結婚生活
同僚たちが窓の外にいる騎士団を目をハートにして眺めている。
「やっぱり騎士団はかっこいいわね。あの制服が3割増しで魅力的に見せている気がするわ」
「ほんと。特にレオン様は断トツね」
ほぅとため息をつく。
「あーあ。こうして眺めるのが私達の楽しみだったのに、まさか人のものになっちゃうなんて…」
そう言って、ちらりと私を振り返る。
私はその視線から逃れるように
「仕事、仕事〜」
と包帯の片付けを始めた。
私達は騎士団と共に行動することが多い救護団に属している。
もちろん難関試験を突破してきた救護のスペシャリストの集まりだが、メンバーの大半の志望動機は騎士団に近づくことである。
なのでみんな仕事場から見える騎士団の訓練場を休憩時間のたびに眺めている。
私も似たようなものなので、何も言えないが。
「でも素敵よね、幼馴染で結婚なんて」
「その一途さも余計にレオン様の株が上がるわ」
みんなの純粋な羨ましそうな声に居た堪れなくなる。
備品倉庫に逃げるように入り込む。
そして小さくため息をつく。
「そんなため息つくぐらい罪悪感あるなら、なんで18年前の約束なんかダシにしたの?普通に結婚お願いしても大丈夫だったんじゃない?」
一緒に倉庫に入ってきた、仲良しのハンナが言う。
彼女は唯一、どんな経緯で私とレオンが結婚したのか知っているのだ。
「うっ、絶対普通にお願いしても断られたもん。それか権力盾にしていると思われても困るし…」
家の爵位でいうと、レオンの家はお父さんが騎士団の副団長だが平民なので、私の方が伯爵令嬢で上だ。
家督は兄が継ぐので、私自身にはなんの力もないのだが、爵位により結婚を取り付けたとなると惨めだ。
「それよりは子供の頃に言質をとったというか…レオンがたしかに言ったことの方が、まだいいかなって…」
ごにょごにょ言い訳がましく訴える私にハンナが姉のような表情で苦笑する。
「まぁ結果としてうまくいったんだからいいじゃない」
「うん、これから本当に好きになってもらえたらなって思ってる」
半ば強引に押し切って始まった結婚生活だが、レオンにも私と結婚してよかったといつか思ってもらいたい。
とりあえず胃袋を掴もう。
そう思い、職場の近くに二人で住み始めた家で、日々料理の研究に勤しんでいる。
「実際、結婚してどうなの?レオンはいい夫なの?」
「それが…」
口ごもった私にハンナが不安気になる。
結婚生活は私が想像していたものとは全く違ったのだ。
不気味なほど…
とてもいい意味で。
「いい夫過ぎるの…」
「へっ?」
ぼそりとつぶやいた私にハンナが聞き返す。
「レオンがいい夫過ぎるの!私、むりやり結婚してもらったようなものだから、冷め切った夫婦生活を想像してて。私の存在価値としては家政婦のように尽くすしかないと思っていて」
「いや、そこまで…」
勢いよく喋り出した私にハンナが戸惑う。
だが止まらない私は溜まっていたこの結婚して一週間の話を捲し立てる。
「それなのにレオンときたら、疲れているはずなのに、ごはんを食べて必ず美味しいと言って。私の話も面倒くさがらず、毎日何があったか聞いてくれるし、お皿も洗ってくれるの!」
「それに…」
顔を赤くして下を向く。
ハンナが覗き込むようにして続きを促す。
「それに?」
結婚したレオンは、
とってもとっても甘いのだ。