あの日のこと
私とレオンは生まれる前から家族ぐるみの付き合いだった。
父親同士が同じ年で、学生時代から大の仲良しだったのである。
私たちはしょっちゅう一緒に遊んでいた。
遊び場はお互いの家や庭が多かった。
しかし5歳ごろになると、それでは物足りなくなっていた。
大人の目を盗んで、近所のシロツメクサが咲く丘まで大冒険したのである。
兄が連れて行ってくれたその場所が大のお気に入りで、レオンにも見せたかったのである。
私が言い出したことだったのに、家から遠ざかるにつれて二人だけということが不安になってきた。
「いいのかな?大丈夫かな?」
今頃、お父様たちが必死で探しているかもしれない。
レオンは立ち止まって私をじっと見た。
「こわい?戻る?」
心配そうに私の顔を覗き込んだ。
私はしばらく迷った。
でもどうしてもレオンと二人で見に行きたかった。
「レオンと行きたい」
そう言うとレオンはにっこり笑った。
そして私の手を握る。
「何があっても、ぼくが絶対ソフィアを守るよ」
そのあたたかい手と眼差しに怖さは飛んでいった。
レオンの手を握り返す。
「ありがとう。レオンって騎士みたい!」
レオンのお父様が騎士だったので、自然とイメージが思い浮かんだ。
あのかっこいい制服もレオンに似合いそうである。
レオンは目をぱちくりさせ、嬉しそうに笑った。
そうして二人で手を繋いで、丘の上に登った。
「わーい」
登り切った時には達成感があり、二人で両手をあげた。
「ほんとうにレオンが守ってくれたね」
「そう?」
虫が飛んできた時にさっとレオンが私を背中に隠してくれたのである。
幼いながらにその背中に頼もしさを覚え、胸が高鳴った。
「かっこよかった」
レオンの顔を見つめ、にこにこする。
心なしかレオンが顔を赤くする。
「きれいだね」
丘にはシロツメクサが咲き乱れている。
レオンに言うと、レオンがおもむろに花を摘み、何かを編み始めた。
「何作っているの?」
「まだ内緒」
器用に編み込むレオンの手元をじっと見つめていると、それはやがて輪になった。
「できた!」
そう言うとレオンが頭にのせてくれる。
「うれしい!ありがとう」
「花嫁さんみたい」
レオンがそう言う。
たしかにこないだ見た親戚のお姉さんの結婚式でも似たようなものをつけていたな。
花嫁さんか…
「私、レオンと結婚したい!」
思わず口に出す。
するとレオンはそれに驚いた顔をしてから
「うん。大人になったら結婚しよう」
笑って、指切りをしてくれたのである。
その後帰って二人でこっぴどくお父様たちに怒られた。
「ぼくがむりやりソフィアを連れて行ったんです」
「ちがうわ!わたしが行きたいって言ったの」
二人で庇い合うと、親がしょうがないなと言うように笑って、説教は終わった。




