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弘美と純一の場合 vol.43. 幼少時代
それに、純一自身、通常では母親から注がれる、
愛情と言うものを知らずに育ってきた。
傍には姉がおり、姉だけが心の拠り所ではあったのだが、
小さい頃には、学校の友達の母親や父親を見て、
家に帰り姉や生前の父親に、「どうして僕には母さんがいないの…???」と、
素朴に訊ねたものだった。
その度に、父親は「純一の母さん…???いつも家の中にいるじゃないか、ちゃんと純一の事を見ていてくれてるんだよ。父さんやお姉ちゃんも、ホラ、あそこからいっつも見てくれているんだよ。」と、
仏壇の妻の写真を指差し、
子供に隠し事をするのが嫌いな父親で、
そのままの通りに純一に話して聞かせる父親。
但し、事故で無くなった事だけは、
まだ小さな純一には酷に感じられ、
そこまでは触れる事はなく…、それでも出来るだけ、
あるがままの事を教えて聞かせる父親だった。




