寝言の確認
夜になり、レオンの寝室に入った。
「おじゃまします」
言いだしたのは私なので、私のベッドで寝てもらおうと思ったのだが、なぜかかたくなに拒否された。
私のベッド臭いとか?!
不安になってにおいをかいだが、自分ではよくわからない。
拒否された理由がわからないので、それにもショックを受けながら、とりあえずレオンの寝室にやってきた。
「一緒のベッドで寝るんだよな?」
確認するようにレオンが言う。
「そのつもりだったけど。あっ、せまい?私、床で寝ようか?」
寝言の確認が目的なので、同じ空間にいれば問題ない。
「いや、ソフィアがいいならベッドでいいけど…お前気にならないわけ?」
「何が?子供の頃よく一緒に寝ていたじゃない」
「子供の頃の話だろ!…いや、いい。お前が全く意識していないことはわかった」
レオンが投げやりな感じで言って、布団に入る。
「ん。入れば」
少し布団をめくってくれるので、そこに潜り込む。
レオンが布団をふわりとかぶせてくれる。
「ありがとう」
レオンの方を見ると、思ったより距離が近い。
子供の頃は余裕だったが、さすがにせまい。
肩が触れ合う状態になって、緊張してきた。
思ったより大胆なことをお願いしてしまったかも。
頬が熱くなりそうだったので、ごまかすためにほかのことに意識を持っていく。
「あっ、レオンのにおいがする」
「なっ。お前なに言ってんだ」
レオンが焦ったような声を出す。
「いや、本当になんか陽だまりみたいな落ち着くにおいが」
すんすんと鼻を動かす。
間違いない、昔から変わらないレオンのにおいである。
冷たいことをいうくせに、においとかはあったかいんだよなぁ。
ちらっとレオンの方を見ると、耳が赤い。
「えっ?私、変なこと言った?」
「もういい!寝ろ」
レオンは私に背中を向けると、ライトを消した。
「おやすみ…って、あの寝言の確認が目的だけど、私のために寝ずに確認とかはしなくていいからね」
一応念を押しておく。レオンが背を向けたまま答える。
「わかってるよ」
「あとうるさかったらごめんね」
結局どんな寝言言っているのか教えてもらっていないままなので、それも伝える。
「もういいから寝ろ」
買い物に行った時や、ごはんを食べた時とは違い、かたくなである。
結婚してから態度が優しく、甘くなっている気がしたのに勘違いだったのだろうか。
しょんぼりしながら、おとなしく寝る体勢に入る。
「あ、あと最後にひとつだけ。本当に最後だから」
「なに?」
レオンがちらりとこちらを見る。
「私、この年で恥ずかしいんだけど、一人で寝るのさびしいなって思ってて」
実家にいた頃は、年の離れた妹と毎日寝ていたのである。
だから結婚してから、実は一人で寝ることが落ち着かなかった。
「これからたまにでいいから。レオンの負担にならないようにするし、一緒に寝てくれると嬉しい」
そっとレオンの寝間着の裾をつかむ。
「はぁ」
でかいため息が頭の上から聞こえてきて、慌てて手を放す。
「ごめん、23歳にもなって変だよね。忘れて」
「ちがう。お前、俺を殺す気か」
「えっ、どういうこと?」
問い返すと、がばりと抱きしめられた。
「いいから、お前はなんにも気にせず寝ろ」
急に包まれた体に心臓がどきどきと音を立てる。
しかし昔からかぎなれたレオンのにおいに包まれると、不思議と安心感もあった。
「ありがとう。おやすみなさい」
そうつぶやくと、レオンも優しい声で返してくれる。
「おやすみ」
レオンに包まれて目を閉じる。はじめはドキドキもあったが、だんだんと眠気がやってくる。
薄れゆく意識の中で、そういえば妹には寝言について言われたことはなかったな、と
ぼんやりと思った。