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身分の差


ヴィオラの顔を不安げに見てしまう。

「あなたが結婚を迫ったんでしょう。私たち平民は貴族に求婚されれば断れない。家族もどうなるかわからないし。それは脅しと一緒よ」


「そんなつもりは…」

反論しようと口を開いたが、押し黙る。

レオンとの身分差など気にしたことがなかったが、もしかしたらレオンは違ったのだろうか。


それに脅しというのはあながち間違いではないかもしれない。

爵位は盾にしていないが、過去の発言による言質はとったとして、結婚を迫ったのは紛れもない事実である。


私がレオンに断れないように圧をかけすぎたのだろうか。

落ち込み始めた私にヴィオラはなおも言葉を続けた。


「レオンさんを返してよ。レオンさんは私と結婚の話も出ていたの。私の父が私の婚約者にと考えていたのよ」

騎士団長と副団長の子供が結婚したとなると、騎士団の結束も強まるしねとヴィオラが言ったような気がするが、後半はもう聞こえなかった。


私が放心してしまったからである。

がつんと頭を殴られたような気持ちだった。

結婚の話まで出ていたなんて知らなかった。

やっぱりレオンはヴィオラが好きなのだろうか。


「あなたみたいに見た目と身分だけの人間に負ける気がしない」

ヴィオラが睨むように告げる。


何も言い返せなかった。

私はレオンの幸せを奪ってしまったの?

絶望感でいっぱいになって、下を向くと涙が出てきそうになった。

慌てて唇を噛んでこらえる。


すると後ろにいたメルヴィルが口を開く。

「ソフィアはたしかにとっても愛らしい見た目をしているけど、彼女は見た目だけじゃないよ」

「えっ?」

驚いて振り向くと、メルヴィルがウィンクする。


ヴィオラも急に口を挟んだメルヴィルを訝し気に見る。

「ソフィアは心まで綺麗だから」

メルヴィルは恥ずかしげもなく言い放つ。


話の焦点はそこではない。

しかしメルヴィルは至って真剣な顔をしていた。


「本当だよ。僕とソフィアが出会った時の話をしようか?」

「いや、やめて」

ヴィオラに説明しようとするメルヴィルを止める。


「ソフィアとレオンを離婚させたいとは僕も思っているけど、あんまりソフィアをいじめないでね」

「ちょっと」

ツッコミどころがありすぎる。呆れてメルヴィルを見る。


メルヴィルはヴィオラを見てニコリと笑う。

「君も笑った方がかわいいよ」

さすが女たらしのメルヴィルである。

その言葉にヴィオラは毒気を抜かれたようだ。


「今日はもういいわ」

そう言って、騎士団の訓練場の方に向かって行った。


あとに残された私はメルヴィルに向き直る。

「えっと、かばってくれてありがとう?」

お礼を言うべきか迷いつつ、メルヴィルなりに私を助けようとしてくれた気がするので伝える。


「本当のことだよ。初めて会った時から君の優しさを知っている」

「よく覚えていないんだけど…」

困惑しながらメルヴィルを見ると、彼はにっこり笑った。


「また来るよ」

結局受け取っていなかった薔薇をもう一度差し出される。

「いや、来ないで」

職場に来られるのは普通に迷惑なので、きっちり断る。


しかし薔薇はなんだか可哀想で受け取る。

メルヴィルは満足気に笑うと、手を振って去って行った。


「やばい!仕事!」

ぼんやりその背を見送りかけたが、慌てて仕事場に戻る。

その後、職場の同僚たちに好奇の目で質問攻めにされて苦笑いするしかなかった。




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