恋敵の登場
ハンナと仕事の休憩でお昼を食べながら、騎士団を眺める。
やっぱり剣を振るレオンはかっこいい。
結婚前に第5部隊の隊長を最年少で任せられたらしく、スピード出世を果たしている。
「で、一緒の布団で仲良く寝たと?」
レオンの姿に夢中になっていたら、ハンナが確認してきた。
昨日、一昨日の休日の話をしていたところなのである。
「そうそう。結局寝言はその時は言ってなかったみたいでね。でもベッド移動させてくれて、それから同じ部屋で寝てるんだ」
嬉しくてへへっと笑う。
私が寂しいと言ったので、昨日ベッドを動かしてくれたのである。
こないだは朝まで抱きしめてくれていたようで、私は幸せでぐっすり寝られた。
なのでこれからも同じベッドで私はよかったのだが、狭いからか、レオンがベッドを二つ並べると言い張って聞かなかった。
これも拒否されているのだろうか?
少し落ち込んでいると、ハンナが言い放つ。
「バカね。色仕掛けのひとつやふたつ使って、既成事実でも作っちゃえばよかったのに」
「い、色仕掛け?!既成事実?!」
大声が出てしまって、慌てて口を押さえる。
しかし言われてみれば、レオンに好きになってもらうチャンスだっかもしれない。
色仕掛けは胸もないので自信がない。
だけど、せめて彼がリラックスして寝れるように子守唄とか、何か私と寝てよかったと思ってもらえることはすべきだったかも。
むしろ彼のベッドに入り込み、抱きしめてもらってすやすや寝ていたのでは、私だけが得をしている。
「あっ、また来てる」
ハンナの言葉に抱えていた頭を上げ、騎士団の訓練場を見る。
そこにはカゴに手作りお菓子を詰め込んだヴィオラがいた。
ヴィオラは騎士団長の娘で年齢は私たちの二つ下である。
団長の娘ということで、訓練場によく出入りしているのだ。
そのたびに手作りお菓子などを配っている。
そしてわかりやすくぶりっ子なので騎士団員には人気だが、救護団には不人気である。
騎士団員が嬉しそうにお菓子を受け取っている。
ヴィオラがレオンに近づき、手渡す。
ヴィオラの特にお気に入りはレオンのようで、よく話しかけているのを見かける。
今まではレオンが塩対応なので、あまり気にしていなかったが…
「何あれ」
隣でハンナが声をあげる。
私はそれに返事ができず、口に運ぼうとしていたサンドウィッチをぼとりと落とす。
なんとヴィオラがレオンの顔を覗き込み、何事か言うと、レオンが顔を真っ赤にしたのである。
レオンのそんな表情は見たことがなく、フリーズする。
何あれ何あれ何あれ!!
なにに照れているの?!仮にも私と結婚しているのよ?!
なんで他の女に赤面しているのー!
…もしかしてヴィオラのこと好き、なの?
「おーい、大丈夫かー?」
ハンナが心配そうにひらひらと目の前で手を振るが答えられない。
「もしかしたらズボンのチャック開いていたのを教えてもらっただけかもよ!ね!」
私を元気づけようとハンナが一生懸命言い募ってくれる。
しかし、余計にあれは誰の目から見ても、まるで恋をしているようにレオンが照れていたという事実を感じ、打ちひしがれる。
「私、レオンって誰にも興味ないというか、恋なんてしないんだと思っていた…」
漠然とそう感じていたのである。
だから強引にでも結婚に踏み切って、いつか私のことを好きになってくれればいいと思っていた。
ポロリと目から涙が落ちる。
「ソフィア…」
ハンナが騎士団の方から隠すように抱きしめてくれる。
「ありがとう、ハンナは男前だね」
泣き笑いして伝えると、
「嬉しくないんですけど、かわいい乙女なんですけど」
とハンナがわざと口を尖らせ、ふざけた感じにしてくれる。
「ふふっ、ふぇぇぇ」
笑ったら涙が溢れた。
優しさに甘えて、ハンナの影でぼろぼろ泣いた。