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弘美と純一の場合 vol.141. ムーラン・ルージュ。
それぞれのダンサーによって繰り広げられる舞台、
世界からのゲストが見守る中で、ショーは上品に、そして高級たる、
そして華麗なるままに続けられる。
それがヨーロッパで代表されるナイトショーであると確固たる優美さで…、
そして卓越された動きによってである。
オーディエンスはそのショーに見惚れ、賛美を贈り、
そして浪漫すらも感じられた。
そんな舞台を目の当たりにしながらも、
ここでしか与えられない状況、大衆の前でしか味わえない、
つまりは誰も周囲の動きには注意を引こうとしない。
敢えて言えば、他人の事など、一切気にすることなど考える必要もない…、
こういう状況で、弘美も純一も、お互いの視線を感じる事によって、
ようやく、お互いの思いを感じる事が出来たと言う実感を掴みかけたのである。
もの言わぬ視線が、一本の糸にそれぞれの思いが緩やかに、
両端から辿るように近づいて絡み合うように…。
そして、その実感が弘美と純一の、お互いの胸の中で、
小さくも確かな鼓動となったのだった。