君があんまり変わってしまって
「ダーナ! ダーナなのか?」
王子様が叫んだ。
しまった。
そんなに太っちゃったかしら。
「ええっと、私、そんなに変わった?」
「変わったとも!」
王子は情熱を込めて叫んだが、私は絶望的な気持ちになった。
「次のダンスパーティには絶対出て欲しい」
なんでだ。
「ここに一人でいるの? さみしくない?」
フィル王子が、しつこく聞くので、しかたない。これまでの経緯を全部話した。
「信じてもらえないと思うけど」
「いや。わかるよ」
王子は驚きながら答えた。
『魔力……それは欲しい。だが、それよりこの美貌だ』
あいにく王子は美人好きだった。
「僕が必ず誘いに来る。だから出席して」
「ドレスがないわ」
「義母には黙っておくんだよ。僕を信じて。ドレスは贈ろう。」
「え?」
婚約者でもない王子が?
「ロジャーがそう言っていた。うん。心配は要らない」
当日の夕、王子は侍女連れでやって来た。そして、侍女に木に登れと無理を言っていた。
何してるんだろう。
「こちらから、お入りください」
私はドアを開けた。
「鍵開けられたの?」
フィル殿下は驚いていたが、当たり前よ。
「じゃあ、どうして逃げなかったの?」
「どこへ?」
私は言葉少なに聞いた。
「僕のところへ。母がいる」
それが出来ればそうしている。どこにも私は行くところがなかった。だから、ここにいた。なんだか寂しかったけれど。
仕度は出来たが、王宮の会場の前でフィル王子は言った。
「ダーナ、一人で先に行って。僕はしなくちゃいけないことがあるんだ。それが済んだら、必ず君のところに戻るから」
おデブの自分が王太子殿下なんかと一緒に入場したら、殿下の恥だ。もちろん、わかっている。
だけど、久しぶりのダンスパーティ会場はちょっと怖い。
誰もが驚きの目を向けてくる。
「まあ。なんて、なんて……」
「なんという方だ! これまで見たこともない」
……見たこともないくらいのすげぇデブ
一人になってやることもないので、リンゴの季節は、リンゴのパイ、リンゴのケーキ、生リンゴを埋め込んだマッフィン、リンゴジャムの作り置きまでつまみ食いと、食べて食べて食べまくった記憶が走馬灯のように頭をよぎる。
「失敗したわ」
公爵家から、砂糖とバターを取り放題にちょろまかしていたバチが当たったのだわ。
一方、王太子殿下はロジャーを連れて、マチルダのところを回っていた。
「王妃様は本当にいいって言ったのか?」
ロジャーは半信半疑だった。
「もちろんだ。大丈夫だ。俺が保証する。マチルダ嬢に頼んで来い。14歳でもいいって言ってた」
「今日明日結婚する訳じゃないんだぞ?」




