理想の人
レオンの横顔を眺め、過去の思い出に浸っているとレオンが口を開いた。
「そろそろ帰るか」
「あっ、そうだね」
そろそろ帰って、買い物に行かなければ。
イザークに跨ろうとする。
「帰りは交代で」
「えっ?」
レオンが私の後ろに跨り、手綱を握る。
背中からレオンに抱きしめられるような形になり、体温が上がる。
「なんでなんで?私、下手だった?」
不安になり、問いかける。先週の休みにハンナに付き合ってもらって練習までしたのに。
「上手だったけど。俺がイメージしていたのはこっちだったから」
私のお腹のあたりに片手を回し、抱きしめて走り出す。
こないだ寝る時にも抱きしめてもらったはずなのに、後ろからだと密着度が上がり、ドキドキした。
やっぱり私ばかりドキドキしている気がする。
レオンにドキドキしてもらうための作戦のはずだったのに、自分の心臓の音がうるさい。
「ねぇ、レオンはどんな女の子が好きなの?」
顔が見えない今、思い切って聞いてみる。
「何だよ急に」
動揺したようなレオンの声が後ろから聞こえる。
「なんとなく…」
本当は気になって仕方ないことだけど、何気なさを装って聞く。
レオンは答えに迷った様子で黙り込む。
しかししばらくして
「なんでも一生懸命な子」
とぽそりとつぶやいた。
一生懸命な子か…
ヴィオラもお菓子作りとか頑張っているもんな。
思い浮かべて自分でダメージをくらう。
でもその好みなら自分も努力次第でなんとかなるかもしれない。
とりあえず引き続き料理と、あと何か新しいことも始めてみようか。
決意を固めていると、レオンが口を開く。
「ソフィアは?ソフィアはどんなやつがいいの」
お腹に回された腕が心なしか強まる。
「うーん…」
どんな人というか、レオンがいいんだけど。
「優しくて、自分で決めたことはやり遂げる人かな」
レオンの好きなところを告げる。
昔からレオンは口ではなんだかんだ言いつつも、私が困っているといつも助けてくれた。
結婚してからはもっとわかりやすく優しくなった気がする。
それに騎士団員になると決めたら、ちゃんとなった。
それにレオンのお母様が言っていたが、最速で部隊長になると決めたら、しっかりなった人なのである。
そういうところを私は尊敬している。
「ふーん」
レオンが少し不貞腐れたような声を出す。
「なに?」
「いや、なんでもない。着いたぞ」
レオンが降りて、手を差し伸べてくれる。
「なんか本当に騎士みたいだね」
差し出された手に自分の手を重ねながら、思わず言うとレオンが笑った。
「今までなんだと思っていたんだ」
「分かってたよ、分かっていたけど」
絵になるっていうか、サマになるっていうか
「かっこいい」
そう言うとレオンの顔が見る間に赤くなっていく。
「えっ?」
その顔はまるでこないだヴィオラにしていた顔ではないか。
じっと見入ってしまうと、レオンがあいているもう片方の手で顔を隠す。
「見るな!」
「もしかしてレオンって意外と照れ屋?」
てっきりヴィオラに対して照れたのだと思っていたが、違ったのだろうか。
「うるさい」
そう言って私の手を掴んだまま、ずんずん歩き出す。
その後ろ姿に笑みが溢れる。
なんだ、まだ私にもチャンスはあるかもしれない。
とりあえず一生懸命頑張ってみますか。




