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弘美と純一の場合 vol.74. 待つのは嫌い。
今までかつて経験のないこの状況に、
純一自身、数分、何一つ、どうする事も出来なかった。
けれども、相手の左から、
その豊かな胸に自分の右手を添えられ、
しかも、相手の右手が、純一の左手を持ち、
タイトスカートの裾を手繰りストッキングに指が触れた時に、
ようやく我に返った。
その瞬間、確かに…「恐い。」と、
純一は感じたのである。
だが…、その「恐い。」と感じた瞬間、
それとも別に、全く違った意識も感じたのである。
それが…「ごめんなさい。僕…駄目です。」
その言葉と同時に、体に自分の力が甦り、
ようやく礼子と密着していた体から離れる事が出来た。
礼子に何か言葉を掛けたかったが、
まだ、純一の頭の中では、その状況の意味を認識できずにいた。
「藤崎君、ごめんね、こんなことして…。」
「……。」
「…でも、私はこういう女…。」
「……。」
「自分が感じたい事は、自分から求めて行く方なの。待つのは嫌い。」




