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プロローグ② 絶望、希望、また絶望

 両親が死んだ頃のことを思い出す。バタバタと目まぐるしく世界が変わっていった。かける言葉もないのか、距離を置く同級生達。潰れた車。俺を慰めてくれた担任。憐れむ警官。ほおを伝う涙。親族の押し付け合い。遺影。


「お兄ちゃん……」


 母方の親戚の車に乗せられ泣優香。俺達は別々の親族に引き取られ、離れ離れとなってしまった。俺が独り立ちするまでの数年間、優香には辛い思いをさせてしまうことになる。


「お兄ちゃん」


 ごめんな、優香。必ず迎えに行くから。当時小学生6年生だった俺の手のひらに爪が突き刺さった。


「お兄ちゃん! 起きてってば!」


 パチリと目を覚ます。視界に飛び込んで来たのは。優香の顔。目一杯に涙を溜めている。


「むにゃ……優香? 誰だうちの妹を泣かせたのは……?」

「もぉっ、バカ!」


 俺は地面に横たわっていた。クリーム色の天井を数秒間見つめた後、むくりと体を起こす。


「…………?」


 周りを見渡す。無駄に高い天井——と言うか、天井が見えない。やけに暖かい床も果てし無く続いている。言うまでもないが、俺はこんな悪趣味な部屋に住んでいない。等身大のワンルームだ。


「………どこだここ?」

「分かんないよ。私も気づいたらこんな所に寝てて」

「俺達、入学式に向かってたよな」

「うん、それで途中でトラックに轢かれて」

「……!」


 ハッと思い出し、俺はポカリと優香の頭を叩いた。


「いたーい! なにすんのよ!」

「馬鹿かお前は! あの状況で俺を庇おうとする奴があるか!」

「だ、だって! お兄ちゃんってば周りもよく見ないで飛び出すんだもん。ちゃんと左右確認してから渡ってよ!」

「だからってお前まで飛び出すことはねえだろ! もうちょっと後先考えて行動しろっていつも言ってるだろ!」

「だって体が勝手に動いてたんだもん!」


 久しぶりの兄弟喧嘩だ。前にしたのはいつだったか……。そうだ、高校に入学したらバイトをするとか優香が言い出してきた時だから3日前だな。って割と最近か。


「まさか死んじゃうとも思わなかったし……」

「死……」


 俺は立ち上がる。背筋に冷たいものが走った。今更ながらに恐怖心を抱きながら、遥かなクリーム色の地平線を見渡した。明らかにこの世の場所ではない。


 俺達は……死んだのか。


「そういうこと」

「おわっ!」

「キャーッ!!」


 背後から聞こえてきた声。優香が俺に抱きついてきた。バランスを崩して尻餅をつく。

 顔を上げると1人の女がケラケラと笑っていた。


「は? まじでビビりすぎっしょ! ちょーうける!」

「………………」

「…………ヤマンバ?」


 そこにいたのは金髪のギャルだった。

 短いスカートにルーズソックス。魔女のような長い付け爪に化粧で強調された大きな目。

 ……時代遅れのガングロギャルだ。絶滅したはずだが、生き残りがいたらしい。


「は!? 時代遅れ? あーしが!?……はーまじテン下げ。人間流行変わるの早すぎっしょ。この間二足歩行したばっかなのに……」


 ギャルは唇を尖らせた。あれ、今俺の考えてることに返事したような…。


「んあ? そりゃー読めるにきまってっしょ。だってあーし神様だかんね」


 ニッ、とギャルは口角を釣り上げた。俺と優香は顔を見合わせた。


「か、かみって……」

「神様のこと?」

「そーそー、ゴッドゴット。創造主でーす。あーしが人間作りました、神粘土でね」


 改めてギャルの姿を観察する。金色の髪の毛の根元は若干黒くなっており、体つきも日本人らしく控えめだ。うん、どこからどう見てもギャルだわ。


「でたよ。神はヒゲジジイかちょー美人女神様だと思ってる奴。あーしも一時はそんな時期もあったけど、今時そんな見た目の方が時代遅れだっつーの。今は多様性の時代だべ?」

「は、はあ……」

「てかさ、あーしの見た目は今どーでもいーの! まこぴょん、ユリアンヌ。今からまじ大事なこと言うからまじ聞いて。まじで」

「まこぴょんって……俺のことすか」

「え? じゃあユリアンヌって私?」


 まじまじ、と連呼しながらギャルは腰に手を当てる。


「ごめん、まじミスった。チョベリバなんだよね〜。あれ、今チョベリバって言わない? 死語?」

「死語です。それで、ミスってのは?」

「うん。あーしはまこぴょんだけ殺そうとしたんだけど、ユリアンヌ間違えて一緒に殺しちゃったんだよね。なんか、つけまがズレちゃってさー」

「ちょ、ちょっと待ってください。話が良くわからないんですが。あなたがトラックを運転していたんですか?」

「ちげーって。あーし全知全能だけど運転免許はオートマ限定だから」


 ギャルが腕組みする。付け爪がぎらりと光った。


「じゃあ最初っから話すよ。あーしは人間の暮らしを見守るのが仕事だから基本人間世界には不介入なんだけど、宇宙のバランスを取るために、定期的に人口を減らしてるんだよね。ほら、庭師は雑草抜いたり木の枝切ったりするでしょ? そんな感じで人を殺しちゃうのが仕事なのよ。で、今回まこぴょんに白羽の矢が立ったわけ」

「お兄ちゃんが雑草みたいに邪魔だって言いたいんですか」


 優香が低い声でそう問いかける。うわ、怒ってるな。こいつ、怒ると怖えんだよなぁ。


「神の目線からすればね。このまま2人で暮らしていけばユリアンヌは単なる地方公務員で人生を終える。ただ、ここでまこぴょんが死ねば、アンタは政治家になってアンタらの世界をちょっとだけ良くできるってわけさね」


 せ、政治家? 驚いて優香の横顔を見つめる。たしかにこの子は逆境に強いタイプだが、俺の死をきっかけにそこまで羽ばたくとは……。


「ふざけたことを言わないでください! 一人で偉そうな職業になるより、地味でもお兄ちゃんと一緒の人生がいい!」

「優香……」


 じーん。訳のわからん状況だが、こんな状況でも親心……じゃなくて兄心は満たされるらしい。


「あーそ。まぁそれはどっちでもいいんだよ。もう取り返しがつかないんだから。ユリアンヌは死んじゃったから、今からまこぴょんと一緒に輪廻転生の輪に入ってもらうんで。さすがにあーしも寝覚め悪いから一言謝りたかっただけ。まじメンゴ、スマン!」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!!」


 今度は俺が声を荒げる番だった。


「謝って済む問題じゃないでしょう! 優香だけでいいから生き返らせてくださいよ!」

「ちょっとお兄ちゃん!」

「お前は黙ってろ! おい、神様だがなんだか知らないが、とっとと優香を蘇らせろ! アンタの責任なんだろ!」

「ワリ、ムリ」


 バッサリとギャル神は切り捨てた。


「だいたいさー、あーしがミスったのも人間のせいなんだよね。なんかここ10年くらいで人間がまたイミフな文化を作ったみたいでさ。異世界転移ってのを夢見てんの。そのせいで年間何件も実際に異世界転生してるやつが出てきて……」


 ブツブツと文句を言うギャル神。俺は我慢できず、言葉を遮る。


「無理ってなんだよ! 優香はこれからどうなるんだ!!」

「言ったでしょ輪廻転生だって。まあ、お詫びの印に脊椎動物くらいには生まれ変わらせてあげっけど……」

「ふざけるなぁっ!」


 俺はたまらずギャル神につめよる。が、俺の腕は途中で止まった。優香が俺の腕をがっしりと捕まえていた。


「お兄ちゃん。私は大丈夫だから。神様に逆らおうだなんて、無茶なことやめて」

「優香……」

「ほーん、やっぱり聡明だね。確かに、ここで転生させるには若干惜しいかも」


 ギャル神は白い口紅が塗りたくられた口を吊り上げた。


「いいこと思いついた。あーしってやっぱ神ってるね。よし、まこぴょんの心意気に負けてあげるよ。ユリアンヌを蘇らせる……いや、兄妹揃って蘇らせるチャンスをあげよう」

「ほ、本当ですか!?」

「ガチガチ。アーシ生まれて140億年、嘘ついたことねーから」


 ギャル神は俺の顔を指さす。


「今からまこぴょんには【異世界転移】してもらうから。【ダンジョンマスター】としてね」


 うん、さすがに古いとはいえギャル語はよくわからない。

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