省。

 イーダが、今日は仕事は止めようと机を片付けながら、外出できない日の過ごし方の話になった。

 寂しがってると思われちゃったかも。

 それだったら一人で散歩には出ないと思うよ?

 俺から娯楽の話を聞いたウーヴェは、その中からスタッキングタワーゲーム用の木片を作り始めた。

 一つ完璧に作ってくれれば製造・複製機に入れるよ? って言ったんだけど断られる。

 だって雨が止んでも出来上がらなくない?

 断られたから思ってもやらないけど。


「う?」


『う?』


 イーダは思わず出た声を復唱すんの止めてね?

 どうせ考え事はバレバレだからそのまま言葉にした。


「いや、職業を否定されたってか、俺が拒絶された? みたいな気持ちになったのかなって」


 熱量がないから、そう言わずに! って、取り上げて完成させちゃうとかは出来ないくせに、ね?


『クレメンティアみたいな錬金術師になりたかったのかい?』


 驚愕を含んだ言葉にそれはないよって思うけど。


「ビアンカさんも作るじゃん」


『隠してこっそりね。嫌がる物を勝手に作って押し付ける人ではないだろう?』


 確かに。

 あー、でも、あと少し! 胸の辺りでもやもやしている何かが出そうで出てこない。


『頼られたい?』


「それだ!」


 そう。頼られたかった。子ども扱いじゃなくて、助かります、お願いします、みたいに、頼れる人になりたい、みたいな!?

 カチッとハマったのはいいけれど、途端に恥ずかしい。

 それこそ子どもっぽくね?


『経験して解決パターンが増えるだけで、本質は変わらないからある意味誰でも子どものままだと思うのだけれど』


 イーダは言うけど、俺には全部を理解するのは無理で、なんだかムズムズする。


『子どもなんて言葉を使うからいけない。イブキはイブキだ』


 カンッとノミを鳴らしてウーヴェが言って、


『コツをつかむ頃には出来上がるね』


と、イーダが笑う。

 そのウチ分かる大人の会話ってヤツですかねぇ、と、俺はちょっと不貞腐れたけれど、居心地は良かった。

 それよりも顔がめっちゃ痛痒くなってきたんですけど?

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