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第五話① 利害関係

 2人の獣人が待つ部屋へと歩みを進める。


「あの獣人達の狙いはなんだと思う?」

「敵対ではないとは思う。おそらくだけど——友好関係を築きに来たんじゃないかな?」

「友好関係か」

「うん。この間襲われてた村を助けたわけじゃん。数の暴力に加えて不意打ちだったとしても救世主なわけだし。もっと言っちゃえば、私たちを背後につけることで昨日のような山賊の類に脅かされる心配もないだろうから」


 優香は一呼吸置いてさらに話を続ける。


「それに、雑種獣人は争いを好まない種族なんだよね。敵対する必要がない相手とわざわざ戦うはずが無いと思う。私たちを倒したところで得られるのは経験値と無益な洞窟だけだから」

「経験値ってそんなに価値のないものなのか? ゲームなら多少寄り道しても取りに行くが」

「そりゃゲームなら大切だけど、ここはあくまでリアルな世界だからね。レベル100の勇者でも毒でも盛られればあっさり死んじゃうし、レベル1でも数さえ集めれば村の一つや二つ滅ぼせるし」


 そんなことを話しているうちに目的地に到着した。


●○


「やあやあ、お待ちどうさまです」


 俺は2人の獣人の前に立った。ダンジョンコアを通してみる時と違って、実際に見てみるとその筋骨隆々とした姿に圧倒される。2人とも身長は2メートル以上ありそうだ。


「ダンジョンマスターの誠です。よろしく」

「妹の優香です」

「で、わらわが階層ボスのお凛じゃ」


 俺たちが簡潔に挨拶をする。


「お初にお目にかかります。私は獣人族のタイバスと申します。近くの村に住む者です」

「同じく……アンゴリーだ」


 トラの獣人は丁寧な挨拶を、ゴリラの獣人は素っ気ない挨拶をする。


「まず、突然の訪問並びにダンジョンモンスター達への暴力行為大変失礼いたしました」

「あー、まぁ幸い怪我した奴はいないみたいだし気にしないでください」


 90度に頭を下げるトラの獣人、タイバス。中々礼儀正しい性格らしい。


「お心遣い痛み入ります」

「で、今日はどのようなご用件で?」


 横から口を挟む優香。どこか警戒心を解いてしまっているようだ。


「はい。今回は先日、我が村を防衛して頂いた御礼に伺わせていただきました。……アンゴリー」


 タイバスがアンゴリーを突っつくとアンゴリーは背中に背負っていたバッグから革製の袋を取り出した。


「どうぞお納めください」


 素直に袋を受け取るとチャリン、という金属音が聞こえた。袋をのぞくと金色の硬貨が光っていた。


「恥ずかしながら我が村は貧乏なもので……それほどしか用意できてません。申し訳ありません」


 再びタイバスが頭を下げる。強そうな割には(実際強いが)腰の低い人だ。


「あ、ちょっと待っててもらえるか?」

「かしこまりました」


 俺は優香を連れて部屋の隅っこに行く。


「これってどれくらいの価値なんだ?」


 袋の中の硬貨を全て取り出す。金貨9枚と銀貨20枚だ。


「……多くないと言ってたけど、かなりの量だね。人間1人なら2.3年は安泰に暮らせると思う」

「へえ、そりゃ思わぬ臨時収入だ。……俺らに必要なのか?」


 衣住食は基本的にダンジョンの中で完結している。わざわざ欲しいもののために外の人々と取引しようとは思わない。


「持ってて損はないかもしれないけど……私達にとってDPの方がはるかに大事だと思う」

「だよなぁ」

「それに、雑種獣人族は非常に義理堅い性質を持ってるから……」


 優香は少し目を伏せた。


「もしかしたらこれは彼らの村の全財産に相当するのかもしれないね」

「ええ……」


 急に革製の袋が重くなったように感じた。


「見た所彼らの村は裕福とは程遠いから」


 言われてみれば村の家はどれもボロボロだった。男達がほとんど居なかったのもどこかに働きに出てるとしたら頷ける。


「じゃあ、やっぱりこれは返すか。これを受け取って村が滅んだら寝覚めが悪いな」

「あ、まだ人の心残ってたんだ」

「悲しいモンスターか俺は。まあ、タダで返すわけではないがな」

「あ、残ってなかった」


 俺たちはタイバス達の元に戻り袋を突き返した。


「これは受け取らないよ。俺たちには不必要なものだから」

「そ、そんな! ほんの気持ちですから!」


 ほんの気持ちですから2.3年分の生活費を渡すのかこいつは。


「いや、出来ればこれ以外の誠意を見せてもらいたくてね」

「……申し訳ありません、少女達の純潔だけはどうか……」

「いや、そこまで下衆じゃねーよ」


 俺はタイバスに金貨の入った袋を押し付けた。


「では、我々は何をすれば……」

「その前に、タイバス達はずっとこの村にいるんだよな?」

「いいえ、10日後に警備の仕事が入っておりますので。アンゴリーも7日後に傭兵の仕事が……。ただ、村の警備のために交代で2人獣人が帰ってくるはずです」

「そいつらって強い?」

「帰ってくるのは……誰だったか分かるか?」

「サイージャとナガオだ」

「ああ、そうだったそうだった。2人ともかなりの腕ですよ。サイージャという若者は数々の戦績を残す期待のホープです。ナガオは我々2人よりも強いですから……」

「待て、タイバス!!」


 アンゴリーがタイバスの言葉を遮った。


「どうした。急に大きな声を出して」

「聞き捨てならんぞ! ナガオが私よりも強いだと!? ふざけるな!私の方がはるかに強い!」

「そうなのか? でも今年の【新年あけまして大乱闘】では大敗を喫していたような……」

「あれは奴の姑息な手段に足を取られただけだ!正攻法なら私の圧勝だ!!」


 タイバスの言葉に猛反論するアンゴリー。クールなキャラかと思ったがかなりの負けず嫌いらしい。


「ま、まあまあ。そのナガオって奴は弱いわけではないんだろ?」

「そうですね」

「私よりかは弱い」

「アンゴリー!」

「ふんっ」


 アンゴリーはそっぽを向いてしまった。


「それで……我々が出来ることとは?」

「ああ、それはな……」


 俺は俺つの周囲を取り囲む一つ目小僧たちを指差して言った。


「こいつらの戦闘訓練をすることだ」


 妖怪たちのパワーははっきり言ってまだまだ弱い。今までは特殊な武器や戦術を生かして勝利を重ねてきたが、タイバスのような身も心も戦闘慣れした戦士には手も足までまい。実際、そうだったしな。


 ならばやることは1つ。妖怪たちにも戦闘慣れをさせるのだ。


 タイバスとアンゴリーは顔を見合わせる。


「お安いご用です。私達も特殊な流派の敵と手合わせするのは良い経験です。むしろこちらからお願いしたいくらいですね」

「そう言ってもらえるとありがたいな」

「しかし、本当にそれだけでよろしいのですか?」

「いいんだよ。その代わりこっちの総戦力は100を軽く超えるからな」

「そうですか……。わかりました。では、早速今日からでも」

「いいのか?」

「勿論です。ただ、アンゴリーは村へ戻してもよろしいでしょうか? 村の防衛が手薄になるのは避けたいので……」

「ああ、そうだな。構わないよ」

「……失礼する」


 アンゴリーは踵を返しのそのそと歩いて行った。


「すみません、愛想のないやつでして」

「ははは。別に気にしてないよ」


 俺たちの世界のゴリラは一言も喋らないからな。


●◯


「動きに無駄が多い! 急所を狙え!急所を!!」

「甘い! 間合いを相手の好きにさせるな!」

「パワーだけが全てだと思うな!テクニック、スピード、パワーを兼ね備えたものだけが真の強者だ!」

「綺麗に戦いすぎだ!戦場なら死んでるぞ!!」

「迷うな未熟者!!!!」


 タイバスの訓練は想像を絶するほど激しいものだった。100人近くいる妖怪たちは戦っては倒れ、起き上がっては倒される。


「すごいね。経験値がどんどん溜まっていく」

「経験値って敵を倒さないと手に入らないんじゃないのか?」

「いや、こういった訓練でも手に入るよ。文字通り『経験』の値だから


 もっとも、『殺人』の『経験』が最も効率がいいらしい。


「矛先に迷いがある!」


 タイバスが最後の一ツ目入道を投げ飛ばした。


「いや、見事じゃ。さすがは歴戦の戦士よの。おお、おお、痛そうじゃ」


 俺の隣でお凛が呟いた。


「……お凛は戦わないのか?」

「わらわ、痛いの苦手なんじゃよ」

「行ってこい」

「でも……」

「デモもストもない」


 お凛VSタイバスは28秒で決着がついた。序盤は圧倒してたものもパワーで押し負けたお凛は悔しそうに着物の汚れを叩くのであった。


「一つ目小僧は個々の力は弱いものの連携がかなり上手いですね。鬼は総じて力任せです。技術面での指導が必要かもしれませんね」


 数時間後、タイバスは笑顔でそう語ってくれた。彼の後ろには妖怪たちが死屍累々と倒れ伏している。


「明日は種族に合わせて細かい訓練をしたいと思います。太陽が真上に来る頃にやってきますので、よろしくお願いしますね」

「ああ、よろしく頼む」


 俺と優香はダンジョンの入り口まで見送った。


「あ、そうだ。マコトさん。今度我が村にお越しになりませんか?」

「村に?」

「ええ、5日後、獣人神を讃える祭りがあるのです。貧しい村なので豪奢なものではないのですが……」

「ぜひ、行かせてくれ」


 俺が即答すると、タイバスは嬉しそうに目を輝かせた。

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