30歳までに結婚してなかったら……

「30までにさ、結婚してなかったら、そのときはーー」

　幼馴染が、ボクにそう言った瞬間、ボクはすぐにこう言った。

「うん、今、結婚して」

「……はい？」

「30歳までに好きな人ができたら別れよう。うん、そっちが最適解だよ。仮面夫婦しておこう」

「えっと、結婚詐欺でもするつもり。慰謝料払わす気かな」

「冷静に考えよう。どうせ、30歳までに結婚なんてできない。俺は30歳になるのを今か今かと一日千秋で待つことになる。しかも、幻滅されないようにムキムキに鍛えきった状態でだ」

「や、いや、キミがわたしのことを大好きなのはわかったけど。わたしの気持ちがあるよね」

「30でオッケーなら、今オッケーでしょ。もし、20代の恋愛に傷ついてメンヘラ化したらどうするんだ。そうしないために、ボクはキミをストーキングしないといけない。すべての男性を排除するために」

「うん。キミがビックリするほどヤンデレ気質なのがわかった。じゃあ、30で結婚話はナシということで。……他にいい人探そ」

「それじゃあ、いまから、式場に行こうか」

「いや、わたし、重い人はちょっと」

「大丈夫。ボクの愛は軽いよ。軽石のように。ただ量が多いだけで」

「30までに他に好きな人ができたら別れるんだよね」

「うん。その好きな人は生きていないかもだけど」

「あ、はい。やばい男に好かれた」

「好きな人ができたので別れてください」

「それ、ボクとキミの子どもだよね」

「でも、あなたより好きだし」

「ぐあああっっっっ、これが寝取られ。ああ、脳が破壊されるぅぅぅぅ」

「じゃあ、円満離婚ということで」

「待て待ってくれ。べつに一度離婚しても再婚してもいいじゃないか」

「でも重いしなー」

「ボクの愛は雪のように軽いよ。雪国ぐらい降り積もっているだけで。それに、ボクはもう30歳だよ。今日で30歳だ、万歳っ！！」

「わたしは、まだだけど」

「キミが30歳になるまで、離婚手続を遅滞戦略します。裁判している間に、30歳だ」

「キミ、わたしのこと好きすぎじゃない」