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第四話③ 勇敢で聡明な侵入者

 事態は危機的状況だった。ダンジョン内に侵入してきたゴリラとトラの獣人。この前の野盗達とは比べ物にならないほど強い。実際に、早くも奇襲に失敗した鎌鼬(かまいたち)が捕まってしまった。

 鎌鼬を救出するため獣人に襲いかかる10人の一つ目小僧。武器を握り、明確な殺意を持ってトラの獣人に襲いかかる。

 剣が、槍が、トラの獣人の体に向けて伸びてゆく。


 対するトラの獣人は仁王立ちのまま一つ目小僧達を見据えていた。その瞳は氷のように冷たかった。

 そして武器が彼の体に到達するその瞬間。


「ガオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


 大地を揺るがすような咆哮。


 一つ目小僧達はピクリと体を震わせその動きを止める。ダンジョンコアごしとはいえ、俺はあまりの威圧感に冷や汗をかいた。


「お兄ちゃん!」


 優香の声に反応して俺は我に帰る。慌ててダンジョンコアに目を向けた。


「ま、マジかよ……?」


 トラの獣人に襲いかかった10人の一つ目小僧達。彼らは白目をむいて地面に重なり合って倒れていた。


「何が起きた!?」

「た、たぶん【威嚇】だと思う。スキルの一種で肉食型雑食獣人のみが使える技。低レベルモンスターを一撃で戦闘不能にしてしまうんだけど」


 先の戦闘でレベルが上がったとはいえ、一つ目小僧達のレベルは一桁台前半だ。


「一つ目小僧が相手にならないのも無理はないよ」

「お凛達なら戦えるか?」

「少なくとも【威嚇】だけで戦闘不能になることはないとは思う」


 そうこう話している間に二人の獣人はさらにダンジョンの奥に歩みを進めている。


「とりあえず、ビリヤードエリアの一つ目小僧達はその場で待機だ。お凛達は一つ前の部屋に戻って迎え撃ってくれ!」

「了解じゃ」


 俺は妖怪達に指示を飛ばす。ダンジョンコアの画面には筋骨隆々とした獣人の後ろに倒れ伏す一つ目小僧達が映し出されている。


「命までは奪われなかったようだな」

「妙だね。ダンジョンの中で敵にとどめを刺さないなんて……」


 優香は訝しげな表情で首をひねった。


●○


「どうだ、言った通りおかしなモンスターだろう」

「……ああ。だが知性はないようだ。知的接触は望めん」

「まあ、待て。さっきも言ったように俺は実際に言葉を解するモンスターを見た。突き進めばいつかは彼女に会えるはずだ」

「ふん、どうせ貴様の見間違いだろう」

「信用ないな、長い付き合いだろう」

「長い付き合いだからこそ、だ」


●○


 2人の獣人が2番目の部屋、ビリヤードルームに入ってきた。四方八方から一つ目小僧が襲いかかる作戦の部屋ではあるが、【威嚇】のスキルを持つ侵入者にこの作戦を適用してもいたずらに犠牲を増やすだけだ。


「おっと、早くも別のモンスターか」


 トラの獣人がコキリと首を鳴らす。ビリヤードルームに立っていたのは3体の妖怪。赤鬼。青鬼。黄鬼である。


「変な色のオーガだな?」

「さっきのサイクロプスの子供より強そうだ。気を抜くなよ、アンゴリー」

「貴様こそ」


 鬼達は収納から金棒を取り出した。


「【収納】を使えるのか。いいデザインの武器だ」

「頭の悪そうな武器だ」


 トラの獣人がニヤリと笑いつつ、ゴリラの獣人が眉をしかめつつ同時に言った。


「さすがに素手で相手をするわけにはいくまい」


 トラの獣人が腰から剣を抜く。スタンダードな形をした剣がぎらりと光った。


「武器を使って手加減するのは骨が折れるが……」


 ゴリラの獣人が腰から剣を抜く。と言うか、剣と言うより……ランスだ。そのままゴリラはフェンシングのようにランスを構えた。似合わねぇな……。


「ガァオオオオオオオ!」

「ウガァッ!」

「ガァァァァァァァ!」


 鬼達は雄叫びをあげて一斉に襲いかかる。


 勝負は一瞬だった。


 鬼達は獣人に一撃もいれれる事なく地面に沈んだ。全員失神しているだけらしく、血は出ていない。


「腕を上げたなアンゴリー」

「世辞はいい」


 獣人は武器をしまう。


パチパチパチパチ


 突如部屋の中に拍手の音が響いた。ピクリとトラの耳が動く。獣人達はその音が聞こえた方向、つまり奥へと続く部屋に目を向けた。

 奥の部屋から出てきたのはお凛。そしてそれに従う三体の一ツ目入道。


「鬼達を一撃とはやりおるの。相当タフな連中なんじゃが」


お凛はいつもの調子で喋り出す。


「が、わらわ等はそうは行かぬぞ。わらわは第一階層のダンジョンボス【二口女】のお凛。生きて帰れるとは思わんことじゃな」


 お凛が薙刀を取り出し、一ツ目入道達が武器を構えた。獣人達は武器を腰から抜く。事実上の最終決戦が幕を開ける。























ガランガラン


 しかし、両者の刃は交わる事は無かった。獣人達は武器を投げ捨てたのである。


「戦う気はありません。俺たちの話を聞いてもらえませんか」


 トラの獣人は両手を上にあげ、まっすぐにお凛の目を見つめた。ゴリラの獣人もトラの獣人と同じように降伏のポーズをとる。お凛はあくまで武器を降ろさない。


「あー、他のモンスターを倒してしまったことは謝ります。貴女以外は会話ができないと思ってですね。早とちりでしたでしょうか?」

「いや、事実じゃ。お主の要求への返答、少し待たれよ。上の者と相談する」

「ありがたい」


 一ツ目入道が投げ捨てられた武器を遠くに蹴飛ばし、自らの武器を獣人達に突きつける。


 お凛は奥の部屋に戻った。


『なんじゃあいつ等。意図が見えぬわ意図が』


 お凛からの通信が入る。


「んー、さすがにそうホイホイと信じる気にはなんないが……」

「でも、一つ目小僧達の命まで奪わなかった事には辻褄が合うね」

「だが、ここでこいつ等を殺しちまった方がDPも稼げていい感じな気がするな」

「お兄ちゃん!何馬鹿なこと言ってんの!話だけでも聞いてみようよ

「まあ、優香がそう言うなら……」


 俺は重たい腰を上げて、獣人達の元へ向かった。


武術解説②「薙刀術」


「お凛は薙刀を武器にして戦ってるな。薙刀って実際には観たことないけど、女性が使う武器っていうイメージがある」

「確かに女性の方が圧倒的に使い手の多い武道だね。でも、歴史を振り返れば男の人でも使う人は多かったんだ。鎌倉時代あたり武士の中でもは一番メジャーな武器だったと言う説もあるくらい」

「へぇ、じゃあそれ以降は衰退したのか?」

「戦国時代あたりから個人戦法から集団戦法に戦い方が変わっていったの。薙刀は強いけど振り回して戦う武器だから、集団の中では扱いづらかったんだよ」

「なるほど、だったらリーチはそのままに、素直に扱える槍とかの方が良いのか」

「江戸時代あたりから、武家の女子の嗜みとして伝承され続け、今日の女性の武道としての地位を確立したってわけ」

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