小競り合いの始まり
あの日の私たちは美しい友情で結ばれていたはずなのに、何がどうなって、レオンと口喧嘩ばかりになってしまったのだっけ。
大人になったレオンの横顔を見ながら、記憶をさかのぼる。
あれは7.8歳の頃だっただろうか…
私たちは同じ学校に通っていた。
「レオン!帰ろう!」
いつものように隣のクラスに顔を出し、レオンを呼ぶ。
クラスも一緒だったらよかったのに、隣のクラスなのである。
でも家も近いし、毎日一緒に帰っていた。
その日のレオンはいつもと様子が違った。
いつも真っ直ぐ私のもとに来てくれるのに、自分の机に留まり、少し困ったように視線をさまよわせていた。
「どうしたの?帰ろう?」
不思議に思って近づき、レオンの手を握る。
するとレオンが驚いたように、手を振り払う。
「えっ…」
そんなことは今までなかったので、目を丸くしてレオンを見る。
すると私以上にレオンが傷ついた顔をしていた。
「いや、ちがう。えっと、俺に触らないで」
「レオン急にどうしたの?私なにかした?」
いつもと違うレオンに心配になって、顔をぐっと近づける。
レオンは慌てたように自分の顔を腕で隠す。
「本当に何があったの?」
その腕をどけようと掴むと、レオンが
「さわるな!」
と言った。
幼い私はショックを受けて、固まった。
「あっ…」
レオンが私を見て、声をもらす。
私は目に涙を溜めて、レオンをにらむ。
「そんなに私のことイヤ?!人をバイ菌みたいに!レオンのことなんか知らない!レオンのばか!だいきらい!!」
私の方が傷ついているはずなのに、レオンがショックを受けたように口をパクパクさせる。
「お、俺だってソフィアのことなんか…」
「なによ!ひどい!もう一緒に帰ってあげないんだから!」
「た、頼んでないし!」
何かレオンが嫌がることをしてしまったのかと思ったが、私も原因がわからず、謝ることができなかった。
というか、明らかに私は悪くない気がする。
レオンが一方的に…
私のこと嫌いになったのだろうか…
そう思うと、悲しくて胸が痛くて涙が出そうで、悔しくて考えないようにした。
翌日のレオンは謝ろうと思ったのか、私のことを休み時間のたびに様子を見に来た。
けれど私も素直になれず、ぷいと視線を逸らしていた。
するとただの喧嘩だったはずが、その後15年以上続く小競り合いに発展してしまったのである。
顔を見合わせれば、憎まれ口を叩かれ、つい言い返し、その繰り返しをもう何年もすることになってしまった。
ハンナには呆れたように言われたことがある。
「あんたたち、そんなに嫌なら近づかなければいいのに」
「だって…」
ハンナの言葉に口ごもる。
視線を彷徨わせ、ぼそりとつぶやく。
「好き、なんだもん」
幼い頃からの恋心というのは自分の中でしぶとくて、ずっと居座っている。
こんなにいがみ合って、嫌われているかもしれないというのに。
好きな人と言われると当たり前のようにレオンを思い浮かべてしまう。
最近はなんでも言い合える、この関係も悪くないと思い始めている自分までいるのである。
「重症ね」
ハンナが困ったように、そして見守るように笑って、頭を撫でてくれた。




