第三話② はじまりの村
一つ目の子供達がは次々と野盗達に襲いかかる。
「ぎゃあっ!」
「ひいっ!」
職業柄様々な武器を見てきたタイバスにとっても見慣れない武器を使う化け物達。野盗達は応戦するがバタバタと倒されていく。
「……致命傷を外している?」
タイバスは辺りの様子を見て思った。一つ目達は野盗の足を切り落としたり腕を飛ばしたりと次々に戦闘不能にしている。その反面、心臓や首など致命傷に結びつくであろう部位への攻撃は一切なかった。そのせいか野盗の闇雲な攻撃に倒れる者もいる。
「化け物が! これでも喰らえっ!」
タイバスの目の前で一人の野盗が一つ目に反撃をする。一つ目はバランスを崩し、地面に尻餅をついた。
「死ねぇぇぇぇ!!」
野盗が剣を振り上げた。
「がぼっ!?」
その瞬間、野盗の体は吹き飛ばされる。風のような速度で野盗に接近し、そのまま力づくで野盗を吹き飛ばした生物。
「なんだ……こいつは……」
タイバスは目を見開いた。そこにいたのは赤い肌の巨人。筋骨隆々とした体つきに頭から生えた2本のツノ。
「グオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
一つ目と野盗の間に割って入った巨人は腹の底から吠えた。吹き飛んだ野盗に向かって人間の胴体と同じくらいの太さの金棒を振るう。両足が粉砕されたのか野盗は絶叫した。
その声に我に返ったタイバスは全身に力を込め、己を縛る縄を引きちぎる。密集して震えることしかできていない他の獣人達に叫んだ。
「みんな、森の奥に逃げろ!」
タイバスの声に従い、獣人達は脱兎の如く戦場から逃げ出した。タイバスはしんがりを務め、周囲の野盗や化物達に威嚇しながらジリジリと後退する。
「ま、まだ娘が奥に……!」
年増の女性の悲痛な声。見ればアライグマの獣人がタイバスの腰に縋っていた。タイバスは若い女達が野盗に連れていかれていたことを思い出した。
「俺が必ず連れて戻る! 今は逃げろ!」
「あ、ありがとうございます!」
「頼んだぞ、タイバス!」
「早く逃げろ!」
「娘をお願いします!」
村の仲間の声を聞きながら、タイバスは暴れる赤鬼の脇を通り抜け村の奥へと走り出した。
●○
「なんじゃこりゃ……」
若い女達が集められた村のはずれ。少し離れたところからその様子を伺うタイバスは思わず体をこわばらせた。
「誰か助けてくれぇ!」
「化け物め! 」
「ウガアアアアアアアアアアアア!!」
「なんなんだ!」
「ぎゃあっ!」
先ほどと同じ一つ目の子供達が野盗相手に暴れている。他にも青色の巨人。さっきの赤の巨人と同種だろう。そして妙な服装をした女が髪の毛を操り野盗を振り回す。
次々に野盗が地面に転がる。
「何者なんだ、こいつらは……」
タイバスは目を皿のようにして戦場を見渡す。戦場の一番奥、巨木の陰に固まる人達。
「あれか!」
鎖に繋がれた若い獣人達。彼女達は身を寄せ合いブルブルと震えている。タイバスは戦場を駆け出した。野盗と化物の間をくぐり抜け、なんとか巨木の影に駆け寄る。
「無事か?」
「タ、タイバスさん」
タイバスが声をかけると少女が涙目で見上げる。
「歩けるか? 隙を見て逃げるぞ」
「タイバスさん!」
「なんだ?」
「うしろ!」
タイバスは後ろを振り向く。そこにいたのは赤い服を着た女性。さきほど戦場で髪の毛を武器にして戦っていた化物だ。タイバスは反転して全身の毛を逆立たせた。
「ガルルルル」
タイバスは拳を構えつつ牙を剥き出して威嚇する。間違いなく人間ではない。手加減する必要はないはずだ。
「おお、怖い怖い」
女性は微笑を浮かべた。真っ赤な唇が釣り上がる。
「なあに、敵意はないのじゃ。獣人には手は出さぬ」
赤い服の女性はくるりと背を向けると、また戦場へと戻っていった。
「敵ではないということか……?」
そう疑問に思ったが、確かべるすべもなく、タイバスは若い獣人達を引き連れて逃げ出した。
○●
「おお、おかえり」
「ただいまじゃ」
強襲が成功し、文字通りお縄になった野盗達を引き連れて妖怪達は帰ってきた。ほとんどが大怪我を負っているらしく、妖怪達に引きずられている。
「こっちの損害は一つ目小僧が2人やられちゃったみたい」
「まあ、その程度なら全然マシだったろ。作戦成功だな」
「左様。わらわ等の姿を見て驚いたところを一網打尽じゃ。実に痛快よのぉ」
お凛が興奮気味に答える。
「お、おい! お前! 俺たちをどうする気だ!!」
野盗の一人が声をあげる。
「疲れたと思うがもう一仕事頑張ってくれるか?」
「もちろんじゃ。此奴らの処刑であろう?」
「ああ」
俺は無視してお凛と話を続ける。
「オイ! 無視してんじゃねーぞコラ!」
「なぁ今処刑って言ったか……?」
続いて優香が俺に声をかける。
「推定獲得DPは38000ぐらい。一気にリッチだね」
「そんなに貰えるのか! 有難いな」
「それと、経験値もかなり貰えると思うよ」
「経験値? ゲームのステータスみたいだな」
「その認識で合ってるよ。ダンジョンモンスターは歳を取ったりしないから筋力や体力は変化しないの。そのかわり生物を殺すことで身体能力を底上げできるの」
「なるほど。それじゃあ、お凛になるべく殺してもらうかな。うちの主力なわけだし」
「うむ、了解じゃ」
「おいてめぇぇ!」
野盗の一人がドスのある声を響かせる。
「てめぇ、俺たちが誰だかわかってんのか。天下の大盗賊集団【ダカロン団】だぞ! 奇襲に成功したからって良い気に……」
「煩いのぉ」
お凛が【収納】から取り出した薙刀で男の首をはねた。
「か、か、頭ぁ!!」
「こいつら、本気だ!」
「た、頼む命だけは……」
大騒ぎしだす盗賊達。
「ウガ」
「ガウ」
「ガオ」
3人の鬼が金棒を盗賊相手に振り下ろす。骨の砕ける音がする。
「あっ! 優香!」
優香は俺と違って倫理観が残っているんだった。慌てて後ろを振り向くと、優香は両耳を塞いでダンジョンの奥に走り出していた。あらら、悪いことしたな。
「少しはグロ耐性つけさせなきゃな……」
「ひぃぃぃ!」
「誰かぁ!」
そんなことを考えている間に一つ目小僧達も武器を取り、襲いかかる。縄に縛られた盗賊達はなすすべも無く全滅した。
「36120DPを獲得。妖怪達のレベルも上がったね。お凛さんは一気にLV5になってる」
「いやー大収穫だな」
「それにしても、お兄ちゃん。本当に倫理観低下してるんだね……」
「だな。まあ、悪人相手だし、害虫駆除って感じだわ」
盗賊達の遺体が全てダンジョンに吸収された後、優香とダンジョンの様子を分析する。お凛はLV5、鬼達もLV3に上がった。一ツ目小僧たちは1〜3とさまざまだ。
「そういえば、アイテムとして野盗たちの装備が手に入ったよ」
「野盗たちの服とかか? ダンジョンに吸収されたんじゃねぇの?」
「価値のないものはそのまま吸収されるけど、武器とかお金とかはアイテムとしてダンジョンに保管されるんだよ」
アイテムはダンジョンコアから取り出すことができるらしい。鑑定と同じ要領でアイテム一覧も確認できるようだ。
「ロングソード、ショートソード、ダガー、バスターソード……ほとんど武器だよな。よく分からないけど」
「私が今度確認して妖怪たちでも使えそうなのを分けとくよ。まあ一つ目小僧達も鬼達も自分の武器持ってるから必要かは微妙だけど」
「ああ、よろしく。で、他には……お金か。銀貨29枚に銅貨582枚。どのくらいの価値なんだ?」
「贅沢しなければ3ヶ月くらいは屋根のある場所で暮らせるくらいだろうね」
「30人くらいいたよな。そいつらの財産がこれっぽっち?」
「別に全財産持ち歩いてるわけじゃないでしょ。隠れ家とかがあるんじゃない?」
「あちゃ、聞いときゃよかったな」
もしかしたら仲間とかがまだ残っているのかもしれない。【ダカロン団】とか言ったっけ? 用心しといた方が良いだろうな。
「よし、少し一休みしたらまたダンジョンメイクでもするか」
「そうだね。次の敵が私達が太刀打ちできないほど強靭な可能性もあるし」
「フラグ立てるのやめてもらえる?」
格闘技解説① 【棒術】
「最初に召喚した一つ目小僧、棒術っていうスキルを使えてたよな」
「うん。正直言ってかなりマイナーな格闘技だけどね。あんまり文献が残ってないからよく分からないけど、剣や槍より歴史は古いみたい」
「確かに簡単な作りだからな。……で、正直強いのか?」
「所詮は鈍器だから攻撃力は低いかも。でも棒術の棒は1.8mくらいあるから、間合いを維持しながらじわじわと相手の勢いを削ることができると思う」
「どちらかと言うと防御よりなんだな。だけど懐に入られたらやっぱり厳しいんじゃ……」
「そうでもないよ。棒術の一派である神道夢想流杖術では『突けば槍、払えば薙刀、打てば棒』と言う格言があるの。要は変幻自在な戦法が魅力なわけ」
「へえ、見かけによらず器用な武器なんだな」
「槍や薙刀のような中距離武器の源流となった武術だからね。現代では警察の捕縛術に応用されてるんだよ」