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弘美と純一の場合 vol.29. 「ここが…彼の…」
無事に商談が済み、来た場所を同じく通りながら…。
さっきのブース。もう既に、彼の姿はなく、
何事もなく、外には出るのだが、何事もなく外に出た分だけ、
何かしらの余韻が…ある種の胸騒ぎとなって、
弘美の体に「寝ていたものを起こした」と言う、
事実があるのも確かであった。
その証拠に、脳裏に過る「ここが…彼の勤め先…。」
と言う思いがけない現実がインプットされたのも間違いない事なのだった。
小さな波紋は、その後も弘美の何気ない仕草から、
いつもの彼女に一つ、エッセンスが混じり始めたような、
感じを漂わせ初めていた。
彼女のこころが、そう命じているかのような…。
本人としてはそんな風には感じなかったかも知れないが…、
中にはそんな彼女に…何かしら…「どうか…したのかしら…???」と、
思われる「何か…?」を敏感に感じる同僚もいたのだった。