嫉妬と欲(レオンside)
結婚したら、今まですぐ喧嘩になってしまっていたのをやめる。
恥ずかしがらずにソフィアに優しくして、好きになってもらいたい。
そう思っていたが、これがなかなか難しい。
『夫婦』という特権を使って、とにかくソフィアとたくさんの時間を一緒に過ごす。
しかしそうすると、俺にとっては一番危険な恋敵であるメルヴィルにも遭遇するわけで。
メルヴィルは俺にないものを持っていて。
俺ができないことを簡単にする。
別に貴族に生まれたかったわけではない。
けど華やかなメルヴィルの容姿や優雅な振る舞いはソフィアと並ぶとしっくりくる気がしてしまう。
それにあいつの言う通り、公爵家ならソフィアに買い物に行かせたり、夜ごはんを作らせたりしない。
きっと仕事や好きなことに集中させてやれる。
もしメルヴィルが女たらしでなければ、ソフィアは彼と結婚していたのではないだろうか。
メルヴィルが本気でソフィアにアプローチしたらどうなってしまうのだろう。
俺は怖かった。
俺よりメルヴィルの方がソフィアを幸せにできるかもしれない。
そう考えるとつらかった。
そして俺は最近は触れることすらままならないというのに。
メルヴィルはあっさりソフィアの手を握って、手の甲にキスまでする。
それもいちいち絵になるのがむかつく。
今すぐソフィアの手を洗って消毒して、俺もキスしたいけどできない。
夫だけど、俺たちは両想いではない。
そんなことをする権利は俺にはなかった。
それでも結婚して、俺なりにソフィアに対してできるだけ素直に接するようになったつもりだ。
前みたいに言い争いはしなくなったし、俺たちの距離は近付いている気がしていた。
しかしやっぱりソフィアの中で俺は『幼馴染』のままなのか。
平気で同じ布団で寝るし、理想のタイプを聞けば優しい人で俺とは全然違うし。
恋愛対象として意識してもらえていない気がする。
結婚して一番近い存在になったはずなのに。
ソフィアが疲労で倒れることも阻止できなかった。
昔から何でも一生懸命で、すぐ無茶をしてしまうと分かっていたのに。
止められなかった。
メルヴィルの言う通りだ。
俺との生活がソフィアの負担になっている。
悔しくてたまらなかった。
本当は離婚なんてしたくない。
今だって、メルヴィルと二人きりで話すなんて止めたかった。
だけど、あと2ヶ月。
きっとソフィアは元々俺との結婚は期限付きのつもりだったのだ。
一時的にメルヴィルとの結婚を回避するための。
しかも、メルヴィルがこうして一途にソフィアを口説き始めたら、もう断る理由もなくなるのではないだろうか。
そうしたら俺はきっと用済みだ。
俺との離婚後、ソフィアはメルヴィルと結婚してしまうかもしれない。
悔しさに唇を噛み、頭を振る。
するとその時、首にかけていたマフラーが落ちた。
さっきソフィアにもらったものだ。
嬉しかったのに、つい体の心配が先立ってしまった。
…このまま黙って身を引いていいのか。
ソフィアの幸せを誰より願っているのは本当だ。
けれど、最後に自分の気持ちだけは伝えてもいいだろうか。
ずっと、18年以上あたためていたこの気持ちを。
床に落ちたマフラーを拾って、首に巻き直す。
そして、家を飛び出した。
やっと時間軸、もとに戻ります!




