merry-go-round
ここに青春の欠けらも無い高校生男子がいる。名をカズヤと言う。黒髪を眉にかからない程度に伸ばして、いつも不機嫌そうな顔をしている。背は174とまあ一般男性の平均程度であり、運動神経や学業が特に秀でているわけでもなく、特に何かに熱中しているわけでもなかった。人生になんの宛もなくさまよい着いた所は、地元で5番目当たりの偏差値を誇る県立富岡寺院高校だった。「起立、礼」「ありがとうございましたぁ」「気をつけて帰りなさいよ」今日のホームルームが終わり富岡寺院高校の生徒は下校し始める。これから部活動に励む者、バイトに勤しむ者、友達とオシャレなカフェに行って、インスタグラムのネタを増やす者、はたまたゲームセンターに行く者、そんな人間を横目にカズヤは帰宅する。だからといってカズヤに劣等感のようなものはうまれなかった。この平凡な学校で平凡に授業を受け、特に何かしたわけでもない癖に、帰宅途中の自販機で缶コーヒーを買い、口にする。そんな生活がカズヤは結構好きだった。そして今日も例の自販機でコーヒーを買い、気分転換に公園のベンチでじっくり味わうことにした。この公園は公園と空き地の間をさまよっているような場所であり、小さな子供達にも見放された悲しき土地である。「今日も誰とも喋らなかったな・・・」カズヤは呟いた。さすがの彼もここ五日間学校の誰とも会話がなければ、少し寂しいらしい。カズヤは高校2年生である。1年生の時は1人だけいた友達も結局、別の友人達を作り、今では出会う前よりも疎遠になってしまった。カズヤはあまり友人を作る努力をしなかった。特に必要ないと考える程強気な性格では無いし、なんなら今では少し後悔している。ただ彼は人に話しかける事が極端に苦手であった。缶コーヒーに重力を感じなくなった所で、彼は帰宅の決心をした。立ち上がり住宅街に向かって歩き出した瞬間、こちらを見つめている人物に気づいた。「こんにちは」急に話しかけられてカズヤは戸惑った。「あれ、言語設定間違えたかな」と30代前半と見受けられるオールバックでスーツを着ている男性は言った。カズヤはますます困惑したが、恐らくそういう人なのだろうと自己完結し、そそくさと早歩きで帰り始めた。「ああ、待って待って」男が話しかけて来ても無視を貫き、下を向いて早歩きを加速させた。