婚約発表
「こちらへ」
フィル王子も、ロジャーに負けないくらい嬉しそうな顔をしている。
「僕と結婚して欲しい」
「え?」
突然のことに、フィル王子の顔を見た。
昔から、フィル王子は優しかった。優しかったけれど、腹黒だった。それも知っていた。
「私はこんなにデブなのに?」
「デブ?」
私はうつむいた。
「スイーツの食べ過ぎで」
「何言ってんだかわからない」
王子はパーティ会場のそこここにある鏡を指した。
「君はあそこにいる」
鏡には幻のように美しい一人の女性が立っていた。
私はフィル王子を振り向いた。
「嘘ッ」
「母が言っていた。君の母上は、亡くなる直前に君の見かけが変わる魔法をかけていたと」
「な、なぜ?」
「美しすぎるのは罪だから」
何言ってんだかわからない。だが、王子は私の手を取った。
「多くの人の心を惑わせる。今、僕の心は君で一杯だ。母の王妃様も了承している。受けてくれるね?」
王子は強引に手をつかんで壇上に上がった。
怖い、とても怖い義母は壇のすぐそばにいた。
義妹のマチルダは、ロジャーと並んで立っている。
だが、二人とも、私が誰だかわからないみたい。まぶしそうに見ているだけだ。おかしいな。
「君の魔法が解けた証拠さ。君は、今、本当の姿で立っているのだ。だから、あの二人にはわからない」
殿下は全員に聞こえるような大きな声で叫んだ。
「私の婚約者を発表しよう!」
全員が振り返り、私の顔を見つめる。
みんな、納得したらしい様子だった。どうしてだか、微笑んでいる。
なぜか、義母の公爵夫人も、マチルダもロジャーも、国王陛下や王妃様さえ黙っていた。
納得している様子だった。
おかしすぎる。義母とマチルダは私が誰だかわからないみたい。
「公爵令嬢のダーナだ!」




