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弘美と純一の場合 vol.55. 「口紅…。」
社に戻り上司に打ち合わせの結果を報告し、
自分の席についた時に、
真向いの後輩から「先輩、何かありました…???」と、
少しニヤリとした顔で問いかけられた。
「何…???どうもしないけど…。どしたの…???私の留守中に何かあったの…???」
後輩の佐也加は、辺りには聞こえないように、
素早く目線を左右に配らせて、
右手を広げて口元に持って行き、
「口紅…。」と呟いた。
一瞬、弘美もドキッとしたが…、
「…えっ、口紅…???口紅がどうしたの…???」と聞き返した。
すると佐也加の口から飛び出した言葉が…、
「ちょっとね…。先輩が出掛ける前のとは違ってるかな…と思って…。」
さすがに鋭い観察力である。
吉川佐也加、30代の女性ではあるが、未だに未婚。
但し、男性遍歴は中々どうして、恋しては失恋し、
その数も20代から数えて数回である。
中々縁のある男性には恵まれなかったが、
それでも意外と憎めない女性なのである。




