10 人との遭遇は羞恥との闘い
俺も泣き止んだし、色々と説明してもらう。
そもそも中央とそれ以外の国では人族の取り扱いが違うみたい。
中央だと優遇、なのかな? なんか身分が高いっぽい。
とにかく偉い人って聞こえてるんで、多分、王様とか総理大臣だと思うんだけど。
中央のその役職の人は今も人間なんだって。
良かった。人間いた。
で、だ。
それ以外の国だとそもそも人族はいないし、居ても弱いからすぐに死ぬ。
国民に悪気がなくてもうっかり触って殺しちゃったりとか。
だから基本的に不干渉なんだけど。
『中央では優遇されるからね。暴力で脅して奴隷化させて、中央で利用してやろうって商人もいる』
らしい。
イーダもウーヴェもたまたま良い人だっただけ。だから気を付けろと全員から言われた。
イーダが保護して連れて来た理由に、俺が子どもだった事と、堕ちて来た人間でこの世界の事をなにも知らない事を上げ、
『君たち猫科も平気で首の後ろに噛みつくだろう? 殺されては大変だと思って、保護用の首輪を付けさせたんだ』
と、ロッテに向かって締めくくった。
『ああ。四足歩行種だとあり得るね』
ロッテもティモも同意してるけど、二足歩行と明確に区別してる様子。
気になったけど常識的な話みたいで、その内分かると言われてしまった。
そんな話をしながらも診察は続いてて、脇腹に例の乾電池みたいのをコロコロされて、くすぐったさに身をよじる。
『痛かった?』
「全然。くすぐったかった」
『ならいい。今のところ骨に異常はないけれど、何ヶ所か冷やした方が良さそうだ』
なんで骨に異常がないって分かったのか聞いたら、ポイっと乾電池みたいなヤツを渡された。
単三よりも少し太くて長い透明なガラスっぽい筒。上下に木の蓋が付いている。
回るのは蓋の部分だけで、指で挟む様に持つと少しだけ沈むから、ボタンとかスイッチかな?
ロッテが多分治療の準備をしてるんで、これをどうしたらいいんだとティモを見ると、腕の上で転がすジェスチャー。
真似してみたら透明な部分がなんだか気持ち悪い事になっていた。
イーダが覗き込んでいたみたいで、
『ははぁ。肉と血管に骨か』
と感心した様に言う。
見えちゃってんだよね。肉と血管と骨。ほんのり透過した感じで。確かに骨には異常がなさそう。
気になったのでイーダに押し当ててみたら、泡の集合体みたいなのが見えました。
どうなってんだ?
『玩具じゃないから。用途がわかったら返してね』
ロッテにひょいっと持って行かれて、それから湿布みたいなヤツをペタペタ貼られる。
腕と肩とは別に背中だか腰だか曖昧な位置にも二ヵ所。
結構ぶつけてたんだな。
薄っすらひんやり。冷たいって感じじゃないのは助かる。
『じゃあ、次は下脱いで』
「えっ?」
終わりじゃねぇの?
嫌ですと顔に出てたのか、ロッテは諭す様に言う。
『自覚も薄いみたいだし確認したい。服越しに隅々まで転がすと時間がかかるだろう?』
手にはさっきの乾電池みたいなヤツ。
それは確かに嫌だけど、脱ぐのもな。
着替えてないし。風呂入ってないし。
もじもじしていたら後からティモに抱えられてしまった。
「ちょっっ」
そのタイミングで鳥さんが戻って来たみたいで、入口でギャーギャーと叫び声を上げている。
驚いて振り返ったんだけど、ティモが邪魔で入口の方が見えない。
ロッテは気にせずベルトに手をかけてる。
「ロッテ、待って、ちょ、ま、人が!」
仰け反るみたいに立たされて、俺の腰からすとんとズボンが足首まで落ちた。
「えぇぇぇぇぇ」
もう力なく声を出すだけでいっぱいいっぱい。
『膝にも太ももにも少し痣があるね。ティモ、後ろ向けて』
クルンとひっくり返されてすぐに下着に手をかけたのには気付いたけど。
ひっくり返された事で入口の鳥さんと、鳥さんを肩に乗せた金髪美女と、一瞬だけ目が合って。
「え?」
金髪美女も驚いたのだろう。目を丸くしてこちらを見ている。
「▲☆=¥!>♂×&◎♯£」
金髪美女がなにか言葉を発している。
『これは酷い。痛いだろう?』
ロッテが尻に湿布みたいなヤツを貼ってから下着を履かせなおしている。
「○▼※△☆▲※◎★●!?」
金髪美女が険しい顔でこちらを見ている。
『イーダ、今来た二人も繋げてもらっていいか?』
ティモが言ってひっくり返される。
『顔が真っ赤だな。発熱してきたんじゃないか?』
ロッテがズボンを引き上げながら顔を覗き込んでくる。
『イブキ? 寒いんじゃないか? シャツも着た方がいい』
イーダが椅子に置いていたシャツを取って手渡してくる。
『……ティモ、離してあげないと服が着られないと思うわ』
金髪美女が近づいてきてティモが抱えていた手を放してくれた。
しゃがみ込んで顔を覆う俺。
『ちょっと大丈夫? この子耳まで真っ赤よ? 高熱なんじゃないの?』
すみませんが、立ち直るまで少々お時間を頂けませんか……。
羞恥で。羞恥で俺のライフがゼロなんで。
イーダのおかげで全員に正しく気持ちは伝わったようで、各々がしばらくそっとしておいてくれた。
それもまた居た堪れないんだけどね。
『イーダがいれば通訳は必要ないな? 持ち場に戻るぞ』
鳥さんかな? お手数おかけしました。
『私も必要ないかしら? 初めて見る外部の人間だから少しお話はしたいのだけれど』
俺も人間がいて嬉しいので話はしたいとは思ってます。
『イブキが話せそうなら構わない』
取りあえずイーダがいないとどうにもならないので、イーダに任せるよ。
『……人間の体調不良は知識としてしかない。居てくれると助かる』
そうですよねぇ。
俺の居た世界だと人間用の医者と動物用の医者と分けてたんで、申し訳ないっす。
『この状態でも口に出さないだけで返事は返すんだな』
まだ音声にする気力は戻ってないんですけどね。
思考ダダ洩れだと二重で情けない気持ちになって来た。
頑張れ俺。
のろのろとシャツを着て、制服なんで普段ならズボンにシャツを入れるんだけど取りあえず省略。
ロッテはズボンを引き上げてくれただけなんで、ベルトをちょっと緩めに締めて立ち上がる。
座っていた椅子に座り直して、もう一度顔を覆って一息。
「すみません。もう大丈夫です。お騒がせしました」
椅子の正面はロッテだけど、その隣にさっきの金髪美女が立っていた。
金髪に青い目の、俺の貧相な語彙だとザ・外国人って感じのその人は、
『ビアンカ・フォン・キベンよ。王族の遠い遠い親戚なのだけれど、追放されて今は一般人なの。錬金術師をしているわ。よろしくね』
と、にっこり笑った。




