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走馬灯
弘美は泥酔しながら、テーブルに顔を伏せ、
体を震わせていた。
次第に嗚咽する弘美を抱き抱えるように、
裕子はその体を静かに、
そして優しく撫で、椅子から床に降ろして、
髪を撫で、背中をゆっくりと優しくさすってやるのだった。
「分かってる、あんたがこんな事するはずないってことくらい、私分かってる。…でも、どうしようもない。…もう…帰ってこないんだよ、哲也さんは。」
裕子に抱かれながらむせび泣く弘美…。
「あんたがこんな事でどうすんの、いつものあんたらしくないよ。いつものあんただったら、もっと前、向いてたよ。」
今まで頭の中を駆け巡っていた夫、哲也との日々の生活の思い出と、
裕子の過去が早送りから、ようやくこま送りのように戻り掛け、
静かなモノクロのフィルムのように、
仕事にも結婚にも、周りが羨む情景が、
ゆっくりとではあるが…、甦りつつあった。