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奇妙な錬金術師は堕ちて来た平凡な転移者です  作者: 弓軸月子


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102:番外編)エンプティ


『では行って来るよ。帰れなさそうなら電話をする』


「分かった。行ってらっしゃい!」


 出かけるイーダを見送って、今日は久しぶりに設計図の整理。

 新作とか取り寄せたのをまとめてから、なんとなく独り立ち? のタイミングでいくつも貰った、未だに使った事のない設計図を眺めてみる。


「うわ、アレは俺でも対応できたんじゃん……」


 水の国にも数は少ないけど錬金術師がいて、手に負えない頼まれ事なんかは連絡を取って助けてもらうのだ。

 手持ちの設計図を把握していないから余計な手間をかけさせちゃったな。

 なんか物凄く焦っちゃう時があって、そういう日はすぐに頼っちゃうんだよな。

 焦らないでまず検索、材料があるか、作れそうか。

 ダメならそこで人に頼る。

 うんうんと頷きながらそんな事を心に決めつつ、ふと一枚の設計図が気になって手を止めた。

 非金属を金属にする、ザ・錬金術師って感じの設計図。

 方法は大まかに二通り。

 木とか布を、硬化剤を塗布して金属と同等にする方法と、少量の金属と結合させて変質させる方法。

 道具系と薬剤系の錬金術師は前者を、生命系は後者を選択する人が多い。

 だからビアンカさんと先生の両方に連絡を取ると違う返事が聞けて面白いんだよな。

 俺自体は説明を聞いて手順が楽な方を選んじゃうからその辺は決まってないんだけど。

 両方やってみたら向き不向きが分かるかな?

 試しに小さな木片でやってみたんだけれど、どっちでもいいかなって感じだった。

 やりやすさも、仕上がりも、あまり変わらない。

 硬度計で調べても固さも同じ。

 後は時間?

 木片が小さすぎて乾かす時間が短いからそんなに変わらないか。

 大きくなったらなったで、乾かす工程を入れるから一緒っぽいし。

 炊飯器で飯炊くか、鍋で飯炊くか、みたいな?


「……腹減った」


 飯の事を思い浮かべたら腹が減った。

 イーダが居ると考え事にも返事があったりするのだけれど家には一人。

 静けさから寂しさと、独り言に恥ずかしさを感じたので、ガタガタと音を立てながら階下に降りる。

 家事室で朝飯の残りのパンを口に放り込んで、もぐもぐと咀嚼しつつ材料庫を開けた。

 米と水と、こっちの玉ねぎっぽい野菜と、あ、培養肉。

 取り出して製造・複製機に放り込む。

 そんなタイミングで足にヒヤッとスライムを落としたみたいな感触があった。


「うわっ」


 下を見てなかったからびっくりした!

 ナメクジとアメンボを足して二で割ったみたいな形と動作のロボット掃除機が暇そうに俺の足を乗り越えている。

 これ俺の足が臭いからとかじゃないよね?

 持ち上げて掃除をして欲しい方向に向け直して作業場に戻る。

 なんかノリがイマイチなので片付けて午後は散策に出ようかな。

 外用装備を準備して階下に降り、出来上がった炒飯を、卵も入れたいな、と思いながらかき込んだ。

 たまに鳥系の獣人さんがくれるだけなので卵は貴重なのだ。

 培養出来ないか聞いてみたんだけど、研究したら? って返事だった。

 こっちの人はあんまり卵を食べない。

 鳥系の獣人さんもくれる時に恥ずかしそうにするから言い難いんだよな。

 食後の休憩もそこそこに、久々にゴーカートを出して起動させる。

 近所は行きつくしているけれど、決まった道ばかりを通るから今日は少し外れてみようか。

 雪原に向かう方向で、ウーヴェが作業をしていない辺り。

 途中で木の妖精さんに行き会ったので軽く挨拶を交わしつつ、散策の穴場を聞く。


「あの辺り。最近は隕石が落ちてこない。安全。楽しいと思う」


 教えてくれたのは五年程前までは定期的に小さな隕石が落ちて来ていた場所。

 最近落ちてこないなら軌道が変わったんだろう。

 少し距離はあるけれど今日中に帰れそうだし、


「ありがとう。行ってみるよ」


礼を告げて別れた。

 その場所は隕石落下地帯だけあって人里も木々も生えていない雪原地帯になっている。

 山にしては低い、丘? 隆起した地面? なんか、山のジオラマを子どもが遊べるサイズまで大きくしました! みたいな雰囲気。

 ゴーカートを置いて歩いて散策しながら、時折気になった丘部分の雪砂を掘ってみる。

 うん、ほぼ隕石だな。

 これは落ちてきたら普通に潰れて死ぬサイズ。

 しかもゴロゴロとそこら中に落ちてる。

 中央の人とか泣いて喜ぶんじゃなかろうか。

 輸入したら大金持ちになれそう。

 面倒だからやらないけど。

 デカいけど軽いのとか、なんか青いのとか、赤いのとか。

 珍しいと思った物は少し削って採集した。

 分析器にかけてみて、追加が欲しければまた来ればいい。

 それからやっぱりちょっとだけ怖かったので、さっさと移動しようとゴーカートに戻ったんだけれど。


「……?」


 ゴーカートが起動しなかった。

 うんともすんとも。


「ええっと?」


 もう一度起動しようとしてみるけれどダメだ。

 そう、まさにこんな時の為に今朝考えていたではないか。

 ゴーグルからゴーカートの設計図を検索してみる。

 うん。全然わからん。

 でも起動しないなら燃料?

 ちゃんと確認して出て来てるから余裕があるんだけどな。

 実際に地球の車もガソリンだけじゃなくてバッテリーだとかエンジンオイルだとか、他にも燃料的なのが必要だったはず。

 ひょっとしたらゴーカートを乗り潰すまで、普通だったら交換の必要がない燃料があるのかもしれない。

 ここを押し込んで、この回路が繋がるから、水石から水が出て、風石の風で一定方向に水が動いて……。

 紙やスマホの画面じゃないから指で図面を追えないので眼球が痛い。

 しばらくしてようやく原因にたどり着きはしたけれど。


「いやいやいやいや……」


 ほんの少ししか使わない、一度組み込んだら五十年は持つ計算の、小さな火石にヒビが入っていた。

 考えてみたら中央の整備されている道でその計算なら、水の国で道なき道を走るなら計算は変わってしかるべき。

 うっかりしてたな。

 素材は落ちてるけど、道具も設備もなし。

 これはゴーカートを引きずって帰るしかなさそうだ。

 水も携帯食も持ち歩いているし、急ぎの用事もないからいいんだけど、何時間かかるんだろ?

 平地はキャリーカートみたいに前輪を持ち上げて歩き、下りは勢いをつけてソリみたいに移動。

 登り? 持ち上げて登りましたとも。

 三時間程そんな移動を続けて腕も足も筋肉疲労でパンパンになってきたので休憩。

 今日は山吹が大き目の日なので、そこそこ明るいのが救い。

 それにしたって丁度いい暗さだなコンチクショーめ。

 もう今日はこのままここで寝てやろうか、なんて空を眺めながら不貞腐れていたら電話が鳴った。


「もしもしイブキです」


『イーダです。イブキ? 予定より早く帰宅した。出かけていたんだな。何時に戻る?』


「いやー、実は……」


 愚痴混じりに、だけど採集が楽しかったとかも入れてマイルドに報告。

 過保護で心配性だからね。

 上手く話せたのか、あまり心配はされずに穏やかに会話が進む。

 電話の向こうでイーダが作業場の火石も確認してくれた。


『ではこの火石で良さそうだな。すぐに届けるよ』


「助かる。ありがとう!」


『それにしても、どうしてカリンバを持って出なかったんだい?』


 うっ。


「……持ってました……」


『……』


 電話で沈黙やめてくれる?


「……なんていうか、そう、今日は! 脳が! 錬金術師だったんだよ!」


『ふふふ……それでは錬金術師として一日を終えた方がいいね』


 イーダはそんな風に言って、火石と昼の残りを持って来てくれた。

 どうやら電話の沈黙は、話ながら家を出ようとしていたのに、行かなくていいのでは? と思って引き返そうとした沈黙だったそうで。


「うわー、ゴメン。帰って来たところだったし、のんびりしたかったよね?」


 腹が減ってはなんとやらで、ありがたく昼の残りを口に放り込みつつ、火石を取り変えつつ謝れば、


『今までに周りに居なかったタイプだから日々面白いよ』


とまた笑われた。

 面白いなら良かったです、はい。

 おっと。バラしたゴーカートを元に戻す手が震えてる。

 足も立ってるだけなのに微振動だ。

 心配させちゃうかな?

 ゴーカートを運んだせいだから気にしないで欲しいんだけど、説明するのも微妙。


『帰ったらお風呂でマッサージだな』


 考え事に返事が来て、ふわっとなんだか暖かい気持ちになる。

 ああ、そっか。


『なんだい?』


「あー、言葉にするのが難しい感じ?」


 今日はそんな日だった。

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