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第五話② 利害関係

 5日後。お祭りの日がやってきた。こっちの世界に来て1週間以上経ったことになるが体感的にはそれ以上の時間を過ごしている気分だった。

 妖怪たちのレベルは平均で5レベルほど上がった。ステータスもアップしており、鬼たちの動きも目に見えて良くなった……気がする。


「へぇー、魔王ね。そんなんがいるんだ」

「ええ、とは言っても人間と敵対するようなものではありませんよ。言うなれば一個の国の王みたいなものです。高い知力を持つモンスターはだいたいこの国で過ごしていますね」


 ちなみに俺はタイバスからこの世界に関する様々な情報を教えてもらっていた。作り込まれた物語を聞くようでなかなか面白い。妖怪達はヘトヘトになって地面を転がっている。


 いつもは夕暮れ時までやる訓練もこの日は明るいうちに終わった。なんでも祭りの準備にタイバスも駆り出されるらしい。


「申し訳ありません。こんなに早く約束を破るようなことをしてしまって」

「気にしないでくれ。俺たちも招待されてるんだから。むしろ俺が手伝いに行きたいくらいだよ」


 俺がそう言って笑うとタイバスも顔をはにかませた(トラの表情はよく分からないが、たぶん)。


「では、後ほど。日暮れごろにお越しください」

「ありがとな」


 タイバスは足早にその場を立ち去った。


◯●


 日暮れ。俺たちは村を訪れた。考えてみれば俺は村を見たのは妖怪たちの目を通した時だけだ。つまりこの目で見るのは初めてということになる。


「凄い賑やかだね!」

「祭りは良いのぉ。こっちの胸まで高鳴ってくるわ」

「そうだな」


 祭りに来たのは俺と優香とお凛。それからうちのダンジョンで最もレベルの高い5匹の一つ目小僧に赤鬼、青鬼、黄鬼の信号機トリオだ。


「ようこそいらっしゃいました!」


 で迎えてくれたのはもちろんタイバス。タイバスは俺の腕を引っ張るかのように祭りの中心へと歩いていく。


「ダンジョンマスターのマコト様がいらっしゃったぞー!!」


 タイバスがそう言うと歓声が上がる。様々な獣人が押し寄せ、件の襲撃の礼を言ってくれた。


「本当になんとお礼を申せばいいのか……」

「娘を救ってくれてありがとう!!」

「村の救世主様!!!」


 うん、悪い気はしない。しかし、雑種獣人というのは見ていて飽きないものだな。ほぼ人間に近い者、獣が二足歩行西ているに過ぎない者、その中間のような者、実に様々だ。


 永久かにも思われた獣人たちの御礼攻撃を抜け、ようやく俺たちは腰を下ろした。


 広場の中心には巨大な焚き火が焚かれ、その周りで若い男女が踊っている。あちらこちらに美味しそうな料理が並んでいた。見たこともない楽器を弾くサルとイヌの周りで、ブタのような獣人が美声を披露する。広場のはずれに目を向けると子供達がボールを追いかけて遊んでいる。


「ってあれ、一つ目小僧達も混ざってんじゃん!」

「さっき子供達にしつこく誘われてたの。別に良いでしょ?」

「子供ってのはすげえな……」


 一つ目小僧達の顔が不思議と生き生きして見える。ダンジョンモンスターは感情がないかに思えたが、よく観察してみると個性も感情も少しはあるようだ。

 サッカー場と反対の方向で歓声が上がった。目を向けるとごっつい獣人達が集まっていた。


「ぐぐぐぐくっ」

「うがぁぁぁぁ」


 サイ型の獣人と青鬼が腕相撲をしていた。青鬼の後ろには黄鬼と赤鬼が、サイ型の獣人の後ろにはテナガザルの獣人とウマの獣人が拳を握って立っている。


バァァン!


 机が割れんばかりの音がして拳が叩きつけられる。サイ型獣人は空に吠え、青鬼は悔しそうに腕を抑えた。


「さっき大人達に……」

「分かった分かった」


 多様な形態の獣人だからこそ妖怪にもびびらないのかも知れない。


「マコトさん、紹介したい人がいるのですが」


 声をかけてきたのはタイバス。その後ろにはえらく小柄なヤギ型獣人が立っていた。


「お初に、お目に、かかりますめぇ。ワシは、この村の、村長、だめぇ」


 ゆったりとした口調で話しかけてきたヤギ村長は丁寧に先日の御礼を述べた。


「いやはや、ダンジョンマスターである、マコト様が、わざわざ、祭りに、お越しくださるとは、ワシも、長いこと、生きておりますが、とても、嬉しい、限りで、ありますめぇ。ちなみに、マコト様は、この祭りの、由来を、知っておりますか、めぇ?」

「いや、正直わからないですね」

「めっめっめっ! いやはや、失礼いたしましためぇ。客人が、知らないのも、無理は、ないめぇ。この祭りは、遡ること、250年、前…………」


 御察しの通り村長の話は長かった。ここが祭り会場じゃなく、正午過ぎの教室だったら俺は間違いなく夢の国に誘われることだろう。

 気がつくとタイバスはいなくなっていた。あのトラこのこと知ってて逃げたな。


「ねー、おじいちゃん! マコトさん達困ってるよ!」

「おや、ユーリン。なんのようじゃ?」

「はあー、全くおじいちゃんってば……」


 話に割り込んできたのは獣人の少女だった。かなり人間に近い容姿をしているが、頭から生えた耳や、ユラユラ揺れる尻尾を見る限り、猫型の獣人なのだろう。


「こちらは、ワシの孫の、ユーリン、ですめぇ」

「よろしくお願いします!」


 ぺこりと頭を下げるユーリン。俺も軽く会釈をした。


「元気がいいのが、とりえですが、最近どうにも、元気過ぎで……」

「アタシ、冒険者になるのが夢なの!」


 不安そうな村長の言葉を無視してユーリンは無邪気に目を輝かせた。褐色肌といい引き締まった体つきといい、たしかに快活な印象を受ける。


「この村も大好きなんだけど、いつか広い世界を見てみたい!いろんな人と会ってみたいんだ!」

「それは……素敵な夢だな」

「マコト様! そそのかさないで、くだされめぇ!」


 悲痛な村長の悲鳴。その隣でユーリンはポンっと手を打った。


「そうだ! おじーちゃん、温泉に案内してきてもいい? いいでしょ?」

「うーん、まぁ、皆様が、よければ……」

「やった! さぁ、皆さん!この村名物の天然温泉に案内いたしまーす!」


 ユーリンが片足を上げて笑う。調査の時気づかなかったがこの辺には温泉があるのか。


「温泉か!よいのぉ!」

「私も是非! こっちじゃタオルで体を拭くだけだったから!」


 女性陣もノリノリだ。


「俺も久しく入ってないからな。是非案内してくれ!」


 俺も日本人としてのテンションがプチ上がる。するとユーリンは驚いた顔をした後、いたずらっ子のような顔をした。


「ちょっと〜、マコトさん。アタシと一緒に入りたいの〜?」


 さっと胸元を隠すようなジェスチャーをする。


「申し訳、ありません。温泉は、1つしか、ありませんゆえ……」

「あ、あ、あははは! ごめんごめん!」


 自分の失態に気づいて、笑ってごまかす。


「じゃあ、早速行ってくるから。マコトさんも後で是非行ってみてね」

「ありがとう」

「じゃあお兄ちゃん、行ってくるね!」

「しっかり楽しんでくるぞよ〜」


 女性陣は楽しそうに森の奥に消えていった。


「いやはや、若い者は、活動的ですめぇな」

「そうだな」


 何か忘れてる気がする。


「さて、どこまで話した、めぇかな? そうだ、ワシらの、先祖である、ライオン獣人の、ウォーリスが、レッドドラゴンを、討伐した時の、話でしたな。そう、あれは130年前……」


 今、思い出した。俺は村長の昔話を1人で聴き続けなければならないのだ。


武術解説③「金棒術」


「鬼達の持ってる金棒は痛そうだな。あんなのと間違っても戦いたくないぜ」

「そうだね。ちなみにあれの正式名称は金砕棒(かなさいぼう)って言うんだ。実際に人間同士の戦いにも登場してたんだよ」

「ひええ。恐ろしいな。しかしあんな重そうなもの人間が扱えるのかよ」

「もちろん難しかったみたいだね。昔の日本人は小柄だったし。実戦で投入されたことはほとんど無いみたい」

「破壊力は抜群なんだろうけどな。過ぎたるは及ばざるがごとしってワケか」

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