腕の中
ふわっと休憩時間にあくびをする私を見て、ハンナが心配そうな顔をする。
「ちゃんと寝てるの?」
今日から勉強頑張ります宣言をしてから1週間。
「美容にも悪いし、効率も悪くなるから寝ようとはしているんだけど…」
ついつい勉強も詰め込まねばという焦りからやり過ぎ、そしてその後の編み物もやり過ぎを繰り返していた。
「旦那も心配しているんじゃない?」
ちらりと騎士団の訓練場に視線をやる。
レオンが筋力トレーニングを行なっているところだった。
「毎朝目を確認されて、説教されてる」
毎朝レオンの綺麗な顔にドアップで心配されると、なんだか緊張もする。
だが、その後に続く説教に落ち込む。
「そらそんな明らかに寝不足顔されたら、心配だわ」
「うっ、私もなんとかしなきゃとは思っているんだけど」
昔からやり始めるとなんでも夢中になってしまうのである。
「とりあえず今日は寝なさいよ」
「えっ!」
明日が休みなので、ますます詰め込もうと思っていた私はギクリとする。
「もう!ほどほどにね。というか、なんで試験前なのにマフラーも始めちゃうの」
「だって、はやく完成させないと、レオン新しいの買っちゃいそうだし」
万が一、ヴィオラが先にプレゼントしちゃったら嫌だし。
もごもご言い訳する私にハンナが呆れたように笑った。
「おやすみ」
その日の夜、ここ最近のルーティン通り、レオンにおやすみを告げて、自分の部屋に入ろうとする。
すると、腕をがしりと掴まれた。
「だめだ。お前そろそろ限界。寝ろ」
レオンを見上げると、怖い顔をしていた。
「えっ、でも明日お休みだし…」
ハンナに伝えたことと同じことを口にする。
「黙って寝ろ。ソフィアが寝ないなら俺もソフィアが寝るまで後ろで待っている」
「えぇ…」
後ろで待たれたら、勉強も集中できるか怪しいし、マフラーの方は内緒だからできない。
それでももごもご口を動かし、目線を彷徨われせていると、突然抱き上げられた。
「なになに?!重いよ!」
「軽いから。暴れるな」
レオンの言葉にぷしゅうと顔が赤くなり、下を向く。
レオンは私をお姫様抱っこで抱えたまま、寝室に入る。
そして私を丁寧にレオンのベッドに下ろした。
レオンもベッドにのぼり、私を見つめる。
アイスブルーの瞳に至近距離で見つめられ、心拍数が上がってきた。
レオンが私の肩を押す。
ぼすんと音がして、レオンのベッドに私は倒れていた。
レオンが私の上に覆いかぶさる。
「ど、どうしたの?!」
びっくりしてレオンを見ると、抱きしめられた。
「なっなっ!」
まさか、そんな。
ハンナが前に言っていた既成事実という言葉が頭をよぎる。
動揺して、レオンの顔を見ようとする。
すると耳元で
「動くな」
と言われて、カチーンと体が固まる。
ど、どういうこと?!どういう状況?!
焦っていると、レオンが私の頭を撫でた。
「今日は何がなんでも寝てもらう。逃げんなよ。なんにも考えずに寝ろ」
「あっ、そういう…」
変に動揺してしまった。
私の体を心配してくれていたのか。
ガッチリと抱きしめられ、もはや拘束されているとも言える。
「ふふっ」
そんな状況がおかしいやら、レオンのぬくもりが嬉しいやら、笑みが溢れる。
「なんだよ」
「ううん。心配してくれてありがとう」
そう言って見つめると、レオンが私の目を自分の手で隠す。
「いいから寝ろ」
「うん。おやすみなさい」
「おやすみ」
たしかに限界だったかも。目を瞑った途端、眠気がやってきた。
そして私はレオンの腕の中でその日は久しぶりにぐっすり寝た。




