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弘美と純一の場合 vol.93. 思惑…ひとり歩き
珍しく純一はひとりで同僚たちと良く来る店のカウンターで、
ビールを飲んでいた。
つまりは何故かしら、
そのまま家に帰る気分にはなれなかったのだ。
その理由が…、礼子が浅川弘美を誘ったからだ。
「加瀬さんは…、俺が彼女に惹かれている事を知っている…。それを知っていて…。」
目の前で、礼子が浅川弘美を夜の食事に誘ったのである。
あの時の場面は、つい数時間前の事である。
思い出しても、純一自身には、予想もつかない展開だった。
何が何だか分からないその状況に…、
純一は、ただ、ただ、礼子と浅川弘美の両方の顔を交互に見て、
その場を繕う以外に術はなかったのだ。
けれども…ある側面では、純一としても、
礼子が浅川弘美に、何か、自分の事で変な事を吹き込まないか…、
とも、 考えていた事は確かである。
事実、純一の今の状況下では、
どのように思惑を巡らせるかと言っても、
にべもない方向に、ひとり歩きをしていたのだ。




