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弘美と純一の場合 vol.100. 少しだけ…道筋…。
純一は、もう少しだけ、そういう話を聞きたいと感じてはいたのだが、
まさか、見ず知らずのカップルに近づく事も出来ず…、
それに、マスターの話しにも、もっと詳しく聞くなどと言う事は出来ずに…。
確かに、今聞いた話をじっくりと聴けたとしたら、
今の自分の鬱な感じが、少しでも晴れると言う事も出来たろうに…。
けれども、全くの今の宙ぶらりんな状況に、
「そういう女性が、この世の中にも…いる…。」
と言う事を耳にしただけでも、純一にしてみれば、
今の情緒不安定な気分に、わずか、一枚、
ふわりとした何かが風に揺れた感じもしたのだった。
考えてみれば、自分で探しても、到底見つからない、
憧れの人への思いを託す術が、何かを切っ掛けとして、
その道筋が薄らとでも見えた感じがしたと言う事だけでも、
今夜の出来事…、若いカップルとマスターの話は、
純一の胸に、小さくも刻まれた事は確かだった。




