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仮題「偽勇者」  作者: 東間侑
5/8

転落・前半

残酷および虐待の描写があります。ダメな方は飛ばしてください。

【一部設定の修正】主人公の年齢を16→18に変更しました(プロローグ参照)

私は王都から北にずっと離れた小さな村で生まれた。

規模は小さいが近くの森を伐採し、材木を売って生計を立てている村だった。

私の家は村で唯一の雑貨屋を営んでいて、暮らしは慎ましやかだけど仲の良い普通の家族だった。

私が15歳になって独り立ちする時には二人とも盛大に祝ってくれたのを覚えている。


あの頃の私はいずれ両親のやっている雑貨屋を引き継ぎたいと思っていて、商売の勉強をしたいと店に商品を卸してくれている隣町の商会に住み込みで働きに出れる事になった。

商会の会頭は商才に溢れていて、街で一番の商会だった。毎日たくさんの商品が店に届いては、次々と売れて運び出されて行く。

最初こそ下働きとして掃除や洗濯などをさせられていたが、半年ほど経った頃にはお金の計算もできるようになって少しずつ店を手伝えるようになってきた。


ひと月に一度、私の村との取引があったので、商隊の人に頼んで両親と手紙のやり取りもしていた。

1年間、必死に勉強と仕事をしてほんの少しだけど商売というものが分かってきたように感じてきたころだった。


私の村に向かった商隊が予定の期日を過ぎても戻ってこないという事態が発生した。

会頭は早馬を出して様子を見に行かせたが、その早馬も戻ってこなかった。

私は両親の事が酷く心配になり、会頭に頭を下げて一度村に帰らせてもえるように頼みこみ、会頭はしぶしぶながらそれを了承してくれた。

私は手早く準備を済ませると荷物をまとめて村へと向かった。

村までは徒歩で片道丸2日、私ははやる気持ちを押さえつつ村へと急いだ。

村が見えてくるといてもたってもいられず、小走りで村へとたどり着く。


何かがおかしかった。


日も傾き出した時間とはいえ、辺りに人の姿が見えない。

そして私は気が付く、どの家からも明かりが漏れていないことに。


私は背に負っていた荷物を投げ捨て、我が家へ一目散に走った。

それほど広い村では無い、5分も行けば家につく、やはり明かりは灯っていない。


「お父さん!お母さん!」


家を扉を勢い良く開き、私は叫んだ。

だが、家の中から返事は無く、室内には腐臭が漂っている。足の速い商品が陳列されたまま腐っている。

家の奥へ入り、家中を見て回るが、両親の姿は無かった。

私はとりあえず、近くの家からしらみつぶしに戸を叩く、だがやはりどの家にも人はいない。

材木の積み込みを行う広場へ行ってみると、商会の馬車が止まっていた、駆け寄り辺りを見回すが商隊の人達の姿もどこにも無かった。


一体何が起こっているのか、全くわからず、とっぷりと夜が暮れても辺りを探して回った。


いつの間にか、空が白けはじめていた。

会頭との約束で村にいられるのは一晩だけということになっていた。何が起こっているのか何一つわからないまま、私は投げ捨てていた荷物を広い、半ば放心状態のまま隣町へと引き返す事になった。


2日、記憶がぼんやりとしているが、隣町の商会へたどり着く事ができた。

私の様子を見て、商会の従業員さん達が代わる代わる声を掛けてくれたように思う、記憶は酷く朧げだ。

少しして会頭に呼ばれ、会頭の部屋を訪れると、彼も他の皆と同じように私を心配してくれている様子だった。

私は村の状況を会頭に伝えると、会頭も首を捻って難しい顔をしていた。

私の記憶はそこで一度途切れている。


次に気が付いたのは、商会であてがってもらっている部屋のベッドの上だった。

様子を見に来てくれていた従業員の女性が二言三言私に声を掛けると慌てて部屋を出ていった。

悪い夢であってくれればいいと一瞬思ったがどうやら現実らしい。


私は2日ほど寝込んでいたようだ。看病をしてくれた従業員さんはその間あったことを教えてくれた。

私が倒れたあと、会頭は街の代官の元に行き、私がした話をしたそうだ。結果代官は私の村への移動の一切を禁止にしてしまったという。

理由は明かされていない、街の上層部の決定だとお触れが出たらしい。無論村人の捜索も行われないとのこと。


私はなぜそのような判断がくだったのか納得が出来ず、会頭の部屋へ転がるように飛び込んだ。

だが、私を待っていたのは、想像もしていなかった、更に酷い現実だった。



会頭に促され、部屋に置かれた来客用の椅子に座らせられると、会頭は酷く神妙な面持ちで私に言う。

なんでも、私の両親は商会に多額の借金をしていたらしい。借用証文を確認させてもらうと確かにそこには父と母の名前が連盟で書かれていた。

どうやら、私はこの商会に受け入れられたわけではなく、両親が逃げられないようにするための人質ということだったらしい。

そして、両親がいなくなってしまったこの状況で私に残されていたのは、借金奴隷としてこれから生きていく道だけだった。





翌日には奴隷管理の役人がやってきて、私は首に奴隷の目印である枷を嵌められた。

この枷には大きな効力は無いが、ほぼ唯一制限事項は自傷が出来なくなるという効果があった。

この枷は役人か契約を結んでいる本人にしか外すことは出来ず、一目で奴隷だと言うことがわかる。

ただ、奴隷といえど無下に扱う事は許されておらず、ある程度の権利は保証されている。とその役人は言っていた。


借金を返し終われば身分からは解放され自由になれるが、私の負った借金は私が一生かかっても返せるか返せないかわからないほどの額だった。

それからは、商会の中でも私を見る目が明らかに今までと変わっていった。

取引先等に連れていかれる事は無くなり、お金に触れる仕事からは外されて、高価な荷物などには触れる事さえ許されなくなっていき、掃除や洗濯、荷運びや雑用などで日々の大半が過ぎていくようになっていった。

借金奴隷には自由に使えるお金は無い為、何か必要なものがあっても会頭に許可をもらい、お金を支払ってもらう必要があった。

奴隷に落ちるまでは、商会の人間として恥ずかしく無いように少ないお給金の中からやりくりしてそれなりの服を買っていたが、そんなことはもちろん許されず、私はどんどんとみすぼらしい姿になっていった。


後半に続く



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