第六話② 勇者パーティ
勇者の瞳が禍々しく光る。ユーリンを魅了した時と同じく赤く光ったその瞳にお凛の顔が映る。
「【魅了】」
勇者はニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべた。
「お凛さん!」
優香が声を上げる。
「……なんじゃ?」
お凛は不思議そうに首を捻った。
「あ、あれ?」
勇者は素っ頓狂な声を上げる。どうやらお凛に催眠は聞いていないようだ。
「お凛さんはダンジョンモンスターだから催眠が効かないのでしょうか……?」
優香が首を捻る。理由はどうであれお凛が無事なのは良かった。ダンジョンで一番レベルの高いお凛が訳のわからん男の奴隷に成り下がるなど、さすがに看過できない。
「おい、お前。何か仕掛けがあるのか」
「仕掛けというか……彼女は俺の部下なので催眠にかからないみたいですね」
「部下? さてはお前も俺と同じ催眠スキル持ちか?」
「いや、違いますけど……うーん、説明がめんどくさいな」
特殊な状況下、俺自身わかってないことも多いのに事細かに説明する気にはなれなかった。確か俺たちがこの世界に来た目的は、ああ言う転移者を始末することだったよな。
「よし、殺していいよ」
「うむ」
お凛は収納から薙刀を取り出すと勇者の首をはねた。
●◯
当然、と言うべきか。勇者が首から血を吹き出しながら倒れると赤く染まっていたユーリンの瞳が元の空色のものに戻った。
「ひゃわわわわっ!?」
情けない悲鳴をあげつつ勇者の膝の上から立ち上がりタイバスの後ろに隠れた。
「あっけないのう」
お凛が収納に薙刀をしまいながら呟く。確かに、確認したステータスも一つ目小僧に毛が生えたレベルのものだ。催眠以外のスキルも確認できなかったし。
「う、う、うわあああああああっ!!!!!!」
絶叫。見れば短髪の女騎士がロングソードを抜き、怒号とも悲鳴ともつかぬ声を上げた。首から上を失ったまま椅子に座る勇者に斬りかかる。
「この腐れ外道が!!」
一刀両断。肩から腰にかけて振り下ろされたロングソードは見事に勇者の体を切断した。
「ああああああ!!!!」
女騎士はそれでも飽きたらないらしく何度も何度も勇者の体を切りつける。足元に転がった頭部を踏みつけ、聞くに耐えない罵詈雑言を浴びせる。
「おいおい、やり過ぎだろ」
むせかえる様な鉄の香りが辺りに充満し、吹き出す血飛沫と飛び散る肉片であたりは地獄絵図だ。大人達は子供達を遠ざける。
他の勇者の仲間に目を向ける。
とんがり帽子の幼女は虚な瞳でその場にへなへなと崩れ落ちた。聖職者らしき女はしきり手荷物の中を漁っている。取り出したのは……短剣だった。
「不浄なる私に裁きを」
聖職者は短剣の刃先を自らの心臓に向ける。
「あ」
自殺する気か。俺はそう考えたが、物理的に距離が遠く、止めることはできそうにない。
が、短剣は彼女の命を刈り取るに至らなかった。
金髪のエルフ。勇者一行の一員であるエルフはひとつ結びにした髪を靡かせ、聖職者の手をけり上げた。か細い手の隙間から飛び出した短剣はグルグルと空中で回転し、地面に突き刺さる。
聖職者は何が起こったのかわからなかったらしく、呆然と立ち尽くしていた。その瞬間にエルフは彼女の背後に回り込み、首に腕を回す。
「あっ……」
数秒でぐるりと白目を向いた聖職者はゆっくりとエルフにより地面に寝かされた。
グリグリと勇者の頭部にロングソードを突き立てる女騎士。その顔は鬼よりも鬼らしい。
エルフが背後に忍び寄り、首を絞めた。先ほどと同じく、わずか数秒で失神する。
「素晴らしい腕前じゃな」
お凛が驚いたと言う顔で頷く。燦々たる現場に屈強な獣人族達ですら顔を歪めているのに、肝の座ったダンジョンモンスターである。
エルフは最後に座り込んだ魔法使いに歩み寄る。魔法使いの方はそれに気づいていないのか、はたまた、気づかないフリをしているのか、ぴくりとも動かない。
「よいしょっと」
エルフは幼女の体を抱き抱えた。そのままくるりと俺たちの方を向く。
「謝罪と弁解と贖罪のため。一つの椅子と三つのベッドを求める。エルサント神の名の下に」
「応じる、めぇ」
ヤギ村長がそう言うと周囲の獣人達はパタパタと動き出した。屈強な獣人達が気絶した2人を抱え、なんとか形を留めている家の方に向かう。
「騒がしくなってきたし、俺達は一旦帰るか」
「そうじゃな。妾達が首を突っ込む話でもなかろうて」
「ああ、じゃあちょっと村長に一言言ってくるよ。お凛は妖怪達を集めておいてくれ。優香は吐いてこい」
「ご、ごめん……」
顔色を悪くした優香が小走りに木々の奥に消えていく。
「さてと、その前に……」
俺はこっそりとエルフの方に目を向けた。
「【鑑定】」
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種族 エルフ
名前 エルトリア
レベル 77
体力 219/719
魔力 1015/3071
筋力 413
知力 1152
速力 816
スキル
【弓術LV6】
【魔法・草LV5】
【魔法・妖LV4】
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つっっよ。タイバスよりもはるかに強いな。
「ヤギ村長」
「マコト殿。申し訳、ありません、めぇ。折角、祭りに、お越しいただいた、のに、めぇ」
「いや、気にしないでくれ。ところでものは相談なんだけど」
「はい?」
「話し合いに俺も混ぜてくれないか?」